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アレクサンダー建国記  作者: 稲荷竜
九章 真白なる夜に
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87話 茶番

「ほどよく栄えたいい街じゃねーか! 気に入った! 今日からここは、俺がいただくぜ!」


「兵たち、前へ! あの少年と、髪の長い長耳(エルフ)の男を押し包め! そして――『真白なる夜』の諸君、どうか、協力を頼みたい。これは街そのものの危機である!」


「ようやく終わったか。では、闘争を始めよう!」


 というようなことがあって、街を守る戦いが始まった。


 髪の長い長耳の男の力はあまりにも強大だった。

 だが、それに対する統合区画長ダリウスもまた勇壮だった。


 傷をいとわぬ突撃を繰り返し、なにかに刃を阻まれ、焼かれ、凍らされ、削られ、切り刻まれながら、何度かの突撃の果て――


 ついに、ダリウスの曲刀が、エルフの男を肩口から斬り裂いた。


 だが、その傷は奇妙に浅かった。


 武の心得がある者が見れば、ダリウスがエルフの男に刃を入れる直前、不自然に肘を曲げて刃を引いたように見えただろう。

 だがその不自然さに着目し、深く考える者はいなかった。

 少しだけ考えた者も、そもそもあのエルフの男は不可視の壁で何度もダリウスの剣を止めている。そういう手品が行われたのだろうということで納得した。


「ぐうっ……馬鹿な……!? だが、面白い。これでこそ闘争……!」


「サロモン! この馬鹿! 引き際だ! 死ぬぞ!」


「死などいとわぬ。強者との闘争こそ我が本懐」


「くそ、話が通じねー! どういう育て方したらあんなバトルマニアになるんだよ!」


 遠い地でサロモンの兄にあたる男が急に頭を抱えたくなったという。


 ともあれアレクサンダーは『背後から殴って意識を途絶えさせる』という方法でサロモンの戦意を絶えさせ、そのまま肩にサロモンを抱えて撤退を開始した。


 街が勝利したのだ。


 誰も追撃をおこなわなかったが、それを不自然だとか、怠慢だとか述べる者は、少なくともその場にはいなかった。

 ダリウス、兵たち、そして真白なる夜たちの状況は本当にひどいものだった。

 武装が砕け尽くし、立ち上がることもできないほど疲弊していた。満足な追撃などできないと、誰の目にもあきらかだった。


 現場を見ていない者や、未来、この状況を忘れてしまった者から、追撃のなかった理由を好き放題責められはするのだろうが……

 ともあれ、街を襲ったアレクサンダー一派と、ダリウスたちとの戦いは、アレクサンダー一派の撤退というかたちで、街の勝利に終わった。

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