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アレクサンダー建国記  作者: 稲荷竜
十五章 旅路の果てに
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159話 未来にたくす夢

スピンオフ2

未来にたくす夢

『くじら』『影』。


 そういった存在がインスピレーションを与えないわけがなかった。


 ダヴィッドは創作者だ。

 常に様々なものに目を光らせ、自分の作り上げるものの糧にできないかと思案している。


「『折れない』まではなァ。たどり着いてンだよなァ」


 絶対に壊れないものは、作れる。


『くじら』――あれは『肉をとる目的でならば切ることができるのに、ダメージを与え殺すことを目的にした攻撃はいっさい通さない皮』に包まれていた。


『影』――あの実体かどうかもわからないものは、最初、なんの攻撃も抵抗なくするする飲み込まれるようだった。

 しばらくすると弱点部位をさらしたが、それまでは、あのシロをして『殺し方がわからない』と言わしめたほどに無敵だった。


 それは、硬い、とか、ねばりがある、とか、そういうものとは次元の違うなにかだ。


『壊れないから、壊れない』。


 鋼の強度も合金としての完成度も関係がない。

『世界の法則』とでも呼ぶべきものに守られた、あの『不壊』。


 そういうものが、この世にはある。


 ならば、それ(・・)を再現すればいい。


 不可能だろうか?

 そう信じ込んでいるうちは、不可能だろう。


 創作の進歩は自分の思い込みとの対話から始まる。

 無意識的、意識的に『できない』と思っていることに、『本当に、そうか?』という疑問を投げかけて、己を説得するのだ。


 できる。


 神の御業、上等。


 神にしか作れねェモンだってンなら、神になったつもりでやっちまえばいい――


「と、ここまでは、まァ、簡単(・・)なんだがなァ」


 ダヴィッドが一人でうなっている場所は、以前、アレクサンダーたちと来た、魔石のとれる洞穴前だった。


 アレクサンダーの伸びる剣に使った、斬撃を放つ魔石――


 これが聖剣の切れ味をになうことは、まず、間違いがないだろう。


 だから、王都から『追い出されて』――

 いっしょについてきたドワーフたちと、新しい土地を確保した。


 そうしてゴタゴタしていたものが落ち着いたころ、ようやく、ここに戻ってきたのだ。


 ……カグヤが生きていて、旅もまだまだ続いていた、あのころ。

 ここで駄々をこねて、座り込んで、聖剣を自分が作れないことを認められなくて拗ねていた、あの記憶が呼び起こされる場所。


 人として未熟だったし、職人としても未熟だった。


 未来の誰かへの対抗心で剣を作ろうだなんて、なんていう、ひどい間違いを犯していたのだろう。


 剣は、あくまでも、それを振るう者のために。


 最高の使い手のために作れば、それは、おのずから最高の剣になる。

 使われるものだというのに、使い手にそっぽを向いていたずらに完成度をあげようとしたって、それは、作れるわけがない。


 ……だから。


 今の自分には、聖剣など、決して、作れないだろう。


 なにせもう、剣をあずけるべき剣士のイメージが、薄れてしまっているのだから。


「……まァ、いい。カグヤ、テメェの勝ちだ。……テメェは勝負だなんて思っちゃいねェだろうがな」


 よっこいしょ、と立ち上がる。


 すると、そばに青い、ずんぐりむっくりした、ドワーフをさらに潰しつつ巨大化させたようなものが寄ってきた。


 ゴーレムだ。


 絶対に壊れない、ゴーレム。


 ……『壊れないから、壊れない』ものがこの世にはある。

 世界の法則に守られているとでもいうべきもの――


 ならば、聖剣というものがあるとして。


 それは、世界の法則ごとき、もろともにぶった斬ってくれなきゃ、聖剣とは認めてやれない。


 だから、そのために用意した。

 これを斬れないようじゃあ、聖剣として認めてやらねェぞ、と。


 ……うん。意地が悪い。


「……ああ、チクショウが。大人になったつもりだってェのに、やっぱり、悔しいな。ったく忌々しいぜ。未来の、聖剣の打ち手――どういうバカみてェな才能の持ち主でいやがんだ。できるモンなら、その時代まで生きて仕事ぶりを見てみてェもんだぜ」


 自分のような異能者なのか。

 父のような正統派の職人なのか。

 あるいは、まったく想像もつかない、未来の技術の担い手なのか――


「ああ、マジのバカだな。バカみてェ、じゃねェ。バカだ。……実在するかもわからねェ未来のヤツのために、こんなセコセコと準備してよォ。しかも五百年後? ふざけんな。今すぐ出てこいってンだ」


 作り足りない。

 至り足りない。


 まだまだ色々なものを作り上げたかった。


 聖剣が未来に確実に存在するというのなら、それを見て死にたい――いや、それのさらに先にあるもの、その先のさらに先にあるものを、見たい。

 見たい、よりも、生み出したい。


 きっと自分は、永遠の命がほしいのだろう。


「……ハ」


 馬鹿馬鹿しくて、鼻で笑ってしまう。


 ……先日、イーリィから送られてきた手紙を思い出した。


 死なない男を、殺してほしい――そんな、手紙。

 見るなり炉にくべた。


「奇跡だか、ばぐ(・・)だか、あるいはイーリィの勘違いだか知らねェがよォ。あのバカが五百年後も生きてて、そん時もまだ死にてェってンなら、ちょうどいいじゃねェか」


 ――なんでも斬れる剣ならば、不死の英雄の命脈さえ絶ってみせろ。


「言い訳は許さねェぞ。五百年後の忌々しい野郎め。テメェが失敗なんざできねェように、アタシが完璧に逃げ道をふさいでやらァ。最高の仕事場だ。夜な夜なカグヤを叩き起こして『予言の中の記憶』を聞き取りまくって、イメージはつかんだ。最高の剣は作れねェが、未来のテメェのために、最高の仕事場を作ってやる」


 ダヴィッドはゴーレムの肩に乗り、洞窟内へと踏み入った。


 清々しくもなく、誇らしくもない。


 自分がやりたかった夢を未来にたくすのは、想像を超えて悔しい。


 でも――


 そんなものよりも、『聖剣』なんていうものが未来に生まれるワクワクの方が、はるかに大きかった。

スピンオフ2

未来にたくす夢 終

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