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アレクサンダー建国記  作者: 稲荷竜
二章 ロゼと神
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13話 頼もしきもの/恐ろしきもの

 狩人に復帰したロゼはイーリィの力についてみなに話した。


 これまで隠していたのは、せいぜい針の刺し傷を治す程度しかできないと思っていたのもあったが、そもそも、言ったところで信じられないだろうと判断していたからだ。


 ところが失ったばかりの片腕を生やしてロゼが現れたならば、そこにはものをあまり考えない村人でさえ気になる『なんで?』があるはずだ。

 その理由として娘の力を語る必要性があったし、これで娘の力を村のために役立てられるだろうとロゼは思っていた。


 ケガをおそれなくていいなら、より危ない場所でも狩りや採集ができる。

 それは村をより豊かにする結果につながり――


 自分たち家族を、幸福にするはずだ。


 しかし村人たちの反応は悪い。

 片腕を生やしたロゼを遠巻きにながめ、おそれるように見るだけだった。


 ロゼはイーリィの力のすばらしさをうったえた。

 すると、ようやく反応があった。


「お前の娘の力なのか」


 それは、おそれるような、忌むような声だ。


 ロゼにはわからない。

 これほど有用な力があるとわかって、なぜみなが歓喜にわかないのか?


 もちろん、最初はロゼさえもおそれた。その得体の知れなさに恐怖して、娘のことを化け物かなにかだと思いそうになったのだ。

 しかし、考えてみればすぐにわかるはずだ。この力がどれほど有用で、村にどれだけのものをもたらすのかを。


 だからロゼは理を説いた。


 それは様々なことに『なんで?』と自問する彼が今まで温めてきたアイデアの数々だった。

 もしもどんなケガでも治るならなにができるか?

 強くなれるのだ。

 野生動物ではなく、モンスターを狩ると、人は強くなるのだ。それはロゼが積み上げた実感で、狩るモンスターが強いほど強さも上がりやすい。

 強くなってどうするのか? 強くなると、力が強くなる。足が速くなる。体力がつく。そうすると、より遠い場所まで素早く行って、遠くの恵みを狩ってくることもできる。

 そうすれば村は豊かになるのだ。今以上に! いずれは、無能だったり、働けなかったりする者を養っても困らないぐらいに!


 ロゼはその豊かな生活をはっきりと思い描いていた。


 けれど、その熱弁は、村人たちと彼との距離を開かせるばかりだった。


 男たちはロゼをこき下ろした気まずさもあってか、理解を示さない。示そうともしない。

 長老の取りなしがあった。「村一番の狩人が無事だったのだ。それでよかろう」。その言葉に男たちは返事をせず、否定もせず、気味悪がるようにロゼを見ながら解散した。


 でも、いずれは理解されるものと思っていた。


 だからロゼはこれまで以上に狩りに力を入れた。大けがもした。そのたび、イーリィに治させた。人の見ている前で、治させた。

 短いペースでどんどん大物に挑むロゼから、男たちはどんどん離れていった。それはおそれているようでもあったし、さげすんでいるようでもあった。


 成果を出すたび、人が離れていく気がする。


 それでもよかった。きっといつかわかってくれるのだと思っていた。

 我が子のすばらしさを自分が村に還元していく。そうすれば村は豊かになり、自分たちの生活が向上してきたところで、村人たちも娘のすばらしさに気づいてくれるだろう。


 ……そういえば、村人たちが、娘の治療を受けたことはない。


 軽い傷でもいいから、その力を実感してくれれば、きっとあの治癒の力の可能性にも目を向けてくれると思う。

 でも、どれほど誘っても、反応はにぶい。


「ロゼは片腕が生えてから、なんか、おかしくなったよ」


 そうではないのに、そんなことだけは、面と向かって言われる。

 今の自分がおかしいと言うならば、昔からおかしかったのだ。イーリィの力によって、こらえていたものをこらえなくていいのだと判断しただけなのだ。


 けれど村人は理解してくれない。


 その年の冬ごもりの支度を終えたころ、ロゼとその家族は村で人たちにこわがられるようになっていた。

 それでも、まだ、村の一員だった。


 決定的なのは、イーリィが力を示す、もう一つの機会が契機だったのだろう。


 つがいの女が、病気になった。

 ひどく重い病気になって――


 そこからすべてが、壊れ始めた。

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