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アレクサンダー建国記  作者: 稲荷竜
六章 真白なる種族
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56話 この上なく平等で、かつてないほど平和な世界

 その『真白なる種族』というものはどうあっても差別から逃れることができない。

 なぜなら、ひと目見ただけで『それ』とすぐにわかるからだ。


 真っ白い肌と髪。

 左右で色の違う瞳。


 色素の薄い肌の種族はいても、白い絵の具でも塗ったかのような肌色の種族は『彼ら』以外にはいなかった。

 赤と青の瞳を持つ種族も他にはいなかった。


 そしてなにより、その種族は、とてもとても美しかった。


 誰もが見惚れるほどの美貌があった。

 誰もの嗜虐心をそそるほど美しかった。

 誰もの所有欲を刺激するほど綺麗で、『こいつらをいくらでも差別していいし、人として扱わなくていい』と言われたならば、差別にいたった背景を知らない者の中にさえ、暗い欲望がたぎるのを抑えられないほど魅惑的だった。


 また、見た目ではない特徴として、彼らは非常に優れて(・・・)いた。


 種族全体が物覚えがよく、器用で、たいていのことはすぐにこなせる。


 その天才性がまた、ほかの種族を刺激したのは言うまでもないだろう。


 彼らは長耳(エルフ)より美しく、俊敏だった。

 彼らは太短(ドワーフ)より器用で、仕事の覚えがよかった。

 彼らは当たり前のように多くの人間より優れていて、しかもあらゆる種族のいいところだけを煮詰めたような、完全なる存在だった。


 それは出生に理由があるのかもしれない。

 彼らは違う二種族のあいだにたまに生まれることがある種族だった。

 両親のどちらとも違う種族として生まれる『真っ白い子供』。夫にとっては誰か自分ではない(たね)からできたように感じられる、妻にとっては働いてもいない不貞を疑われる契機となりうる、そんな種族なのだった。


 まざりもの(・・・・・)。とりかえ子。

 あるいは、魔物に(はら)まされた子。


 論理的には我が子に違いなくとも、自分とも夫とも似ていないその種族は、心理的な嫌悪感を生むようだった。


 ……たとえばそれが、『神に授かった』などの背景をつけられた子であれば、吉兆として歓迎されたかもしれない。


 けれどそういった宗教はすっかり失われてしまっていた。

 この街が今のかたち(・・・)になったその時に、宗教や神といったものはまとめて排斥されてしまったのだ。徹底的に根絶されたのだ。

 口に出すことさえ厳しく禁じられて、もうすぐ二十年が経とうとしていた。


 だから、彼らは――『真白なる種族』は、生まれた時から差別される。

 美しく、賢く、強く。

 そしてわかりやすく違う(・・)もの。


 だからこそ人々は喜んで彼らを差別した。

 この、数多の種族が集う港町は、こうして大きな争いを忘れたまま、たった一つの種族にすべての罪と憎悪をかぶせることで、うまく回っている。


 人々のあいだに差別のない、平和で平等な港町。

 そこには人として扱ってはならない種族がいて、彼らのおかげで、人々は毎日楽しく暮らしている。

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