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アレクサンダー建国記  作者: 稲荷竜
五章 打ち手と竜
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38話 『打ち手』という存在

 その集落は困ったことに炎とともにあった。


 でっかいトカゲが来るのだった。空を飛んで来るのだった。村を燃やしに来るのだった。

 空の高い高い場所から、地平をなめつくすほどの炎を、吐きに来るのだ。

 なにが楽しいのかわからないが、おかげでこのあたりの土地はすっかり草がはげて、岩肌剥き出しの殺風景な景色になってしまったのだった。


 これはたまらないと思いつつも、過去にこの集落を創設した人たちは逃げたりしなかったらしい。

 当時の人たちがなんでこんな危ない場所にとどまろうと思ったのかはわからない。

 あの大トカゲが来るとわかってなお他に行き場所がなかったのかもしれないし、他の理由があったかもしれないし、いろんなことが複合的に作用しての決断だったのだろう。


 けれど、現代、この集落に住まう人たちの気質を見れば、なんとなく、ご先祖様たちがこの場所を離れなかった理由もわかる。


 たぶん、炎がほしかったんだ。


 でっかいトカゲの吐く炎はとてもとても上質なのだ。

 もちろん温度が高い。激しく、長く燃える。

 なにより、理由は全然わからないのだが、これで鋼を打つと、とてもいい仕上がりになるのだ。


 だからこの土地に住まう人たちは代々、大トカゲの吐く炎をもらって鍛治をする。

 鍜冶に打ち込むあまり大トカゲの襲撃がうざったくなってきたものだから、集落をドーム状に覆う天蓋まで、鍛治の力で作り上げてしまったのだ。


 本当におかしなことに、この集落は炎とともにある。


 大トカゲの吐く上質な炎により打たれた鋼と、ともにある。


 トンテンカンテン、トンテンカンテン。


 大人も子供も鍛治をする。男も女も鍛治をする。


 いい物を仕上げるヤツは、いい音で打つ。


 だからこの集落では一人前の鍛治職人を『打ち手』と呼んだ。


 そいつの奏でる音曲に敬意を払って、そう呼んだのだった。

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