混雑電車からの解放
電車に揺られること数十分、目的地である砂泉駅に到着する。海の駅である砂泉駅から大月駅と、山の駅である日暮駅から大月駅までの所要時間は同じくらい。ちょうど高校を挟んで同じくらいの距離にある。しかし流石は海に近い駅、日暮との混みあい方の差が凄まじい。日暮がここまで混むとしたら、こないだの祭りの時くらいだけじゃないだろうか。
夏真っ盛りのこの時期の人ごみに気圧されながらも、なんとか改札から脱出する。
電車の中の蒸し暑さから解放され、磯の香りを楽しむ。もう海は目と鼻の先にある。日差しが強く、肌が少しヒリヒリする。
「大丈夫か?」
「何とか……」
六人で電車に乗っていたにも関わらず、あまりの人の多さのせいでみんなバラバラになってしまった。俺はかろうじて深雪と一緒に行動できたが、他の人がどうなったかは分からない。この砂泉駅で降りる人がきっと多いので降り損ねることはないと思いたい。
海へ向かって行く人の流れを眺めながら、改札からちょっと離れたところで他の人を探す。
「人多すぎだろー」
「ほんとねー」
そういいながらこちらに向かってくるのは大地と渚の二人だった。二人はちゃっかり手を握っている。なんだかんだ吹っ切れてきていて弄りがいがありそうだ。夏休みが終わったら学校でも勝手にぼろを出しそうなのでそれを楽しみにしておく。
「えっ、あの二人って!」
何も知らなかった深雪が、二人の様子を見て驚いた顔をしてこちらを見つめてくる。
「見ての通りだな」
「なんで教えてくれないのー」
「聞かれてないからな」
「ケチー」
ケチと文句を言いながらもどこか笑みを浮かべている深雪。何だかんだ深雪もずっと渚の相談に乗ってきた人間なのでやっと安心できたのかもしれない。
「他の二人は?」
合流したタイミングで夜黒さんと康祐の居場所を確認をする。
「降りたところまでは確認できたけど後は分からねぇ」
「降りれてたしそのうち合流できるでしょ」
とのことだった。なので待っていればそのうち合流できそうだった。
四人でしゃべりながら待っているとようやく残りの二人が現れる。夜黒さんに関してはもう疲れ切った顔をしている。……これからまた動くけど大丈夫なのか?
「明ちゃんセンパイ大丈夫?」
深雪も心配そうに夜黒さんを見ている。
「うん、何とか……。中村君のおかげで……」
「いやー、夜黒さんの面倒見るのって大変だね。ずっとやってる快人は凄いと思うわ」
「だろ?」
「だろ、じゃないよ。もー。確かにずっと助けてもらってるけどさ」
少し頬を膨らませながらこっちを見てくる。
……のだがおもしろくない気がしてしょうがない。どうして今日はこんなにモヤモヤしているのだろう。
「快人、どうしたの?」
「ん? いや、何でもない」
渚の質問にはそう答えたのだが、渚はおもちゃを見つけたような笑みを浮かべてニヤニヤし始めた。……何が面白いのかわからない俺は余計にモヤモヤした。
「じゃあ揃ったし友々里の家に行こっか」
俺たちは渚に続いてぞろぞろ歩き始める。
砂浜は白く、空も晴れ渡っているのに、なぜか俺の心は曇り模様だ。




