表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アレクサンダー建国記  作者: 稲荷竜
十三章 建国の物語
140/171

138話 死へ向かう

『アレクサンダーは、アレクサンダーにより殺される』


 その予言を見たということを、カグヤは誰にも語らなかった。


 だって、カグヤの予言は『確定した未来』なのだ。

 それは必ず起こる。言ったところで、対策を立てたところで、気をつけたところで――どうにもならない、ことなのだ。


 ――本当に?


 もちろん、本当だ。カグヤはそう確信している。


 予言が必ず成就するというのは、『人が呼吸を止めれば死ぬ』とか、『前へ歩くには左右の足を交互に動かす』だとか、そのぐらいの当然さのことだった。

 少なくともカグヤにとって、『なぜ、外れると思わないのか?』という問いは意味がわからない。

『なぜ、人は水を飲まないと喉が渇くのか?』と同質の疑問だ。

 そこにはなんらかの仕組みがあるのだろうけれど、そういうものなのだから、そういうものなのだ。仕組みなど知らなくても、世界がそうなっている――というぐらいの当たり前なのだった。


 けれど。


 もしも、予言された未来が変わるのならば?


 それはきっと、自分が変えるべきなのだろうと、そう思う。


 だからカグヤは、アレクサンダーの死という未来を胸に秘めた。


 それは『他者と予言を共有することで未来が確定するのかもしれない』という想像があったからだ。

『他の人に伝えて警戒することで、逆に成就しやすくなる』――すなわち、予言には、予言者がそれを口にするところまで織り込まれているのではないか? という考え方をしたのだ。


 なぜ、そんなふうに考えたのか?


 なぜ、そんな考えに奇妙な確信をもってしまい、他者に相談することをしない方向で意思を固めたのか?


 ……カグヤには、欲望があったのだった。


 自分も、ほかのみんなのようになりたい。

 いや――自分だけができる、特別なことを、したい。


 置き去りにされたくない。

 忘れられたくない。


 アレクサンダーとかかわる人が増えていく。

 その中で自分は本当になんにもできない。幼いからとか、そういう理由でなぐさめられる立場だ。なにもできなくても許される、そういう立ち位置だ。


 それが、嫌だった。


 甘やかされたくなかった。許されたくなかった。

 しょうがないよな、と人が優しく笑う時、その人と自分とのあいだには、超えられない隔絶が発生するのを、カグヤは肌で感じていた。


 そこには、分厚い壁がある。


 カグヤにとって、アレクサンダーたちは、その分厚い壁の向こう側にいるのだ。

 自分もそこに行こうともがいているのだ。

 でも、なんにも、できないのだ。


 幼いから。

 特殊な技能がないから。


 ……技能はあるのに、それは、自分の意思ではどうにもならないから。


 だから、カグヤは望んだ。


『自分だけができる活躍をしたい』


 イーリィはケガ人を見れば勝手に一人で治してしまうではないか。

 サロモンは勝手に行動して、好き放題戦うではないか。

 ダヴィッドだって物作りに他者をかかわらせることはなく、シロも能力を活かすのにいちいち人に相談しない。

 ウーだって、そうだ。ダンジョンらしきものを見るや、なんの気無しに近寄って、マップをひらめいてしまう。


 能力を行使するのに、人の許可などいらない。


 だから、自分だって。

 ……自分だって、そうしていいはずだ――否、そうできないなら、それは、一人前ではないということなのだ。


 ヘンリエッタの不可解な死が頭にずっとこびりついている。


 あれは意味のない自殺だったように思える。


 けれど一方で、あれは、彼女なりに意味のあることだったという確信がある。


 あの不可解すぎて、不条理すぎて、無意味すぎる死は、彼女が自分で判断して選び取ったものなのだ。

 他者の理解など求めない、彼女なりの正解なのだ。

 それを選び取れる強さが、彼女にはあったのだ。


 さまざまなものが、カグヤの行動を決定づけていく。


 予言は、人に語ることで成就するものかもしれない。

 だから試しに――そう、あくまでも試しに――自分だけの力で、予言を変えてやろうと、行動してみよう。


 それは、能力がある者ならば当然すべきことだ。


 ……分厚い壁を超えて、これからもアレクサンダーと旅をするためには、必要な儀式なのだ。


 ――石造りの街並みを進んでいく。


 数多いる巨大なモンスターたちは、アレクサンダーたちの敵ではなかった。


 石畳を進んでいく。


 ああ、この光景は――このダンジョンは、もう少し北に進むと王城(・・)が存在するはずだった。

 その王城を中心にしてこの街は四方に伸びていて、東西南北各所に大きな門があるのだ。


 歩けば歩くほど確信する。

 ここは、予言で見た街だ。

 五百年後には人でごった返す、アレクサンダーの王都だ。


 そして、アレクサンダーの死に場所だ。


 カグヤは、一つだけ、予言の視点人物の記憶を思い出した。


 アレクサンダーは、王城で、アレクサンダーに殺された。


 そのことをあの視点人物は――


 ――なぜか、清々しく、思っていたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ