135話 澱
十三章 建国の物語
それからの旅路は、転げ落ちるような英雄譚だった。
次第に密度を増していく人の居住区。
そこで発生する種々の問題。
これに介入することは望みでさえあった。放置などできるはずがなかった。
なにせ退屈に押し出されるようにして故郷を飛び出してこの旅路は始まったのだから、あらゆる問題を見つけるたびに首を突っ込まねば、自分自身にブレが生じてしまう。
そうして、失敗していった。
もちろんそれは一面的な見方でしかない。
ある面では失敗し、そしてある面では成功した。けれどこの時期になるとアレクサンダーは、失敗の側面ばかりが目につくようになっていた。
彼はなにかをおそれていた。
彼はなにか、他の人にはわからない『敵』を見ていた。
そして、彼は成功するたびに憔悴したように笑うようになっていった。
代わりに彼は、失敗するたびに安堵したように息をつくようになっていった。
こうだよな、と。
成功ばかりの旅路などありえるはずがないと笑うのだ。
失敗を受け入れているどころか、歓迎していた。
つまらない現実とままならない展開を彼は望んでいたようだった。
けれど、しばらくそんなことが続くと、彼はまた憔悴するようになってしまった。
それは彼が、自分が失敗を望んでいることに気づいて、その望みが叶ってしまったのだと認識してしまったからだった。
無双の力を得て。
絶対に死なないというチートを得て。
仲間に恵まれて。
色々な人里をめぐった。
人々の問題に首をつっこんで。
その多くで成功して。
後味よく、里を去って、旅を続けた。
それは、きらびやかな旅路であることは疑いようもなかった。
その旅路は、半ばのはずの今でさえもう、人に誇れる英雄譚と呼べるものだった。
だから、問題は、なんの問題もないことだった。
すべてが最初からこう推移するように進んだこと、そのものが、アレクサンダーの中で、無視できないものになっていたことに、誰も――
誰も、気づかない。
あるいは、アレクサンダーさえも、自分の心にのしかかる重みの正体には、気づけないまま――