表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ぬるいコーヒーをもう一杯

作者: ほろほろ

 大学時代に知り合った、仲の良い友人Kという男がいる。

 大学1年の時に知り合ったが、仲の良くなったのは2年生の時だったと思う。

 いつの間にか一緒に過ごす時間が多くなり、互いの考えや将来の夢を語る間柄となった。


 そんな友人Kと話す場所は、たいていどこかの喫茶店だ。

 1杯300円のコーヒーを飲み干す間、お互いの考えをぶつけあう。


「将来は途上国で働きたいと思ってる」

 と僕が発すれば

「目的は何?どうやって実現するつもりなの?」

 とKから鋭い質問が返ってくる。


 コーヒーの熱い内に会話が終わることはほとんどなく、たいてい、ぬるいコーヒーの何ともいえない後味を身体に残しながら店を出る。


 漠然とした想いだけを持っている僕と、冷静に将来のことを考えているKとは、水と油ほど性格が異なる。

 自分の夢や進むべき道がはっきりしているKは、案の定というか順調に誰もが知っている大企業に就職した。

 一方の僕は就職活動を途中で辞め、はっきりとした目的のない状態で大学を1年間休学していた。


 休学している間も、社会人となったKとは時々会っていた。

 着々と社会人として成長しているKと飲むコーヒーは、いつの間にか僕を焦らせる飲み物に変わっていた。

 Kと対等の関係でいたいと思った僕は、それから自分でも驚くぐらい真剣に自分と向き合い始め


「貧困に苦しむ人たちの力になる」

 という夢を目指して行動するようになった。


 そして卒業後、向かった道は『ボランティアで2年間アフリカへ行く』ことだった。

 Kにも胸を張って伝えられた、自分で決めた道だ。

 そんなある日、あれはアフリカへ行く前日だっただろうか。Kが、突然1通のメッセージを送ってきた。



 君は自分にとって大切な存在だったわけです。

 君に対しては競争という概念を持ったことがないという点で。

 ただ、たくさんの約束をしてきたように思う。

 何かを目指してたくさん約束をして、たくさん結果を共有してきた。

 そういった約束が明らかに僕らにとって大切だったわけですね。

 次に会うのは何年後だろう。

 楽しみにしてますよ。

 そして、楽しみにしてなさいよ。

 僕を甘く見るんじゃない!

 まずは4年目には会社で突き抜けてみせる!

 お前も突き抜けてこい!

 お互い突き抜けまくったら、またコーヒーでも飲んで話をしよう



 普段冷静なKから送られてきた気持ちのこもったメッセージは、アフリカへ行く僕の不安を払拭してくれた。

 それまで意識していなかったが、Kと喫茶店で語り合ったことの中にはたくさんの約束が存在した。

『簿記2級の取得』『◯◯企業からの内定』といった真面目なものもあれば『◯◯ちゃんに告白』といった他愛もない約束もあった。


 叶わなかったこともあったが、Kと山のように交わしてきた小さな約束たちが僕を前へと進ませ、今の自分がある。

 そんなことを感じさせてくれた、Kからの温かいメッセージだった。


ーーそれから5年が経った。


 現在、僕はアフリカで会社を設立し、自分の夢への道を歩み始めた。

 正直言って、アフリカでの生活は楽ではない。

 信じていた現地人に騙されたり、路上でいきなり首を絞められ金品を強奪されたりと、常に神経を張って生きる毎日だ。


「ちょっとつらいな……もうやめようかな」

 恥ずかしながら、そう思った瞬間は何度もあった。

 それでもここまでやってこれたのは、Kの存在があったからだろう。


 自分が挫けそうになっているこの瞬間、Kはどうしているだろう?と想像してみる。

 すると、不思議と決まって100%、努力して前へ進んでいるKの姿が目に浮かんだ。


「諦めるのはまだ早いかな」

 そうしてまた気持ちが切り替えられる。


 Kは、近くにいなくても、直接言葉を交わさなくても僕を叱咤激励してくれる、特別な存在といえるだろう。

 

Kとは日本に戻る際、必ず連絡を取り合うようにしている。

 今では年に1度会えればいいほうだが、会うと決まって喫茶店に行き、そこで何時間も語り明かす。


 喫茶店のグレードは大学時代と変わらず、1杯300円。そこでコーヒーがぬるくなるまで話す。

 ぬるいコーヒーを飲み切る頃には、また新しくいくつかの約束が交わされている。


「次に来た時は、俺の娘に会ってよ」

「うん、その時は僕の息子も連れて行くよ」


 そんな小さな約束たちを胸に、僕は再びアフリカへ向かう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ