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アレクサンダー建国記  作者: 稲荷竜
十一章 ルカが壊したオールブライト
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113話 クラン設立

 獲物が急速に減ってきた影響で、探索者(シーカー)たちには『探索制限』がもうけられた。


 日常のほぼすべてを探索に費やしていたルカ少年は時間をもてあますこととなる。


 こうなると彼は本当に困ってしまう。

 休むでもなく、働くでもない時間というのは、本当になにをしていいかわからないのだ。


 また、彼にはその性質から友人もおらず、家族と呼べる人たちはいたが、ルカ少年特有の、例の『まじめ』な性質から、その人たちともひどくケンカをして、絶縁状態となっていた。


 なにもしていない時間は、なんとも無為に感じられて、こんな無駄な時間の使い方をしていると思うだけで、どうしようもなくイライラしてくる。


 この『探索制限』というのがくせものだ。


 同時に探索できる人数に制限がついている。


 なので、いつか誰かが戻ってきたら、そいつと交代で探索に行けるのだ。


 だから探索受注所にいるのだが、横穴の中の、石で補強されたこの空間には、とても多くの探索者が順番を待っていた。


 人でごった返すこの場所は居心地がよくない。

 ルカ少年の周囲には彼を避けて空間ができているものの、人いきれというのか、喧騒というのか、とにかく『多数の人間が集う場所に発せられるあれこれ』をルカ少年は苦手としていた。


 しかも悪いことに……


「探索の希望はクラン(・・・)ごとに(・・・)お願いします!」


 という決まりがある。


 探索者はクランに所属しているのが普通で、探索はたいていがクラン単位で行われる。

 つまり、『前の探索者が出てきたら、次の探索者が入れる』という状況は、『前に入っていたクランの複数名が出てきたら、別なクランの同じ人数が入れる』というものだ。


 ソロへの配慮がない。


 それでも、一人でも空きが出るタイミングを狙っているものだから、ルカ少年はこの場を離れるわけにもいかない。

 だが、一人で入る者などルカ以外にいるわけもなく、働かなければ生活もままならず、ルカ少年の苛立ちと焦りは天井知らずに高まっていく。


 そこに。


「よお、あんたも一人?」


 みなに避けられたルカ少年のいる空間に、十歳かそこらの男の子が来た。


 ルカ少年はかたちのいい眉を寄せて、言う。


「君、口のききかたがなっていませんよ。年上は敬うものです」


 言っていて自分で『でも、年上の探索者とケンカ別れになったことばっかりだったな』と思った。

 しかしあれは、向こうが悪い。自分は探索者として正しいあり方をしており、間違った、ふまじめな彼らに同じようなまじめさを求めただけだ。

 つまり敬う価値のない年上だった――そんなふうに自己弁護して、ルカ少年は年下の少年をにらみつける。


 まだ幼い、黒髪の少年は、みょうな表情で頭をかいた。


「いやあ、たぶんあんたのが年下だと思うんだよな。体はでかいけどあんた、十二、三だろ? 俺は……まあ十五か十六かな」


「そういう、くだらない嘘はいりませんよ」


「……ああ、そういう感じね。了解。申し訳ないです先輩。非礼をお詫びします」


「ええ。最初からそうして素直に謝ることができれば、いいのです」


「それで先輩、質問をいいですか?」


「どうぞ」


探索者(シーカー)ってーのは『どれだけいても足りない、この街の生活に不可欠な職業』だと聞いていたのですが、ここの様子を見るに、どうにも、人が余っているようなのですが、なぜですか?」


「君は……そうか、君ぐらいだと、探索者にも成り立てでしょうか。そうですね、先達として、礼儀正しい後輩には情報を与えるべきでしょう。実のところ、最近、我ら探索者が狩る獲物が減っており、また、とれる素材や道具なども、見てわかるほど如実に減少してきているのです。なので、『探索制限』がもうけられ、一度に探索に出向ける人数が減っているのですよ」


「なるほど。勉強になります!」


「……『探索制限』は、人数制限です。前の探索者が出てくれば、あとから同じ人数の探索者が入れます。そうして、探索者は普通、『クラン』の単位で活動します。だから、君も仕事を望むならば、どこかのクランに所属できるよう、努力すべきだと思いますよ。……そもそも、探索者自体になるべき時期にも、思えませんがね」


「先輩はどこのクランに所属していらっしゃるんですか?」


「僕はソロです」


「今のお話を総合するに、ソロでは仕事を受けにくいのでは?」


「……そうですね。もう三日も待ちぼうけです」


「なら、俺たちでクランを作ってみませんか?」


「……」


 それは、盲点だった。


 クラン作成はできる。

 できるが、やはり、すでにあるクランの方がノウハウも伝授してもらえるし、なにかと有利だ。


 だが、既存クランに所属する利点のいくらかは、ルカならばもはやいらないものだった。


 ……そうだ。

 今まで、ふまじめな先輩や年上たち(年上だからといって先輩とは限らない)にいらだって、衝突して、クランを抜けてきた。

 そのたびによく『クランマスターがそんな調子だから、気風に締まりがないのだ』と憤ってきた。


 ならば、自分がクランマスターとなり、『正しい』探索者のあり方をメンバーに徹底させる。


 今までは仲間どころか日常で絡む相手もおらず、とりえない、それゆえに思考にものぼらない選択肢だったが……


 このまっさらでまじめな後輩が、こうして隣にいるのは、()()()()()()()()かもしれない。


 ただ、まだ問題はあって……


「……君の意見は柔軟で素晴らしいものです。クランを作る……なるほど、盲点でした。ありがとうございます」


「どういたしまして」


「しかしね、クラン作成には最低五人が必要なのです。恥ずかしながら、僕にはあと三人の仲間を工面できる人脈がありません。君、心当たりは?」


「三人と言わず、俺の他に七人いますよ。種族、性別を問わないようですから、大丈夫でしょう。……一人はちょっと、この街でも見ない種族なのですが」


「ふむ? このオールブライトの街にはあらゆる人種が集うと言われていますが……」


「かつて、人は西から大移動をして、東へ向かった」


「? はあ、そうですね。そのような話が伝わっています」


「その『見ない種族』はここより東の森の中にいる民で……まあ、なんていうか、森の精霊(ドライアド)みたいなものです」


「どらい、ええと……まあ、探索者は仕事がすべてです。仕事ができれば、どのような種族だろうとかまいません」


 すると黒髪の少年はみょうに苦々しい顔をした。

「あのババア、働くの大嫌いなんだよな」とつぶやいたけれど、それは人の喧騒でルカ少年の耳にはとどかない。


「では、そういうことで」


 黒髪の少年は人懐っこい笑顔で、そうやって話をまとめた。


 ルカはここで、初めて気付く。


「……申し訳ない。一点、重要なことを失念していました」


「なんでしょう、先輩」


「僕はどうにも人付き合いがうまくない。……こういう初対面の時は、名乗りあって、自己紹介などするのが、普通でしたね。僕はまだ君の名を知らないし、君もまた、僕の名を知らないようです。知っていれば、僕を避けるでしょうから。その状態でここまで話を進めてしまったのは、いかにも不公平で、卑怯なことをしてしまったなと反省しています」


「いや『卑怯』って言うほどでは」


「いいえ。是正されるべき卑劣さです。……僕の名は『ルカ』といいます。あちこちのクランを追い出され、ソロで活動をするしかない者です。もっとも、僕自身、クランを追い出されたことについて、間違ったことは一つもしていないと断言できますが、世間では僕の方に問題があるものと認識するのが普通でしょう」


「ああー……なるほど。先輩の口ぶりから、なんとなく察するところです」


「ふむ?」


「いえ。先輩がまっすぐ(・・・・)な人だというのは、交わした会話でわかる、という意味ですよ」


「まっすぐ、ですか。……そうですね。僕はまっすぐであろうと心がけてきました。この地下街の中央にそびえ立つプリズムのように、まっすぐで、丈夫で、輝かしいものに……ああ、僕の話ばかりしても仕方がない。君の名と、クラン設立意思について、改めてうかがいましょう」


 すると、黒髪の少年はニカッと人好きのする、少年らしい笑みを浮かべて、


「俺は『アレクサンダー』といいます。クラン設立意思に変更はありません。よろしくお願いします、先輩」

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