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アレクサンダー建国記  作者: 稲荷竜
五章 打ち手と竜
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40話 叶わなかった夢

 トンテンカンテン、鋼を打つ。


 その集落は大トカゲの炎によってずいぶんと発展した。

 空を覆う金属の天蓋は、トカゲの炎にさえ負けないように、職人たちが知恵と技術を結集して作った逸品だ。


 この天蓋の主要部分に自分の打った鋼が使われることはとても名誉で、ダヴィッドは十四歳になった年にはもう、大トカゲの炎を一番浴びることになる部分に、自分の作品を置くのを許されていた。


 天才だと言われた。

 史上最高の職人ともてはやされた。

 もっとも美しい音曲を奏でる打ち手なのだと、絶賛する声が絶えなかった。


 それでもダヴィッドは心の中でくすぶる炎をたやすことができなかった。

 村の中で褒められれば褒められるほど、村人たちと心が離れていくような心地があって、ますます言葉少なく、ますます人と交わらず、ますます作品作りに没頭するようになっていった。


 幸い、この村は腕のいい打ち手でさえあれば、生活に困ることも、人からとやかく言われることもない。


 ダヴィッドはたった独りのまま打ち手としての腕を磨き続けた。

 最高の職人と言われ続けた。最高傑作を毎年更新し続けた。


 そうしてあらゆる人との交わりを避け続けた最高の職人ダヴィッドは、ある日、素材や道具の調達以外ではおとずれない村の中心部に来て、村長らにこう要求した。


「嫁が欲しい」


 それは村長らがずっと打診していたことだった。

 老人たちは喜び、ダヴィッドの血と腕を継ぐ最高の子を成せるよう、最高の女性職人を嫁にあてがおうと試みた。


 ダヴィッドはそれからというもの、村に来ては人々とコミュニケーションをとるようにもなったし、いやいやという感じで受けていた仕事も、喜んでこなすようになった。


 それで打ち手としての腕前が落ちたかといえばそんなこともなく、ダヴィッドは相変わらず村で最高の職人であり続けた。


 若い頃のような、周囲をあっとおどろかせる新技術を発表することこそなくなったけれど、基本的な技術の高さがうかがえるような作品を定期的に生み出して、村の玄人たちをうならせ、『最高の職人』の名に傷をつけることはなかった。


 村人たちはダヴィッドがこうして心を開いたと感じた。


 老成の果てに、刺々しかった自分の性格をかえりみて、和をたっとび、人とまじわるようになったと……

 社会性をようやく身につけたのだと、感じたのだ。


 その、村にとって好ましい変化を多くの人たちは歓迎し、ダヴィッドは今までのように畏怖や畏敬だけではなく、『我らの誇り』というような、親しみもこめて『最高の職人』と呼ばれるようになった。


 だからつまり、誰も、最期までダヴィッドの孤独に気づかなかったということ。


 彼は大トカゲを殺すという目的を、自分の寿命いっぱいではとても達成できないと悟ってしまっていて。

 自分の志を継ぐものを探したけれど、それも村には全然いなくて。


 期待をかけた自分の子は、打ち手としての才能が全然なかったのだと。


 そういう絶望がゆえに、第三者からは『優しさ』と観測できる性質を……『絶望ゆえの諦念』を身につけたのだと、真実は、そういうことなのだった。

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