65話 誇大妄想
八章 ダリウスと六人の仲間たち
俺が世界を変えてやる、という意気込みにあふれていた時代があった。
ダリウスが少年だったころの話だ。
もうずっとずっと昔。遠い遠い、決して戻れない過去の、思い出すのも恥ずかしいような、そんな時期の話だ。
ところがそんなことを思っていた幼いダリウスにはなにもなかった。
正義感もなく大義もなく、才能も実力もない。
ただ、根拠もなく自分は特別なのだと思っていた、それだけだった。
その集落は少数の『真白なる種族』が多数のその他種族を従えて成立していた。
なぜって『真白なる種族』は違うのだ。
そいつらは美しかった。そいつらは頭がよかった。そいつらは器用で、そいつらは素早かった。
優れたモノが劣ったモノを従えるという自然の摂理がその集落にはあって、生まれてくる『真白なる種族』はみな優れていたから、当然のように、その種族による支配体制が布かれていた。
真白なる種族と、複数の奉仕種族で、その村はできていた。
複数種族が混在している理由は簡単だ。
『真白なる種族は、異なる種族同士が交配した場合に、たまに生まれる種族』だから。
これは、真白なる種族同士が交配しても、子が同じ種族になるというわけではなかった。
真白なる種族同士の子は、その親世代のどれかの種族になるのだ。
だから集落は旅人を受け入れたり、時には他種族をさらったりして、維持された。
真白なる種族を産み落としたつがいはおおいに喜んだ。
なぜって自分の子があの、真っ白い髪の、真っ白い肌の、左右で色の違う瞳の美しい種族として生まれてくるのは、吉兆なのだから。
真白なる種族を産み落とした女は神に祝福を受けたとされたし、真白なる種族の父となった男には様々な特権が与えられた。
自分たちとは違う『真っ白い子供』を授かることを誰もが望んだ。
自分たちのどちらとも似ていない真っ白い子供を、親は愛し、慈しみ、健やかに育つことをなにより望んだ。
たとえ種族が違っても、親が子を愛する幸福な暮らしがそこにあった。
ダリウスという少年が成し遂げたのは、そんな幸福をぶち壊すことだった。
だからこれは、なんでもできると思い、なんにもできなかった少年が、革命を成し遂げた話だ。
本人が思っていたよりもずっと、成し遂げてしまったという、話なのだ。