164話 弱者と強者4
たしかにたどり着いた洞窟は危険な場所だった。
同行した若者たちは数分と経たぬうちに意識を混濁させ始め、放っておけば倒れてしまう。
倒れたあとの体温の低下は、この雪深さだけが理由とは思えないほど急速で、たしかにこの場所にはたちの悪い呪いかなにかがあるようにしか思えなかった。
が、サロモンだけは平気だった。
倒れる者たちと自分との違いについて、サロモンは考える。
それは単純に自分の方が強くて若者たちが弱いという、一元的なものの見方では解明し得ないだろう。
弱いはずの若者たちの中にも倒れるまでに個人差がある。
また、自分がぜんぜん平気というのも、これはこれで、おかしい。
毒かなにかが充満しているのであれば、もう少し具合の悪さを覚えてもいいはずだ。
「……『魔力無限』」
サロモンがたどり着いた結論は、その特性だった。
自分には、そういう『チートスキル』があるらしい。
だから自分は平気なのだと思えば、つじつまが合う気がした。
そして、ちょうどいいと感じた。
仮説が正しければ――そしておそらく正しい――この洞窟の石が、魔力を吸うのだ。なみの者ではすぐに気を失い衰弱してしまうほどの強さで、どんどん吸収していく。
そしてたしかに、この洞窟には魔石があった。仮説と関連性を持たせて考えるならば、洞窟内に入った者の魔力を吸い、たくわえたであろう、純粋な魔力の石がいくらでもあったのだ。
ここで鉱石採掘ができるのは自分をおいて他にあるまい、とサロモンは思った。
そして、一度場所を覚えてしまえば、空を飛び、この厳寒と豪雪の中を自由に行き来し、鉱石運搬をするのも、自分にはたやすいことだと感じた。
なによりいいのが、この洞窟は、なみの者が入れば死ぬ。
すなわち、来客が絶対にない。
サロモンはここを修行場と定めることにした。
鉱石をエルフの森に届ける代わりに、食料品などを受け取り、暮らすのだ。
その旨を告げると、若者たちは「王に確認をしてきます」と述べた。なるほど、そういうものを認めさせるにも手間がかかる。
だからサロモンは若者たちと一緒に空を飛んで山を降り、そのままジルベールのもとに降り立った。
若者たちに飛ぶ能力はなかったので、サロモンが飛ばして運んだのだ。
ジルベールはいきなり空から降ってきた弟におどろき、固まった。
その横にいた女がジルベールを落ち着ける。……そいつは立ち位置的にジルベールの妻なのだろう。
気が強そうな顔立ちをして、落ち着きがある、なかなかの胆力を感じさせるエルフの女だった。
サロモンは『ジルベールより話が早そうだ』と感じたため、ジルベールの混乱がおさまるのを待たず、一方的に自分の要求を告げた。
もちろんその要求はジルベールに語りかける形式でおこなわれたものではあったが、その裁可はジルベールの妻によっておこなわれ、サロモンは晴れて『邪魔の入らない修行場』を手に入れたのだった。
……かくして、不死身の男を殺すための技法開発が始まる。
きらめく石に覆われた洞窟内にドーム状の空間を作り上げ、そこを研究室とした。
とはいえ、サロモンは魔法がどんなものかを深く理解している。
魔法は、現象を明確にイメージし、そのイメージを実現するだけの魔力があれば、なんだってできるのだ。
すなわち、自分にはなんでもできる。
だが――
アレクサンダーを殺す魔法は、なかなか、できなかった。
あの男の息の根を止めるイメージを、どうしたって、明確には抱けなかったのである。