表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アレクサンダー建国記  作者: 稲荷竜
十三章 建国の物語
137/171

135話 澱

十三章 建国の物語

 それからの旅路は、転げ落ちるような英雄譚だった。


 次第に密度を増していく人の居住区。

 そこで発生する種々の問題。


 これに介入することは望みでさえあった。放置などできるはずがなかった。

 なにせ退屈に押し出されるようにして故郷を飛び出してこの旅路は始まったのだから、あらゆる問題を見つけるたびに首を突っ込まねば、自分自身に()()が生じてしまう。


 そうして、失敗していった。


 もちろんそれは一面的な見方でしかない。

 ある面では失敗し、そしてある面では成功した。けれどこの時期になるとアレクサンダーは、失敗の側面ばかりが目につくようになっていた。


 彼はなにかをおそれていた。


 彼はなにか、他の人にはわからない『敵』を見ていた。


 そして、彼は成功するたびに憔悴したように笑うようになっていった。


 代わりに彼は、失敗するたびに安堵したように息をつくようになっていった。


 こうだよな、と。


 成功ばかりの旅路など()()()()()()()()()と笑うのだ。

 失敗を受け入れているどころか、歓迎していた。


 つまらない現実とままならない展開を彼は望んでいたようだった。

 けれど、しばらくそんなことが続くと、彼はまた憔悴するようになってしまった。


 それは彼が、自分が失敗を望んでいることに気づいて、その望みが叶ってしまったのだと認識してしまったからだった。


 無双の力を得て。

 絶対に死なないというチートを得て。

 仲間に恵まれて。

 色々な人里をめぐった。


 人々の問題に首をつっこんで。

 その多くで成功して。

 後味よく、里を去って、旅を続けた。


 それは、きらびやかな旅路であることは疑いようもなかった。


 その旅路は、半ばのはずの今でさえもう、人に誇れる英雄譚と呼べるものだった。


 だから、問題は、なんの問題もないことだった。

 すべてが最初からこう推移するように進んだこと、そのものが、アレクサンダーの中で、無視できないものになっていたことに、誰も――


 誰も、気づかない。


 あるいは、アレクサンダーさえも、自分の心にのしかかる()()の正体には、気づけないまま――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ