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アレクサンダー建国記  作者: 稲荷竜
幕間 聖剣にまつわる予言
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106話 予言と人々

「あァ!? アタシにはアレクサンダーの剣が作れねェっつうのかよ!?」


 むちゃくちゃキレられた。


 カグヤはどうにか説明を試みる。


 予言というのは、カグヤの意思とは関係なく見える未来のことだ。

 見ようと思って見えるものではないし、見たくないと思って見ないことができるようなものではない。

 ただ、『そういう未来がある』とわかるだけのもので……


「うるせェ!」


 予言に文句をつけられたり、あまつさえ『うるせェ!』と遮られたことなど一度もなかったカグヤは、たいそうおどろいた。

 おどろいて、大きな三角耳とふさふさした銀色のしっぽを立てて固まってしまう。


 ダヴィッドは背が低いのでカグヤとそう身長は変わらない。

 でも、太いぶん『圧』があるというのか、性格に勢いがあるというのか、ともかくカグヤにとって会話を試みることが困難な相手だった。


 そういうやりとりをしていると、アレクサンダーが割って入ってくる。


「まあまあダヴィッド。予言は予言だ。カグヤにあれこれ言ってもしょうがねーんだ。あんま怒鳴ってやるなよ」


「うるせェよ」ちょっと冷静になったようで、なんとなく気まずそうに視線を逸らした。「……でもなァ、アタシはお前の剣を打つためにいるんだ。折れず、曲がらず、なんでも斬れる、そんな馬鹿みてェな剣だ。そいつがアタシの旅の目的なんだよ。それを『無理』って決めつけられて、黙っていられるかってンだ」


「いいや、ダヴィッド、お前は黙っていられるやつだって、俺は知ってるぜ」


「ああ!? なんでだよ!?」


「ここには、鉱石があるんだろ?」


 と、アレクサンダーがそばの洞窟を指差した。


 ……森の民たちがいた広い森を抜ければ、そこはどこまでも続くような平原が広がっていた。


 西の方には街が――あるいは、かつて街だった史跡が――あるはずだ。

 なにせ森の民が西側からの旅人を受け入れていた歴史を持っている。

 最近ぱったりと途絶えたとはいえ、そちらには人の住める場所があるのだというのがアレクサンダーの見立てだった。


 そして、北には峻険な山脈地帯があった。


 そこから吹きおろす風のにおいを嗅いで、ダヴィッドが言ったのだ。

『嗅ぎ慣れねェ鉱石がある』。


 ドワーフは特殊な嗅覚を持っているようで、鉱石がにおいでわかるらしい。


 だから、彼女の鼻を頼りに、しばし北に進み、山を抜け、そして――

 今、この、鉱石の匂いが濃い洞窟へとたどり着いた、というわけなのだった。


 さすがに登山で疲れたので探索は明日から、という流れで眠って、そのあいだにカグヤが見たのが今回の予言だ。


 つまり、ダヴィッドは剣を作る気まんまんだった。

 カグヤの予言はそこに冷や水をぶっかけたわけである。……怒鳴られるのも仕方のない状況ではあった。カグヤがそれを、理解できなかっただけで。


 そんな状況で、アレクサンダーは言う。


「予言はあくまでも予言だろ。なら、予言された未来をお前の手で変えてみせろよ」


「……」


 予言はそういうものではない。

 カグヤは予言された未来は絶対に変わらないものだということを知っている。


 それは知識の蓄積でわかっている、ということではなかった。

 カグヤに能力が発現した時から、ただ、知っているのだ。それが真理なのだと確信しているのだ。


 だけれど……

 カグヤの故郷でもそうだったが、人は、努力で未来が変わると思い込みたいものらしい。


 予言を受けて、それが悪いものなら、努力し、準備すれば、その悪い未来を避けられるという思い込みが、なぜだか、みんなにあるのだ。

 そういうものではない。確定した未来だ。伝えた程度で変わるようなものではない。世界はそういうふうに推移すると決まっている。そう、カグヤは確信している。


 予言で聖剣……『折れず曲がらずなんでも斬れる剣』を作れないと言われれば、それは、作れないし。

 たとえば予言で死を予告されれば死ぬのだ。


 だが、アレクサンダーも、ダヴィッドも、どうやら、そうは思えないようだ。


「なあ、ダヴィッド。不吉な予言をされて、そこで予言者にあたるのは違うと思わねーか? お前ら職人は、黙って成果で予言を否定する。そういう連中だと、俺は思ったんだがな」


「……」


「むしろ、気合が入るじゃねーかよ。予言された未来を、もし、打ち破れたら? それはお前の行動が未来を塗り替えたってことだ。神様だか運命だかの思惑をぶっ壊したってことだろ? そいつは、たぎる(・・・)んじゃねーか?」


「へっ」


 ダヴィッドは笑った。


「その通りだ。『聖剣』つったか。いいじゃねーかよ。大仰で、いかにも特別なモンって感じだ。アタシが作る最高の剣に、その名前を冠してやらあ。そうと決まれば鉱石掘りだ。行くぜ!」


 ダヴィッドが気炎をあげ、アレクサンダーが「おう!」と返した。

 そばでシロが笑顔で拍手をし、ヘンリエッタとイーリィが寝泊りに使ったブランケットなどを丁寧に畳んで片付けている。


 サロモンはいない。無言のまま消えていた。

 たぶん朝食の獲物でも探しに行ったのだろう。あの男が無言で消える時は、だいたいどこかで動物を殺している。


 誰もカグヤの話を聞いてくれる人がいなさそうなので、ウー・フーの方を見た。


 緑髪褐色肌の、カグヤとさほど変わらない体格のそいつは、イーリィが片付けようとするブランケットにしがみついて唸りながら、


「わしは動かんぞ……こんな年寄りにこんな山を登らせるとか、なにを考えとるんじゃ……わしは寝る。今日一日は寝とるからな! 寝るからってば! なんで片付けんの!? 寝るって言うとるじゃろ!?」


 イーリィにブランケットをむしり取られていた。

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