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アレクサンダー建国記  作者: 稲荷竜
十章 森の民の時間
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96話 未知との遭遇

 ウー・フーの髪がすっかり緑色に染まるぐらいの時間が経ったころ、村の見張りに出していた若者が、こんなことを叫びながら戻ってきた。


「へ、へんな、でっかい生き物が、東に!」


 かんべんしてくれ、と思った。


 ウーは村でもっとも高い台座にいて、あらゆる報告を聞く立場にあった。


 舞い込んでくる様々な相談事に妄想で答えを出していく長老生活は肌に合っていたようだ。


 相変わらず、前の里を襲ったばけものへの対策はなにもないが……


 そのばけものはどうやら、決まった穴から時々出入りするだけの存在のようで、今の里には来なかった。


 けれどその穴がまた唐突に増えないとも限らない。

 そして相変わらず、森を通る男はいない。

 二百年か三百年前にはそれでもぽつぽつといたが、今は本当に、ぱったりといなくなってしまっている。


 年寄り衆のいっさいがばけものに襲われ、若者はいるが子の残しかたを知る者は里に一人もおらず、しかも、男そのものも一人も来ない。

 里の子らは男どころか自分たち以外の人種を見たことさえなく、このまま里は滅びていくのだろうと思われた。


 救いなのはウーが他の里人の誰より早く寿命で死ぬだろうということだった。

 最後の長老にはならずにすむ。


 けれど――


 ――姉ちゃん、ごめんな。ウーたちは生き続け(・・・・)られんよ。

 ――そのうち、ウーたち森の民がいたことさえ、みんな忘れる。

 ――姉ちゃんを生かして(・・・・)やりたいけど、ウーには無理じゃもん。

 ――ウーは、なんもできんよ。


 そしてまた、厄介ごとが降りかかる。


 ウーはあきらめからくる冷静さで若者を落ち着かせ、『へんなでっかい生き物』の姿かたちに対して、もっと詳しく語るようにうながした。

 若者は悩み悩み、語る。


「かたちは、我らとおんなじ感じじゃろうか……」


「でも、でっかい。我らと同じかたちで、我らの倍ぐらい、でっかい」


「おんなじぐらいのもいた。そう、三体いた」


「耳の丸いのと、とがったのが二人。とがったのは、片方が真っ白で、目の色が左右で違った」


「なんか着てるものがすごくあざやかで綺麗じゃったなあ」


「あ! しゃべっとった! 声が低い! 遠くからでもお腹に響く!」


 ウーは考える。


 自分たちと同じかたちで、でっかくて、声が低い。


 しばし、考えて……


 目をカッと開いて、叫んだ。


「男じゃああああああああ!」


「男!?」


「あの伝説の!?」


「実在したのか!?」


「ええい! わめくな、こまいの! 男じゃ! え? 東? 西からではなく? まあよいまあよい! とにかく男じゃ! なんとしても連れてこい! 里は滅びんぞ! このウー・フーが引き寄せた男じゃ! はよ連れてこい! さっさとせい!」


「「「「うー・ふー!」」」」


 見張りたちがバタバタと走っていく。


 ウーはカッと目を見開いたまま、呆然としている村の連中にも告げた。


「全員で行けい! せめて一人だけでも里に連れてこい! どんな手段をつかってもかまわん!」


「うー・ふー!」


 里の森の民たちがバタバタと走っていく。


 ウーは高台に座ったまま、空を見上げて、ぽつりとこぼした。


「姉ちゃん、母ちゃん……ウーはまだやれそうじゃ」


 久方ぶりに、ゆったりと眠れそうな気分だった。

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