39話 炎
時代が進めば人の気質が変わるものだ。
ダヴィッドもそんな、時代と時代のはざまに生まれた一人の男だった。
オヤジは鋼を打つ。オフクロも鋼を打つ。自分も鋼を打つ。
弟もきっと鋼を打つはずだった。
ところが弟は燃えてしまった。空飛ぶトカゲに燃やされてしまった。
悲しむべきことのはずだった。
実際にみんな、悲しんだ。
悔やむべきことのはずだった。
みんな、まだ幼い子が、将来立派な『打ち手』になるだろう子が亡くなったのだと、悔やんでくれた。
でも、少しすると『しょうがないか』という態度に変わった。
しょうがなくなんかない。でも、しょうがないことらしい。
なにせ弟は火種となったらしいのだ。空飛ぶでっかいトカゲのもたらす、炎という恩恵の種になった、らしいのだ。
弟が死ぬことで大トカゲの炎はますますあかあかと燃え、集落の鍛治はますます発展する、らしいのだ。
だから弟は集落の未来のためのとうとい犠牲、らしいのだ。
……わかっている。
それは、悲しみを受け止めるための方便だった。
まだ幼い子供の死を受け止めきれない親が、親族が、周囲が、『そういうこと』にして、無意味な死に意味を見出そうとする、心を守るための、方便。
わかっている。
わかってはいてなお、許せない。
だってそれは、言い訳のはずじゃないのか。『そういうことにしよう』というお約束のはずじゃないのか。おべんちゃらだ。嘘だ。ごまかしだ。
だっていうのになんで、みんな、心から信じているみたいに、ふるまうんだ。
そう思えてから、すべてが嘘くさく、愚かしく思えるようになった。
馬鹿にしているわけではない。見下しているわけでもない。
ただ、こわいのだ。嘘を嘘だと思えなくなったみたいに、心から信じているみたいに笑える連中のことが、こわくてたまらないのだ。
とうてい話もできないぐらいに、別な生き物に思えて仕方がないのだ。
ダヴィッドの心が燃え上がったのは、たぶん、これが原因なのだろう。
ここは大トカゲの炎と共存する集落。
その炎により鋼を打つ連中の集う村。
その中で、ただ一人、ダヴィッドだけが大トカゲの吐くものよりもなお熱い炎を心に燃やしていた。
ヤツを殺す。
あの大トカゲを、殺してやる。




