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アレクサンダー建国記  作者: 稲荷竜
十四章 建国記の終幕
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146話 影と裏

 まず、その王国は幸福な式典をもって始められた。


 国王と王妃の結婚。


 この異世界様式――つまるところアレクサンダーの前世の世界要素が多分にふくまれた結婚式によって、臣民たちは『結婚はパーティで祝うのが()()()』『結婚の際には指輪を交換するものだ(・・・)』などの認識を得た。


 結婚式というのは、色々な要素を含む式典だ。


 そこで宗教的権威であるロゼが二人を祝う言葉を述べた。

 祝いに際して、神の存在と、その神がなにをしてくれているか、その神がなにを祓ってくれているか、その神がなにから自分たちを守ってくれているかなどが語られた。


 そしてアレクサンダーは神より(・・・)祝福を(・・・)()()()――つまり、『神そのものではない』と示されたのだった。


 式典は王国の民すべてに知らされ、すべてが賓客としてもてなされ、七日七晩続いた。

 その中でアレクサンダーは『直接自分にお祝いの言葉を述べてよい者』『手紙などで自分に祝いを届けたことが他者にわかるように紹介される者』『その他大勢』を明確に分けた。


 王制にともなう貴族制だ。


 アレクサンダーという別格の存在たる王には、そのへんの人が思いつきで声をかけられるわけではない。

 事前の準備と、ふさわしい礼節と、それから、なにか目に見えないものがあって、分けられている――ということが、示されたのだった。


 このほかにも細かい『王制なら当たり前のこと』が、式典やアレクサンダーの言動で示された。

 それは多くの者はそれほど意識しない範囲だっただろう。

 けれど、この新しく始まった国家というもので上を目指し目を光らせる者には、今までとは全然違う『国ならではのルール』があるという、その輪郭をわからせる働きをした。


 そうして結婚式のあとに、各集落、街などの集団を代表する者たちが集められ、公式に国家創生会議が執り行われた。


 多くはアレクサンダーに恭順し、アレクサンダーの治める『王都』を中心にした制度づくりなどに消極的・積極的に賛成をした。


 しかしアレクサンダーの執り行うことを認めない者も多かった。

 それは例の『くじら』のいた場所の老人たちのような、『アレクサンダーにそれまでの安住の地をぶち壊され、損を被った者たち』であり――

 アレクサンダーが王都に多くの人を招いた際に、大なり小なりの『人が唐突に減ることの不便』を押し付けられた人たちだったりした。


 それら『反アレクサンダー勢力』とでも呼ぶべき連中の中でも、もっとも強くアレクサンダーに反発する姿勢を見せたのは、大きな港町を治めるダリウスだった。


「だいたいにして、君は、『賊』だろう。我らの街に混乱を起こし去って行った存在だ。その君が、我らの上に立とうというのは、いかがなものかね?」


 ダリウスのその意見に反アレクサンダー勢力が同調し、会議は真っ二つとなった。

 反アレクサンダー勢力はダリウスのもとに集い、こうして議会内に派閥が生まれた。


 すべて仕込みだ。


 このあと、アレクサンダー勢力とダリウス率いる反アレクサンダー勢力で戦争を起こし、アレクサンダー派が勝利し、反対派を抑え込む計画になっている。


 戦争の推移にもよるが、その時にアレクサンダーを追い詰めるダリウスは、晴れて『大公』という、他の村長、里長、街長など――このあと『貴族』と呼ばれるようになる者たちと一線を画す地位を手にいれることになっていた。


 ともあれ、この『両陣営が口汚くののしり合うだけ』という形式で、しばらく会議は続くことになるだろう。


 それはそれとして、裏ではきちんと国家の行く末を決める会議も行われ、そこには当然のようにダリウスも出席している。


 そちらの会議で……


「いやー、正直、ダリウスのおっさんにはすげー頼ってると思うんだけど、そっちの街の方は大丈夫?」


「君のおかげで、街はまとまっているよ。『賊であるアレクサンダーが我らの上に立つことを許すな』というふうにね」


「宇宙人の侵略で地球人類が一つになる感じだな」


「そのたとえはわからんが、『アレクサンダーを打倒するため』という理由で、あちこちいじっているところだ。開戦は少なくとも一年は待ってほしいものだね。そのぐらい経てば、ようやく色々なものが落ち着きそうだ。今しばし、君を言い訳に使いたい」


 という会話が、なごやかに行われた。


 しかし戦争までの一年、すべての集落がなごやかに待ってくれるわけではない。


 中には逸ってアレクサンダー暗殺を企てる者もいた。

 また、王都で暴れることがアレクサンダーの勢力を削ぐことだと思い込み、治安を乱す者もいた。


 こういう連中への裏からの対処――治安を守るという名目で徴兵された者たちのように暴動が起こってから鎮圧するのではなく、事前の対処を任せてほしいと申し出たのが、シロだった。


「アレクサンダー、僕はね、ダリウスの政治はあの環境において最善だと考えていました。けれど、一点、どうしても許せないところがある。それは、僕の扱いです」


「『真白なる夜』の頭であることが不満だった……わけじゃねーよな?」


「ええ、あれはあれで、よかった。けれどねアレクサンダー、僕という人材にはもっと()()活用法があるとは思いませんか? どこにでも忍び入ることができて、たいていの相手ならば一撃で殺せる、この僕に、もっといい活用法があると、思うでしょう?」


「あー……でもな、そのやり方は、ゆくゆくは自分の首を絞めるぞ。暴君ネロってのが俺の世界にはいてだな……」


「まあ、暗殺に限らず、暗躍する人材は必要では? 僕ならば、色々な情報を抜いてくることができますよ。僕だけでなく、そういう人材を養成し、確保するのは必要だと、強く思っています。『真白なる夜』をダリウスの懐刀にできれば、どれほど彼の政治がスムーズに進んだか、想像しない夜はなかったのです。いや、ありますね、想像しない夜ぐらいは。あっはっは」


「お前のさあ、冗談のさあ、センス……タイミング? ほんとにさあ……」


「というわけで、どうでしょう。子飼いの暗躍組織を、僕に作らせてはくれませんか?」


「いや、あったらいいなと思わないことはないよ? でも、明らかに表に出せねー汚れ仕事じゃん。お前に利益そんなにないと思うんだよな」


「そういう役割に生きている意味を感じる者が世の中にはいるのです」


「……」


「それに、そういう暗い場所でしか生きていてはいけないような気がする者も、いるのです。……君の手伝いをしたいというのは、まあ、これも、偽らざる本音のような気もしますが、僕としてはね、この国家の黎明の動乱であぶれてしまうはみ出し者たちの居場所を作りたいというのが、大きいのですよ。『真白なる夜』は大多数にとって困った組織ではありましたが、少数をたしかに救い、生きる意味を与えたという自負は、あるのです。……彼女や彼女の弟のような者の命を、多少なりとも長らえさせた自負は、あるんですよ」


「……」


「次はもっとうまくやりますよ。僕は案外、そういうのが得意なんです」


 アレクサンダーもさすがに反対はできず、また、たしかに、情報力の重要性は痛いほどわかっていた。

 場当たり的な対応では『国家に立ち向かおうとする国民』という多すぎる敵への対処はどうしても不完全になり、いらない損害が出る。


「わかった。頼む」


「では、組織名を考えましょう。さすがに『真白なる夜』をそのまま使うのはよろしくない。もう、この名前はダリウスの街にいる彼らのものですしね」


「じゃあ、どうする?」


「こんなこともあろうかと、考えておきました。――『はいいろ』としましょう」


「由来は?」


「『真白なる夜』から、白と(くろ)を混ぜただけです」


「お前、名前にこだわりがあるのかないのか、どっちなんだよ」


「いかにもそれっぽい意味深な名前にしておくことで、のちに所属する者が『なにかすごい由来があるに違いない』と勘繰るという特典をつけられますね。あっはっは。……そしてこの組織の最終目標は、やはり君を殺すことですよ、アレクサンダー」


「俺の子飼いの暗躍組織が俺の命を狙う件について」


「君、自分が年老いて死ねると思っていますか?」


「……」


「まあ、杞憂なら、いいのですがね。では、裁可はいただいたということで。これより僕は『はいいろ』を名乗りましょう。僕が死んだら解体してくださいね」


「今後の王政にも必要だと思うんだけどなあ」


「こんな公的暗躍組織、僕と君の関係があって初めて成り立つものです。未来永劫、『はいいろ』と『王』がともに旅をして仲間意識をはぐくむわけにもいかないでしょう?」


「……まあ、そうか」


「なににせよ、君は僕より長く生きますよ。年齢的にも、種族的にもね。だから僕の死後にはくれぐれも組織の解体を。まあ、国が安定するまではもってみせましょう。僕も実のところ、さほど若くはない」


「そういやお前いくつよ。いってても二十代では?」


「そうですねえ、ここは、秘密としておきますか。君が知りたそうなのでね」


「こいつマジ」


 二人は笑い合った。

 こうして、国がだんだんとはっきりした影を備えていく。

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