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アレクサンダー建国記  作者: 稲荷竜
六章 真白なる種族
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57話 『真白なる夜』

 あとは、手を差し伸べるだけでよかった。


 虐げられている『同胞(・・)』のもとへ行き、「あなたの受けている扱いは不当なんですよ」と教えてあげる。


 虐待を受けている少女を救って「あなたのされたことを、相手にもしてやりたいと思いませんか?」とささやいてあげる。


 目の前で親を殺された子の前にひざまずいて涙を流し「君の親が死ななくていい世界に。いずれ生まれる君の子が、目の前で君を殺されて、同じ悲しみを背負わなくていいように」と訴えかける。

 もちろん、逆もやった。目の前で子を殺された親に向けて、言葉を入れ替えて同じことをした。


 そうしていくうちにバラバラだった『真白なる種族』は徒党を組み、いつのまにか彼は頭目に祭り上げられた。


 けれど、それでは、困るのだ。


 力を一つの意思のもと束ねあげてしまうと、強くなって、ひとかたまりになって、街への反逆を達成しかねない。

 だから彼は、組織した集団をあくまでも『助け合い』を目的としたものにした。

 誰か一人の意思で一丸となって行動できる集団ではなく、みんなが困った時にばらばらと力を貸し与えるという、なるべくゆるく、なるべく長続きし、そして、けっして革命を成し遂げない牧歌的な集団にする必要があった。


 だから、彼は、自分の説得のもと集めた『真白なる種族(どうほう)』たちに、こう述べた。


「ここはみなが安心して過ごし、困った時にはお互いに手を貸しあえる組織――互助会(ギルド)です。ひどいやつらに見つからない場所、深い夜をさらに不透明にする、夜の霧の中なのです」


 すなわち、『真白なる夜』。


 霧のかかった夜闇の中なのだった。ただ真っ暗なだけだと、『真白なる種族』は潜めない。

 髪も肌も真っ白な彼らがつらい出来事を忘れて身を休めるには、白い白い霧が必要だった。港町の夜に深い霧がかかると、その夜は一面が真っ白になるのだった。


 このころから彼は組織名である『真白なる夜』をその名前代わりにされるようになる。

 彼には名前がなかった。

 ……いや、正しくは、捨てた、と述べるべきだろうか。


 この街の支配者のもとで育てられていたころ、つけられた名前はあった。

 けれどそれはいつ誰が聞いていたかもわからないもので、密命を受けている立場で名乗るのははばかられた。


 その後、てきとうな名前を名乗らなかったのに、特に理由はなかった。

 強いて言えば、他者の頭の中で自分の像をハッキリさせたくなかった、というところだろうか。

 名前があると、イメージしやすい。

 彼はイメージを抱かれるのを嫌った。それは隠密性を損ねるし、なにより、他者の中で自分という存在が勝手に像を結ぶことに、ひどい嫌悪感があったのだ。


 だが、名前はできてしまった。


 組織は誰が長でもなく、全員が平等だということを言って聞かせた。

 それでも『真白なる夜』は彼が救った人たちに、彼が呼びかけてできた互助会だった。発起人であり、頭目のような役割を負うのは避けられない。


 こうして彼は『真白なる夜』となった。


 港町の夜に逍遥(しょうよう)する都市伝説は、こうして組み上がった。

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