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アレクサンダー建国記  作者: 稲荷竜
十三章 建国の物語
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137話 未来の自分

 少しだけ、時間をさかのぼる。


 アレクサンダーたちが『根拠地にするにふさわしい広さのダンジョン』を発見する、ほんの半日ほど前のことだ。


 まだまだ空に明かりが登り始めたばかりのこの時間帯、カグヤは不可思議な光景を見ていた。


 夢に深く入り込んでいるかのような、その逆にすでに半分意識が覚醒しているかのような――そんな心地で見るその光景が『予言』であることを、彼女はすぐに見抜いた。


 その予言の中で、彼女はやはり、誰かの視点に乗っかって物事を認識している。


 すでに何度か乗った(・・・)人物のようで、カグヤはいつもより冷静に、その人物について考察することができた。


 周囲にいる多くの人々。

 それを見る視点人物の身長は、どうにも自分と同じぐらいのようだった。


 道を歩いていると話しかけられて、それに応じる視点人物の声。

 それはどうにも――性格の違いから語調の違いが発生しているようだけれど――自分の声のように聞こえた。


 その人物が解像度の低い景色の中を闊歩すればするほど、その人物が自分のようだという情報ばかりが集まってくる。


 しかし、ありえないのだ。

 その人物はアレクサンダーたちの建国の物語を五百年前だと記憶していた。


 あれは、五百年前にあった、懐かしい(・・・・)旅路なのだと――


「ふむ? 見違えたな」


 視点人物が路地裏で、誰かと会話を始めた。


 その背の高い人物の姿はぼやけて見えないが、視点人物にとって、『懐かしくも、やや距離感に戸惑う相手』のようだった。


 カグヤは意識の引っ張られ方から、これから起こる会話が、予言を見せている何者かが自分に伝えようとしていることなのだろうと判断する。


 案の定、この会話の音は、やけにはっきりと響いた。


「見違えた、といいますかね。元に戻った、という感じなのでしょうけれど。いやあ、これで僕も人生を終わらせることができそうです」


「死ねないなどと、ろくなことではないからのう」


「ええ、ええ、まったくですよ。あっはっは」


 と、そいつは笑い声のような音を立てて、


「さて、僕はさんざん『殺す方法』を探し回って、金属の体にまでなって、定められた寿命以上を生きて、それでもとうとう見つけられなかったわけですが……やはり、彼の死は予言の成就ではないんですか? どうにも、あなたが僕にできない『彼の殺害』を成し遂げたというのは、やはり、信じられない――いや、納得がいかない」


「貴様、そういうところあるからのう」


「僕たちの誰もが、あなたが偉業を成し遂げたことに首をかしげるでしょう。なにせ、あなたは生前からそうだった」


「生前のわらわと、今のわらわとは、まったく別の生き物じゃ。……しかしな、予言の成就……あやつの前では否定してみせたけれど、振り返れば、そうであったのではないかと思うところもある」


「と、言うと?」


「アレクサンダーを……あの、冒険狂いのアレクサンダーを殺したのは、やはり、アレクサンダーだったのではないか、とな」


 カグヤの意識は、殴られたような衝撃を覚えた。


 アレクサンダーが、アレクサンダーに殺された。


 視点人物の意識に乗っかっているカグヤにはわかった。たしかに、この視点人物が想像した『殺されたアレクサンダー』は、カグヤに名前をつけた、あの、アレクサンダーだ。


 殺したアレクサンダーは……わからない。

 ぼやけてしまっている。重要なことのはずなのに、まるで今回の予言で伝えるべきではないとでもいうように、殺したアレクサンダーが、真っ黒い影のようになって、その姿が判然としない。


 ……視点人物と、会話相手の声が、遠くなっていく。


 これは、視点人物の認識が正しいのならば、アレクサンダーたちの冒険から五百年後の会話だ。


 なぜ、そんな先の時代で、今、この冒険を懐かしむことができる人が生き残っているのだろう?


 エルフだって死ぬだろう。

 森の民(ドライアド)は生きているかもしれないが、一緒に冒険をしたウーはたぶん、死んでいるはずだ。


 ならば、誰が、五百年先に、今の時代を懐かしめるというのか?


 カグヤはどんどんぼやけていく予言の光景の中で、じっと、自分が先ほどまで乗っかっていた視点人物の姿を捉えようとする。


 意識を集中し、目をこらし、ぐんぐん離れていくそいつの姿を必死ににらみつけ、そして――


 振り返るそいつを見た。


 そいつは、自分だった。


 あきらかに自分とは違う考え方をして、自分(カグヤ)を他人として認識していて、しっぽの数が奇妙に多くて、顔立ちにも声にも自分と違う性格がにじんでいるのだけれど――


 それは、自分の体だった。


 五百年先だというのに、子供のままの自分が、そこにいたのだ。

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