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アレクサンダー建国記  作者: 稲荷竜
八章 ダリウスと六人の仲間たち
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66話 偶然/運命

 その集落には地下の深くに続く穴があった。


 その穴の先には暗い迷宮がある。

 危険な怪物が出て、難解な仕掛けがあって、当然ながら入ったら必ず生きて帰れるとは限らない、そんな穴だ。


 そこに入る役割を負わされたのはもちろん『真白なる種族』ではなく、それ以外の、それ以下の種族だった。


 中でも特に跳ねっ返りで、真白なる種族への信心(・・)が足りなくて、危険な思想や行動が目立つ者が入れられた。


 ダリウス少年もそういった『穴に放り込まれる危険人物』のうち一人だった。


 その穴は危険だったけれど、集落はその穴のそばから移動することはなかった。

 なぜなら穴の中には、危険に見合うだけの『お宝』があるからだ。

 村の技術ではとても生み出せない金属。怪物どもからとれる不可思議な素材。時には剣や鎧など、すでに出来上がった製品さえ存在した。


 これは先史文明の遺産とみなされていた。


 ここに入り、危険を冒しながら、中にある素材や道具を持ち帰る。

 ダリウスはそんな役割を負った『迷宮夫(めいきゅうふ)』の一人だった。


 もちろんきつい仕事だ。

 ダリウスがこの穴に放り込まれた時、そこには十人の仲間たちがいた。


 いや、それを仲間と述べてもいいものか……


 迷宮夫たちはたしかに、危険な思想や行動から穴に入れられ、素材や道具を運び出す時以外は地上に出してもらえない者たちだ。

 満足に光を浴びることのできない境遇をともにする仲間たちではあるのだろう。


 けれど、迷宮夫たちは、定期的に、『許された』。


 一度穴に落ちても、そのあとの働きぶりによっては、また地上に戻っていいとされたのだ。

 そして地上に戻れるのは年に最大でも一人だけだと決まっていた。


 危険な穴蔵で寝泊まりする生活はみな、いやなものだった。できうるなら地上に戻りたい願望がほとんど全員にあった。


 そこで迷宮夫たちがとったのは『他の迷宮夫たちの足を引っ張る』という行動だった。


『まじめな働きぶりを監査役に見てもらう』『大きな功績をあげてそれを認めてもらう』……そういう正道(せいどう)よりも、他の者たちの評価を落とす邪道のほうが手っ取り早かったのだ。


 それに、迷宮夫の多くは気づかなかったが、その制度そのものが、迷宮夫たちに連帯感を持たせないための、真白なる種族による罠でもあった。


 だから、迷宮夫たちを管理する真白なる種族はうまく迷宮夫同士の対立をあおるようなことをたびたび述べたし、多くの者は、自分たちが踊らされていることに気づかず、足の引っ張り合いを繰り返した。


 ところがこの構造に気づいた者が出た。


 そのうち一人はダリウス少年であった。


 彼には『自分は他と一線を画する能力の持ち主だ』という思い込みがあったため、人が争う場面では静観するし、人が躊躇(ちゅうちょ)する場面では前に進もうとするし、人が自分をいさめるなら『愚かなお前にはわからない』と思いつつ忠告を無視する性分があった。


 逆張り癖。


 それは自分を賢く特別だと思い込みたい少年少女の多くが陥るものだろう。

 人のやらないことをやれば、なんとなく、自分の特異性――優秀さが際立つような気がするものだ。

 それが周囲からはただの『変わり者の奇行』にしか映らなかったとしても、そんな周囲の目に気づくほどの客観的思考はできるはずもなく、できたとして、『馬鹿な連中には理解ができないだけだ』と鼻で笑うことで自尊心は維持された。


 そしてダリウス少年が幸運だったことに、たまたま、彼の逆張りは正しかった。


 争う周囲が、誰かにより争わされている――それは根拠のない陰謀論でしかなかったのだけれど、その逆張りからなる陰謀論は、偶然にも正鵠(せいこく)を得ていた。


 ダリウスと同世代の者に、きちんと情報を集め、根拠をもち、迷宮夫同士が足を引っ張りあう構造の醜悪さと、それを仕掛けた真白なる種族への怒りを抱いた者がいた。

 その賢い若者により同意され、仲間とみなされ、ダリウス少年は革命に向けて走り始めることになる。


 こうして、その長耳(エルフ)の少年と、ダリウスは、一生涯の友となった。

 ダリウスがその少年を殺すまで続く、友人関係だった。

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