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10-10 学年対抗戦2

 学年対抗戦、目玉イベント。

 魔術クラストップの4人による、試練の塔最速踏破チャレンジが始まった。


『はぁーい、ここからは実況中継のバレッタ・ブラッドウェイがお届けしまーす!』


 キンキンと拡声魔具がうるさく鳴っている。

 湖畔に集まった私たちは、録画魔具を通して学院にリアルタイムで中継されている。


 実際には一人に一つずつ追尾する録画魔具が与えられ、行動を見られているのだけど。

 私のメイド姿が全校生徒に見られていると思うと嫌すぎる。


『ルールの説明をしまぁーす! 試練の塔の内部には、各先生方による悪辣な罠が仕掛けられています! その罠をかいくぐり、塔の最上階にたどり着いた時のタイムを競っていただきます!!』


 罠か。

 塔を上るには鍵が必要だから、きっとその鍵を入手するために何かするんだろうけど……先生方による悪辣な罠?

 すでに嫌な予感しかしない。

 

『挑む順番は〜! 上級生からが毎度おなじみのお約束ですから、先輩方は頑張ってくださいねぇ〜!』


 と言うことは、私は最後か……。

 しかも女子は私だけ。


『ちなみに、挑む罠はランダムに変わりますので、後攻有利だとは限りませんからね〜!』


 中継を見てても、攻略のヒントは無さそうだね。

 じゃあ私は時間までひと眠りしようかな。


 湖畔の前にピクニックシートを出して、私は胸に手を当て目を瞑る。


「アリアさん……余裕すぎでは……」

 

 ラファの声が聞こえてきたが、今は精神を集中させているのだ。

 こういう勝負の時は、緊張して待つよりリラックスする方がいい。


 ざぶん。と湖に飛び込む音がした。

 4年生の人だろう。


『――起きてください! 聞こえてますか〜? アリアーデ選手、あなたの心に話しかけていますよ〜』


 ……いつのまにか本当に寝ていた。


「ごめんなさい、寝てました」


『いえいえ! 皆さん大体20分程度でクリアしましたよ〜! 準備は大丈夫そうですか!?』


 だいたい1階ごとに4分くらいでクリアしてるみたいだね。

 まぁ湖の中を泳ぐ時間を考えると……。

 って別に泳ぐ必要はないよね。


「はい。いつでも行けます」


 湖のほとりに立って、私は録画水晶を掴んだ。


『では〜3、2、1、スタート!!』


 瞬間に私は試練の塔の入り口まで転移した。


 そのまま中に入って、録画水晶を手放す。


『な、なんと転移で侵入したぁああ!!』


 うわ、録画水晶から実況の声が聞こえる。

 すごく気が削がれるんだけど……。


♢♢♢


「アリアちゃん、攻めるわねぇ!」

「姫様が1番に決まっています」


 広場に開設された視聴ブースにて、各々が座りながらスクリーンを見ていた。


「アリア本気で寝てたよね。まぁ、あの塔だったらアリアが負けるはずないもんね〜」

「他の参加者には可哀想だけど、相手が悪いね」


 アリアーデを知る人全員が、勝利を確信していた。

 あの部屋に辿り着くまでは。


♢♢♢

 

 録画水晶が私を追ってくる。

 よく私の速度に追いつけるなぁ……。


 魔物も、障害物も、全て瞬殺してきた。

 多分見てる人はつまらないだろうけど、今回は圧倒的に勝利させてもらう。

 

 3階に上がると、大森林の真ん中に白いカラオケボックスみたいな部屋があった。

 扉には"ここに鍵があります"と書かれていた。


 とても嫌な予感がする。

 悪意が隠しきれていない。


 でもここで立ち止まるわけにはいかなかった。

 私は素早く部屋の中に入ると、勝手に扉が閉まり、開けられなくなった。

 

 そして、目の前には鍵と、こんな文言が。


 "好きな人の名前を言わないと出られない部屋"


 ックソ! バカ! アホ! おたんこなす!

 なんで私の時に当たるんだ!!


 こんなことをするのは1人しか知らない!

 むしろ過去にあった!!


『おおっとー!? これはノアール・キンブレー先生の仕掛けた罠です! 先生からは、中庭で恋占いをしているので宣伝してくれと言われています!!』


 はぁ?

 恋占いしてるから、好きな人の名前を言わないと出られない部屋を作ったとでも言いたいわけ!?

 

 こんなところで本当の事を言ったら、学院のみんなから揶揄われるし、教師に恋する生徒って生ぬるい目で見られるわ!!


『どうしたアリアーデ選手!? しゃがみ込んで両手を顔に当てているぞー!! なんたる可愛さ!! 今、学院内の全男子生徒が、あなたに名前を呼ばれるのを待っているぞー!?』


 うるさい!!

 しね!!


 だめだ、誰の名前を言えばいいんだ!?

 正解がわからない!

 こんなところで時間を潰している暇はないのに……!


『おおっと、今度は地面に伏せってしまったぞ!? アリアーデ選手は、一体誰のことが好きなんだぁあ!?』


 煽るな!

 実況するな!

 ああ、もう無理だ。

 棄権する?

 ……でも、そんなのハンスに負けたみたいで悔しいじゃない!


 私は立ち上がって叫んだ。


「ラファニエル・ユーリス!!」


 一番無難な名前を叫んで、鍵を持って部屋を出た。

 ごめんラファ! あとで謝るから許して!!


『顔が赤い!! アリアーデ選手、大幅にタイムロスしましたが、それでもまだ優勝を狙える圏内にいます!!』


 ♢♢♢


 ノアール・キンブレーこと、ハンス・レガリウスは、たまたま現地から帰ってきていたラファニエル・ユーリスと共に実況中継を見ていた事を後悔していた。


『ラファニエル・ユーリス!!』


「え、僕!?」


 真っ赤な顔ではっきりとそう叫んだアリアーデは、今全力で走っている。そして途中で躓いている。


『な、なんと! アリアーデ選手の想い人は、現在トップのラファニエル・ユーリス選手だった!?』


 周りの人達の目がラファニエルに行くのが見えた。


「あはは……多分違うと思うけど……」


 ラファニエルはこちらを見ると、肩を跳ねて逃げるように転移した。


「そう……ですか」


 ぽつりと出た言葉は、喧騒にかき消された。


 ♢♢♢


 ああ、全然進めない。

 魔法の発動が不安定だ。

 こんなはずじゃなかったのに。


 私がここから出たら恥ずかしい目に遭うんだと考えたら、足が重い。

 何より、自分に嘘をついてしまったことが……辛い。


 見ていてって言ったのに。

 見てくれてると思うから、余計に辛い。

 だから、早く出て……違うって伝えないと。


 出てくる魔物を倒して、最終ギミックの鍵の複製も1発で当てて、最上階にたどり着いた。


「おめでとうございまーす!! アリアーデ選手、堂々の19分35秒フィニッシュです!! 優勝おめでとうございます!」


 こいつか。バレッタ・ブラッドウェイ。

 のほほんとしたボブカットの司会実況。

 私の中の殴りたいリスト1位に躍り出たのは。


「……ありがとうございます」


「優勝者インタビューいいですかぁ〜!?」


 無言でいると、ニヤニヤと笑いながら近づいてきた。


「まさかアリアーデ選手の想い人がラファ君だったとはねー! まあ、あの子人たらしだからしょうがないけどね〜」


「違います。特に思い付かなかったので言いました」


 バレッタの表情が温かいものに変わった。


「ほほう!? あんな表情をしておいて、ですか〜〜!?」


 こいつ、エンタメに振り切りすぎだろ。

 いつか刺されるぞ。


「帰ります。お疲れ様でした」


「あ〜! 待ってください〜!! また明日表彰式があるので、お忘れなくー!!」


 私はハンスに会うために転移しようとして気付く。

 どうしよう。

 今人の多い占いの館に行ったら絶対に社会的死が待ってる。


 だったら――。

 私はハンスの教員用準備室でハンスを待つ事にした。

 すぐに転移して、私は見た。


「え……」


 片膝を抱えて、葉巻を吸いながら黄昏ている彼を――。

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