弁当は手作り
今日は後ろから渚の生暖かい視線を感じながら授業を受けた。ついでにやや憤慨している夜黒さんの視線も受けていた。
昼休みになると渚と大地は体育委員会の集まりがあるらしく、二人で会議に行ってしまった。康祐の席に行って弁当を食べても良かったが、席を離れて行き際の渚に「明ちゃんよろしくー」と言われてしまったのでそのまま自席で食べることにした。
珍しいを物でも見ているかの様に、夜黒さんの視線は俺の手物の弁当に吸われている。
「晴気君はお弁当は手作りなの? 」
「うん、昨日の夜の残り物と朝ごはんの残りを詰めて作ってる」
「いやー、やっぱりすごいなー。よく毎日作れるよ」
「一応去年から練習はしてたしね、あと部活もやめたし」
「あぁ、そっか……、言ってたね」
「夜黒さんは弁当作ろうと思わないの? 」
「自分で作ってもおいしくできないから……。買っちゃうかなー」
「あはは、知ってた」
そろそろ本格的に料理を教える日程を考えてもいいかもしれない。いつまでもコンビニ弁当なのも可哀そうになってきた。せっかく練習する意思があるのだからできるうちにしておかないと。
夜黒さんのことだから先送りにしていると確実にめんどくさがってやらなくなってしまう。まだ出会って間もないが確実に分かる。
「ほんと、なんで毎日つくれるの? 」
夜黒さんは小首をかしげながらそう尋ねてくる。
「結局朝と夜に飯作んなきゃならないから。手間数としてはたいしてかわらないんだよ」
「なるほど。妹さんとは交代制とかにしないの? 」
「深雪は中学の時にバスケの県選抜選手になってるからさ、やめさせるわけにはいかないかなって。兄としても妹の活躍は楽しみだし」
「シスコンかな」
「いや、違うわっ」
不名誉な称号を付けられそうになりながらも、俺たちは会話を続けながら昼ご飯を食べ終えた。食べ終わってから気が付いたが、この年になって男女サシで会話をしながら飯を食べるなんてなかなかない気がして小恥ずかしくなった。深雪とは家でサシで食べているが、あれは家族だからノーカンだ。
午後の授業が終わり帰りのHRが始まる。
「とりあえず一週間の授業は終わりました。明日は今年最初の模試があります、各々今の実力を出せるように努力すること。わからなくってもしっかり最後まで考えること。不安な人は今日家に帰ったら復習をしておくように。
はい、何か連絡がある人はいるかー?」
横山田先生が明日の話をしつつ、連絡がある人はいないかと尋ねる。ここで大地が手を上げて指名される。
「来週にある体力テストに関して詳細が出たので各自確認しておいて下さい。当日また詳しい連絡はするので、わからないことがあったらそのとき聞いてください。まぁ去年やったこととほとんど変わらないから大丈夫だと思います」
大地から体力テストの連絡が入る、なるほど、今日の昼休みの集会はそのためだったのか。
この学校の体力テストは一日にまとめて行われる。ただしシャトルランと持久走は除いてだ。このふたつだけは体育の時間に行われる。それぞれ二回ずつ行われる。地獄のランニングだけ数が多いとかこの学校の体育教師陣は鬼が過ぎる。
体力テスト以外の連絡は特になく、帰りのHRは終わる。
宿題は昨日あらかた終わらせたので今日は特にやることもない。サッカー部の練習に顔を出そうかなと思ったが着替えがないことに気が付いたので諦めた。部活に行く人を見送りながら少しぼーっとしていると、後ろから声をかけられる。
「えっと……、今日も宿題やってく? 」
不安そうに質問をしてきたのは夜黒さんだった。すでに不安そうな顔をしている夜黒さんに対してもう終わってるなんて言えるはずもなく。
「どうしよっかな。ちょっとだけやっていこうかな」
「そっかっ。じゃあ私もやって行こうかな」
宿題はたぶん終わるので、適当に明日の模試の対策でもしておこうと思った。今日もそこそこ長めの居残りが確定した瞬間だった。
ただ、後ろで少し嬉しそうにしている夜黒さんがいるので居残りも良いかなって少しだけ思えた。