51話 創り手と竜
ドラゴンは地に落ちてなお健在。
翼と炎により集落に君臨し続けた神は、たった二人の人間とエルフに翼をむしられ、しかし人々を恐怖させる威容を失わなかった。
むしろより近い高さに降りてきて、その巨大さがよくわかる。
緑色に輝く鱗は鋼のようで。
広げた口の中には家が三軒も四軒も入ってしまいそうなほどでっかくて。
体躯はこっちの十倍も二十倍もあって、屈強な手足は山でもむしって投げてしまえそうなほどで、一歩一歩のたびに地面が揺れて、強靭な尾がわずかに蠢くたびに、あれがサッと伸びてこちらを薙ぎ払ってきそうで、気が気じゃない。
がぱりと口を広げて息を吸い込む動作を見れば、誰しもがあれの吐く炎のもたらした災害を思い出す。
その火炎が、空にいたころよりずっとずっと近い場所で、集落に向けて放たれようとする――
その時。
巨人が、立ち上がった。
それはたくさんの金属を継ぎ接ぎにした、ずんぐりむっくりとした人型の巨大金属塊だった。
平べったい頭、短い手足、大きな胴部。
その巨人はシルエットから想像されるノロマさを軽く裏切る速度で前進し、今まさに炎を吐こうとしていた竜を、体当たりで吹き飛ばした。
そこからの戦いはアレクサンダーに曰く『怪獣映画』だった。
巨人と竜は殴り合い、取っ組み合い、投げ飛ばし、投げ飛ばされ、そのたびに大地は振動し、人々がはねた。
ドラゴンの鱗が剥がれてあかあかとした肉がのぞき、巨人の装甲がはげて大地をえぐる。
攻防のうちにドラゴンのしっぽをちぎることに成功したが、代償に巨人は片脚を失った。
そこを狙い澄ましたように、ドラゴンが炎の吐息のために息を吸い、大きく胸をふくらませる。
だが、本当に狙い澄ましていたのは、巨人のほうだった。
片足を失った巨人が胸をそらす。
すると、胸から腹部までの装甲が真っ二つに割れ、中から大きな大きな筒が迫り出してくる。
そして、巨人の頭部――
コックピットにあたるそこに乗り込んだダヴィッドが、叫ぶ。
「ブレストキャノンだ! 死ねェ! クソトカゲェ!」
もっと子供受けするようなセリフで言え、とアレクサンダーが突っ込んだという。
ともあれ格納され出番を待ちわびていた必殺兵器は、ドラゴンに向けて巨大質量の弾丸を放った。
ほぼ同時、ドラゴンが口から火炎を吐き出す。
弾丸と炎は真っ向からぶつかり、そして……
集落を守り続けた天蓋。
それのもっとも出来のいい部分を集められて作り上げた弾丸は、炎を引き裂き、ドラゴンの頭部を貫いた。
巨人のほうは弾丸発射の反動で派手にころがり、とっくにブレスの圏外にいた。
ドラゴンは、通常のモンスターがそうであるように、光の粒子になって消えていく。
あとには剥がれ落ちた鱗と、切り落とされた翼、ちぎられたしっぽだけが残される。
転がり、逆さまになり、立ち上がることもできない巨人の中から、声が響く。
「ぶち殺してやったぜ、クソトカゲ」
集落から、ドワーフたちの怒号が響く。
アレクサンダーは『決めセリフを用意させておけばよかった』と嘆いたという