42話 彼女の作品
ある日を境に、村にはおかしなものが現れ始める。
それは中に巨人でも入っているかのような、大きな大きなヒトガタの金属塊だ。
最初はダヴィッドジュニアに……もはや『ダヴィッド』としか呼ばれなくなった彼女に連れてこられた。
しばらくして村人たちがその存在に多少慣れたころ、今度はダヴィッドをともなわずに、単体で出歩くようになった。
そいつらは『お使い』をこなすためのヒトガタらしい。
素材や道具といったものを調達に来て、無言でとっていく。
もちろん泥棒を働くわけではない。きちんと代わりになるものを置いていく。
村人たちはそいつらがダヴィッドの……『腕のいい職人』のものだから、ぶきみに思いながらも、追い払ったり、交換を断ったりはできない。
そうして『大きなヒトガタ』にお使いを任せられるようになると、ダヴィッドは村はずれの工房にこもったきり、出てこなくなってしまった。
それは村一番の打ち手であった彼女の父親とも似た性質だったものだから、老人たちも『いい作品を生み出す天才は、自らを孤独の中におく必要があるのだ』なんてしたり顔で言うだけで、ダヴィッドの引きこもりを注意するどころか、推奨するばかりだ。
とはいえ多くの村人はその『全身鎧の巨人』が気になってしかたなかった。
なにものなのか?
自分たちの倍もあるヒトガタなのだ。
全身鎧で一分のスキもなく体を覆った連中なのだ。
一言さえも発さない、無口すぎるやつらなのだ。
ダヴィッドはその連中といつ、どこで出会ったのか?
どうやって従えているのか?
しかし長老衆にも認められる腕のいい打ち手であるダヴィッドのお使いだ。
へたに手を出してダヴィッドや長老衆の怒りをかうのもうまくない。
大人はそんなふうに自制してしまう。
けれどいつどの世界、どんな場所にも『悪ガキ』というのはいるものだ。
興味のままに、社会通念や人間関係、それから旧態の権力を気にしない……いや、むしろ、そういったものに率先して逆らいたがる、連中。
ある日、悪ガキたちは『巨人』がお使いで得た品物をかすめとり、自分たちを追わせた。
そうして入り組んだ場所に連れ込むと、巨人を取り囲んで、その顔を隠す兜を取り上げてしまったのだ。
興味はあったが調べるまでいかなかった大人たちの、止める気を感じない制止の声を受けながら、悪ガキたちはついに、巨人の秘された内部を見て……
言葉を、失った。
鎧の中には、空洞があった。
『全身鎧をまとった巨人』だと思っていたものは、ただの『全身鎧』だった。
中身のないその鎧は、おどろく悪ガキどもから兜とお使いの品を取り返し、やけに人間くさい動きで胴部の上に兜を乗せると、のそのそと短い足で帰って行く。
取り残された目撃者の口から、その鎧の正体はまたたくまに集落中に広がり……
中身のない鎧が勝手に動くという怪談は、『ダヴィッドの発想、技術はやはりすさまじい』という方向で結論づけられ、誰もが深く考えることをやめたのだった。