47話 壁
もちろん問題もあった。
まずはイメージだ。
ダヴィッドは思い描いたものはなんだってかたちにできる。
けれどそれには強固な想像力が必要なのだった。
『思い描いたものが、思い描いたような姿で、思い描くような機能を発揮する』と信じ抜くことが、絶対に、必要なのだ。
それから、もう一つの、これは個人の力ではどうにもならない問題がある。
素材。
ダヴィッドは念じるだけで作品を作り上げるが、無からすべてを生み出せるわけではない。
想像をかたちにするためには素材が必要で、アレクサンダーの案を実現するためには、莫大な、それこそゴーレムくんすべてを再利用してもなおぜんぜんまかなえないほどの、素材が必要なのだった。
ダヴィッドのすべての財産を放出しても集めきれない。
そもそも、素材量そのものがないだろう。
夢のような話を実現するための現実的すぎる問題。
それに、アレクサンダーはこういう回答を示した。
「村を覆う天蓋、あれさ、使おうぜ」
この村はドラゴンの炎から人々を守るために、天蓋が増設され続けている。
集落が始まってから増設に増設を、溶け落ちた部分には補修を加えられ続けているあの天蓋。
そこに使われたすべての鋼を使用できるならば、それは、無限の財産を得たに等しい。巨大ロボだろうが、巨大大砲だろうが、造れるだろう。
けれどあれは村の共有財産だ。『くれ』と言っても、もらえるものではない。
第一……
ダヴィッドは苦い気持ちで、この村のドラゴンに対するスタンスを話さざるを得なかった。
「この村はな、あのクソトカゲを殺そうっていう気概がねェんだよ。子供が、大人が、いくら燃やされたって、クソトカゲに逆らおうっていう気持ちにゃならねェんだ」
ここは、炎とともにある。
ドラゴンの吐く炎により鋼を打ち、栄えてきた。
その炎でいい鋼を打ち、そうして打った鋼があの天蓋の一部となることは、職人たちにとって誇るべきことなのだ。
その天蓋を。
職人たちが、一人前の証として鋼を提供し続けてきた、この村の誇りたる天蓋を……
ドラゴンの炎にもっともさらされるところに自分の鋼が使われたのだと、それこそが一流となった証なのだという、人々の喜びが詰まった天蓋を……
あの、空とこの村を隔てる、分厚い壁を。
……この村の誰も、手放したがらないだろう。
もしもこの村に『神』がいるのならば、それは、きっと、ドラゴンなのかもしれない。
けれどこの村で神格化されているのは……この村の象徴たりうるのは、あの、天蓋なのだから。
「じゃ、略奪しよう」
アレクサンダーはあまりにもあっけらかんと言い放った。
「ほしい。でも、もらえない。なら、奪う。……ほかに方法があるか?」
ない。
が、それは、『方法』にふくめていいものなのだろうか……?
「いいっていいって。俺たちってば食料とか略奪しつつここまで来たし。なあサロモン、そうだよな」
アレクサンダーは細長い男に語りかける。
細長い男は返事をせず、ただ、口元をわずかにほころばせた。
「悪いな、無口なやつなんだわ。……そういうわけで、巨大ロボの素材はまかせろ。村人全員拘束して要求すりゃいいだけだよ。ほら、命と引き換えにしたら、たいていの要求はどうにかなるわけだし!」
「いや、なるとは思えねェ。誇りってのはな、命より重いんだ」
「あーはいはい。なるほどね。価値観の上書きが必要ってわけか。いいじゃん、啓蒙しよう。こちとら本職は布教だからな。我ら、巡礼団!」
「……で、具体的にどうすんだ? 悪ぃが、アタシらは、すげえ頑固だぞ」
「まあドワーフだしイメージ通りって感じ。酒好きだろ?」
「……で、どうすんだよ」
ダヴィッドの問いかけに、アレクサンダーはニヤリと笑って、こう答えるのだった。
「今、考える」
大丈夫か、この連中。




