クソ真面目人間
夜黒さんと連絡先を交換した次の日の朝。
今日はバスケ部の朝練がないらしく、自宅の最寄り駅で渚を見かけた。
「おはよう」
後ろから声をかけると、渚も振り返りながら挨拶を返してくれる。
俺たちはそのまま電車に乗り込み、学校へ向かう。
「昨日の深雪はどうだった? 」
深雪からも話も聞いていたが、先輩として見た深雪の様子も気になったので渚にも聞いてみる。
「さすがといったところ。受験勉強で動けてなかった分多少動きに鈍りがあったけど、センスは健在ってところかな。すぐにでもレギュラー入りはできると思うよ」
「渚から見てそれなら安心かな。活躍できそうでよかった」
「深雪ちゃんにそんな心配するとか失礼でしょ、全く」
「ははは。確かにな」
昨日の部活体験の時点でそこそこ活躍はできていたようだ。少し安心してホッと息をつくと、今度は渚から質問をされる。
「快人はどうなの。最近やたらと明ちゃんと仲が良いようですけど。昨日だってなんか残ってたみたいだし」
「あれはただ宿題をしてただけ。別に特に何もないよ」
「ふふーん、そうですか。まぁ快人は昔からクソ真面目だからね。間違いなんて起きるわけないか。あはは」
渚は少し失礼なことを言いながら笑う。まぁ別に怒るようなことでもないし、前からこういうことは言うので慣れている。何でも言い合える仲というのもなかなかいいものだし。
そしてやられっぱなしでは楽しくないのでこちらからも攻撃をかける。
「渚は最近よろしくできているのかな?どこかのだ……」
「なっ、ストップ。何で今その話になるの。当てつけにもほどがあるでしょ」
「別に似たような話題を振ってあげただけなのにな。あまりに進展が無い様ならまたなんか企画してやってもいいけど、どうする」
「今年は同じクラスになったわけだしもう少し自分で頑張りますー」
「去年は同じ高校に入れたから何とかなると言ってた気がするけどな」
「うっさいなー。こっちだって色々あるんですー。こればっかりは経験しないとわかりません。クソ真面目さんにはしばらく縁はないでしょうけどね」
「別に大して興味ないし、そこまで余裕ないから良いけどな」
「なんか損な性格してるよねー。余裕ないと言いつつ、そこそこ余裕あるんだから自分の為に使っていいと思うのに」
「そもそもこんな美少女が幼馴染だと大体の人が劣って見えちゃうしな。しょうがない」
「急に持ち上げてくるのやめてよ。ほめても何も出ないよ」
「ほんとの事なんだからいいだろ」
「これを他の人にもできればいいのにね」
「余計なお世話だ」
恋バナと呼べるか呼べないかギリギリの話をしながら時間をつぶす。
「てかほんと誰にも言ってないのになんでばれたんだか」
「そりゃ見てりゃ分かるだろ。幼馴染なんだし。わかりやすすぎる」
渚は活発な女子だが、妙にしおらしくなる時があった。それは中学の時だった。気になったので直接聞いてみたら、好きな人がいると言われた。
意外な人物に恋をしていたのでその頃は少し難しいのではと思っていたが、最近は時間の問題だと思っている。きっとそのうち解決される。向こうにも気はあるっぽいし。万歳。
そのまましゃべっていると電車は学校の最寄り駅についていた。
俺たちは慌てて電車を降り、そのまま学校へ向かう。
教室に人はまだそこまで来ていなく、昨日と同じくやや静かな空間が広がっていた。ただ昨日と違う点は夜黒さんがもう教室に来ていたことだった。
おはようと言いながら俺たちは席へ向かう。まだ席は出席番号順なので渚とは連番になっている。
席に着くときに夜黒さんから冷ややかな目で見られていることに気が付いた。ただ、渚のことは普通に見ていたのでどうやら対象は俺だけらしい。
「あれ、明ちゃんもしかして嫉妬ですかー? 」
俺でも気付くくらいなので、当然渚もそのことに気付きつつ、質問を投げる。夜黒さんはやや怒りながら否定してくる。
「なんかそんなに睨まれるようなことした? 」
出会ってから間もないが、夜黒さんの不機嫌の対象になることがどうも多い気がする。ただ、どうしても妹感が強いためか何だかかわいいものを見ている気にもなる。
「いや、別に? むしろ何もしてくれなかったから?」
「さすがにそれだけじゃ分かんねぇから」
「乙女心が分かってないなー、快人君は。ほれあっち行ってて」
「しょうがないな」
追いやられて仕方ないのでトイレに向かって適当に時間を潰す。さすがにそんなに長い間追い出されるはずもないのですぐに戻る。
教室に戻ると笑みを大量にこぼす渚と、顔を真っ赤にしてこちらをにらむ夜黒さんがいた。
「なんでそんなニマニマしてんだよ」
「だって明ちゃんてばかわいいんだよ。聞いてよ」
「別に言わなくてもいいじゃんっ」
静止してくる夜黒さんを無視して渚は続ける。
「快人から連絡が来なかったのが不満だったんだって。連絡してあげなかったんですか? 連絡先の交換までしたのに進展がなかったらしい快人君よ」
「別に急用があったわけでもないし良いかなって。てかそんなに気にしてたんならそっちから送ってくれてもよかったのに」
「だって何か恥ずかしいじゃん」
うつむきながら夜黒さんはそういう。
吸血鬼様は恥ずかしがりだったようだ。そして今日は帰ったらなんか送ってあげようと決心した。