154話 愛の英傑ウー・フー物語1
スピンオフ1
愛の英傑ウー・フー物語
王国樹立の立役者として忘れてはならない人物がいる。
それはウー・フーだ。
彼女こそは森の民――アレクサンダー大王より『ドライアド』という呼び名を賜った種族を束ねる長であり、その老獪さと知識の多さ、そして知恵をかわれ、特に知恵袋としてアレクサンダーに寵愛を受けた。
また、この種族の真髄であるところの『異性を魅了する力』においても大英傑ウー・フーは高い能力を発揮したらしい。
これは特に彼女と親しかった者にのみ伝わる話ではあるが、アレクサンダー大王はイーリィ妃と結婚をする前には、ウー・フーによる『手ほどき』を受けていた。
ドライアドというのは永遠に若い種族であり、また、褐色の肌や自在に動く豊富な髪といった、他種族に見られない特徴を多く備える。
その絶技たるや、かのアレクサンダー大王を強く魅了し、ウー・フーが王都を去る時など、大王は様々な価値ある品を贈り、自分のそばにいてほしいと強く引き留めたようだった。
しかし大英傑ウー・フーはこれらの品をすべて突き返し、アレクサンダー大王にイーリィ妃を大事にするよう言い含め、なに一つ持たずに王都をあとにしたのだという……
なぜ、ウー・フーは大王とともに王都で暮らさなかったのか?
それは、ウー・フーの胎にはその時、愛する男との子が宿っていたからなのであった。
ドライアドにおいては、強い男をたくさん魅了する者こそ英傑と称えられる。
大英傑ウー・フーは、かの建国の英雄たちすべてから関係を迫られ、そうして、それらの愛に老練なる余裕をもって応え続けた。
だが、同時に三人との子を胎に宿すことはできない。
ウー・フーは博愛の人であったから、誰か一人を選び、他の二人を切り捨てることはできなかった。
そこで、最初に自分に子を宿した者を最愛とすると決め、それは、アレクサンダー大王ではなかったのである。
……ん?
同時に三人と関係をもって、どうして、胎に宿ったのが誰の子だったか判別できたのか?
それはもちろん、愛の力だ。
大英傑ウー・フーには特別な力があったようだから、正しくは、彼女なりの超感覚が働いたというところだろう。
けれど、そういったことを、深く掘り下げるのは、野暮というものだ。
誰よりも多くを愛し、多くに愛された、大英傑ウー・フー。
その伝説は今なお我らドライアドの中で輝きを失わない、恋多き女の物語でもあったのだ……