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吸血姫様は今日も不機嫌  作者: 笹葉きなこ
彼女は吸血鬼
3/87

あれはきっと夕日のせい

「はい、というわけで委員会は決まったな。そろそろ時間もいいとこだしこのまま帰りのHR(ホームルーム)も始めちゃうぞー」


 委員会の担当決めは特筆することなくすんなり終わった。強いて言うなら大地と渚の二人が体育委員になったことだろうか。さすがイケイケ運動部といったところだ。ちなみに俺はここでも無所属だった。周りの優しさのおかげかな。部活をやめるくらいだしやらなくても仕方ないよね、くらいに周りが思ってくれて助かった。クラスメイトの優しさに感謝する。


 帰りのHRが終わり、俺は帰りの支度をする。今日の献立は何にしようかな、と考えに耽っていると大地に声を掛けられた。


「快人、この後ヒマ? 康祐ん家(こうすけんち)で遊ぶんだけどこれるか?」


 康祐(こうすけ)はこの大月高校の近くに住んでいるサッカー部員だ。たまに部活がなくて暇なときに康祐の家にサッカー部のメンバーで集まって遊ぶことがある。始業式で部活のない今日は、暇だから集まって遊ぶ時間があるという訳だ。


「折角だから行こうかな。夕飯作らなきゃいけないから早めに離脱するけど」

「オッケー、じゃあ康祐に伝えとくわ」


 始業式の学校は十二時過ぎには終わる。丁度昼時だという事もあって、康祐の家に集まる面子(メンツ)で近くのファミレスに来た。まだ日が高いうちに学校が終わるのは珍しいのでみんなテンションが高い。部活もないとなれば時間は有り余る。つい昨日まで春休みで、時間があったというのに何言ってんだと感じるかもしれないが、この学校終わりの解放感は素晴らしいものがある。いやまぁ、明日からが憂鬱なんだけども。


 そんなわけで、食事中の話題はおのずと学校の話になってくる。授業がだるい、体育が楽しみだ、図書館の入荷本がラノベだなんだ。そんな中、誰かがこういった。


「そういえば転校生の夜黒ちゃんって超かわいくね」


 と。そこからしばらく夜黒さんの話で盛り上がった。やっぱり男子高校生は美少女は好きらしい。あの銀髪はすばらしい、きっとどこかのお嬢様だ、あの表情で蔑まれたいだの。……おい最後の奴、しっかりしろよ。


 その後、話題は少し変わり恋バナになった。男子の恋バナに需要があるかは謎だけど、やはり恋愛沙汰は聞いてて飽きないものなのだろう。誰彼が別れた、別れた彼女とすぐにつきやったやつがいる、誰々はあの子が好きだと。


「そういえば快人は船津とはどうなの?」

「別にいつも言ってるけどただの幼馴染だって。何ならあいつ別に好きな奴ならいるぞ。本人の名誉のために言わないどくけど」

「幼馴染の王道はやっぱり空想の産物か……」

「え、まじかぁ。ちょっと狙ってたのに」


 みんなしっかり盛り上がる。繰り返しになるが渚とはただの幼馴染だ。なんなら勉強やスポーツはできるが変なところが抜けていて、少し手間のかかる妹くらいな認識まであった。なのでどちらかというと庇護欲的なものの方が強い。渚にはやっぱり幸せになってほしい。ちなみに誰を好きなのかはやっぱり内緒にしておく。


 ファミレスである程度の時間をつぶした俺たちは、その後康祐ん()に移動し、今度はゲームで盛り上がった。

 悲鳴、暴言が飛び交う阿鼻叫喚、地獄絵図だったが、これが俺たちの普通なので誰も止めない。

 



「それじゃ、そろそろお暇させてもらいますわ」

「おう。またなー」


 日差しが少し傾いてきた頃、そろそろ家に帰って夕飯の支度をしなくてはならないので俺は康祐の家を後にした。

 ファミレスを出て康祐の家に向かった時には青かった空も、今は少し赤に染まっている。影も長くなり、やや人通りの少ない夕方の空間を楽しみながら歩く。

 夕焼けの色から連想して、今日の夕飯はビーフシチューにしようかな、なんてことを考えながら歩いていると、視界の端に美しい銀髪が映った。あれは……、夜黒さんだ。夜黒さんは片手にスーパーの袋をブラ下げながら歩いている。転校してきたとのことだったが、越してきたのはこの辺らしい。

 今は制服ではなく、春らしい明るいコーデの服を着ている。


 声を掛けるか掛けまいか、少し悩む程度の距離を歩いていた。わざわざ寄っていくには距離はあるがので、そのまま悩みながら一定の距離をあけて歩いていた。


 しばらくすると、交差点の角から突全、ふらふらと自転車が飛び出しててくる。そして、その自転車はあろうことか夜黒さんと衝突してしまう。夜黒さんは「キャッ」と短く悲鳴を上げながら、少し吹き飛ばされてしまう。自転車の方は多少ふらついたものの倒れることはなく、そのままどこかへ行ってしまった。


 そんな光景をみて少し呆然としていたが、ハッと我に返ると夜黒さんのもとへ駆け寄って声をかけた。


「大丈夫?」

「はい、まぁ何とか、大丈夫です。ありがとうございます。えぇっと……」

「あぁ、晴気快人です、同じクラスの。好きに呼んでくれていいよ、夜黒さん」

「ごめんなさい、まだクラス全員の名前は憶えられてないの。改めてありがとう、晴気君」

「あいあい。んでどうする? 警察呼ぶ?」


 意識不明の重体とかにはなってなくて良かった。普通に会話はできている。一応交通事故ではあるので警察を呼んだ方がいいと思い、俺は夜黒さんにそう尋ねた。が、意外な返事が返ってきた。 


「あ、待って、警察には連絡しないで。大事にはしたくないの、お願い」


 まさかの拒否だ。どう考えても自転車の方が悪かったし、今後のことを考えても警察を呼んだ方が良かった気もするが、当人が連絡してほしくないというならしょうがない。


「えぇ……、まぁ夜黒さんがそれでいいならいいけど」

「ありがとう。じゃあ私はこのまま帰るから」


 さっきまでのやり取りでは壁をそこまで感じなかったものの、ここでサッと引き上げられてしまうとやはり壁を感じる。

 そう言うと夜黒さんは落とした荷物をまとめて歩き出そうとした。しかし、夜黒さんは立った時に少し顔をしかめて、すぐに止まってしまった。

 足首をひねってしまったのだろうか。足首周りが赤くなってかなり腫れている。


「夜黒さん足大丈夫?」

「どうせすぐ歩けるようになるからいいよ。気にしないで」


 そう言ってその場を離れようとするけどどうしてもスピードが出ず、その場で見守っていてもなかなか遠のかない。さすがにこのまま見捨てていくのはどうしても後味が悪いわけで。


「いや、送ってくよ。足もそのまま放置して悪化しても困るし。ほら荷物も持つよ」


 俺はそう言って立ち止まって振り返る夜黒さんの手から、ビニール袋をちょっと強引に横取った。これくらいのことをしないと夜黒さんが折れてくれないような気がしたからだ。


「はぁ……、そこまで言ってくれるなら断るのも悪いし、お願いしようかな。つっ」

「ほら、やっぱり痛いんじゃん。どうする? おんぶしてっても良いけど」


 半分冗談交じりに言うと、夜黒さんはうつむいて、少し躊躇いながら、


「え、でも……。んー……。じゃあ……、お願いします」


 少し不機嫌に言った夜黒さんの白い肌が少し赤く見えたのはきっと夕日のせいだろう。

 俺としても、隣を足を引きずりながら歩くのを見るよりも断然気が楽なので負ぶって行く方が良い。


「大丈夫? 重くない?」

「大丈夫だよ、夜黒さん小柄だし」


 夜黒さんは見かけ通りに軽かった。背中にかかる力は小さく、歩くのに支障はなさそうだ。荷物も受け取り済みで、体勢的にも問題はなさそうなので歩き出す。


 最初に方向を確認したとき以外、夜黒さんは口を開かず、沈黙の時間が続く。背中に感じる感触に(よこしま)なことを考えないようにしつつも、背中に感じる温もりは意識してしまうし、どうしても漂ってくるいい匂いにも気を取られてしまう。

 そういう意味では沈黙が厳しかったので気を紛らわすために口を開く。


「夜黒さんは独り暮らししてるんだって?」

「うん。前の家から引っ越すときに親についていけなかったから、こっちで一人に」


 子を置いて別の場所に引っ越すことがあるのか、と少し考える。が慌てて夜黒さんが情報を補足する。


「あ、別に死んじゃったとか、捨てられたとかじゃないから気にしなくていいよ」


 どうやら深刻な理由があるわけではなさそうだ。安心した俺は自分の事情も話す。

 

「そういう事ならよかった。俺の親も出張でいなくて、今は妹と二人で暮らしてるんだ。家事は自分でやってるんだけど大変で大変で。ご飯は食べるから作るんだけど掃除ができなくてさ」

「わかるわかる。このままでいいやみたいになっちゃう」


 その後、俺たちは意外と家事トークで盛り上がることができた。表情は見えなかったが、きっと悪くはなかったと思う。そう思いたい。学校では質問攻めにされて少し困っていたし、自然な会話になったのはいいことだ。

 何で席を離れたのに質問攻めになっていたのを知っているかって? それは離れる前から質問攻めなのを見てたからだ。

 それにしても、夜黒さんは見かけによらず掃除は苦手らしい。ものすごくきっちりしていると思っていた。


 楽しかった会話の時間は長くは続かず、気が付いたら夜黒さんの住んでいるマンションに着いていた。まだ10分もたっていないだろうか。道が分からなかったことと、夜黒さんをおんぶしていたことがあるわりに早く着いたと思う。まぁ買い出しに歩いて出かけられる程度の距離なのでそもそもが短かったことがある。


「ん、ここで大丈夫。ありがとう」


 そう言って、夜黒さんは俺の背中から降りる。背中からはさっきまであった温もりが無くなる。


「あいあい。んじゃしっかり冷やして安静にしといてよ。あまりにひどければ病院も行くんだぞ? それじゃ、えーと、また明日?」

「うん、わかった。また明日」


 俺は挨拶をして、マンションを離れようとした。

 数歩いたところで、後ろから掛けられた声で立ち止まる。


「あのっ、晴気君、お礼もかねてなんだけどさ、その、お茶くらいしか出せないけど、あの、どうですか? 寄ってったり……」

「いやー、さすがに女子の部屋にいきなり入るのは……。ちょっとね?」

「そこは気にしなくていいからさ。その、家事のコツとか聞きたいし……」


 やや強引に誘われた俺だが、さっきもやや強引に俺が負ぶってきたので誘いに乗ることにした。


「そういうことならまあ。お邪魔しますかな?」


 何と驚いたことに夜黒さん宅に早速お邪魔することになったのだ。

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