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吸血姫様は今日も不機嫌  作者: 笹葉きなこ
ご機嫌斜めな一学期
13/87

時間あったら教えるよ?

 さすがにHR(ホームルーム)が終わってからしばらくした校舎内に人は全然いなかった。ところどころ電気がついている教室があるくらいで校舎内は薄暗かった。別の棟から吹奏楽部だろうか、管楽器の音が良く聞こえてくる。


 教室から続く沈黙が少し寂しく感じてしまったのでさっきまでの勉強の話を持ち出す。


「夜黒さんは得意な科目とかあるの?」

「うーんとね……」


 立てた人差し指で宙を撫でながら考える夜黒さん。


「強いて言うなら生物かな。結構自分の体質について調べたりしたから」

「自分で自分について調べるとかさすがだな。やっぱり不自由とかあるの? 」

「一番困るのは雨に濡れると百発百中で風邪をひいちゃうことかな。ちょっと体が弱いくらいにしか感じないから、すごくつらいとかいうわけでもないし、傘させば何とかなるんだけどね。あと自分の血を貯めておかなきゃならないのもちょっとめんどくさいかな」

「確かにほかのことは全然できてないのに血だけは冷蔵庫にしっかりあったしな」

「ほかのことはできないは余計ですー」


 ずぼらだと色々困ることも多そうだが、絶対に必要なことは忘れない辺りさすがだ。

 こんなやり取りをしている間に、さっきまで若干あった気まずさはすっかり紛れた気がする。

 とはいえ、無言で歩き続けるのもあれなのでさらに質問を続ける。夜黒さんの生活も気になるし。


「料理の練習はしたの? 」

「……」


 沈黙を返される。このままだとまたダークマターを作り出しそうな気がする。いうて俺も最初のころは作ったことがあるが。


「今度なんか教えてあげようか」

「ぜひお願いします。またあのおいしい卵焼き食べたい」


 夜黒さんは目をキラキラさせながら食い気味に答える。今度はもてなしてくれると言っていたが、この調子だとまた大変なことになりそうだ。なにが出てくるかわかったものじゃない。


「今度暇な時にでもまた作るか、暇なときあったら教えてよ」

「はーい」


 そう約束を取り付けた頃にはちょうど昇降口に着いた。

 上履きから土足に履き替え、そのまま校門へ向かう。

 夜黒さんの家は駅への最短経路を少し外れるが、そこまで遠回りになるというわけでもないので送っていくことにした、

 暫らく雑談を続けているうちに気になっていたことを思い出した。


「そういえば朝なんか言おうとして渚に遮られてたけど、何言おうとしてたの? 」

「それかー。大したことじゃないんだけどね。まだ連絡聞いてなかったから教えてもらえないかななんて」


 確かに連絡先の交換はしていなかった。当たり前だが夜黒さんは転校生なので元から連絡先を持っていたりするはずはない。クラスのグループに名前は見かけたのできっと女子の誰かが招待はしたのだろう、多分渚あたりだ。


「そんなことか。別に良いよ。LINKER(リンカー)でいい? 」

「もちろん」


 そう言って俺たちは連絡先の交換をした。


「これでいつでも質問できるようになったね」


 夜黒さんは少し嬉しそうに言う。料理の質問はほどほどにしてくれよと胸の中で思いながらも、適当に返事をする。


 歩くこと数分、夜黒さんのマンションに着いたので「また明日」と別れの挨拶をする。

 まだ二回目だが駅の周辺ということもあり、あっという間についたように感じる。いや、ここに来る事自体は忘れ物を取りに来たのを含めると三回目なんだけどさ。


 そろそろ駅に着くというタイミングで深雪からLINKERで連絡が来る。


『部活の体験やってたから帰るの少し遅くなる!』


 深雪は渚の影響を受けてか、小さいころからバスケをやっている。実力としては申し分なく、選別のメンバーに選ばれるぐらいにはうまいらしい。渚もそれに張り合える程度にうまく、よく二人で練習をしている。

 去年の俺が部活体験をやっていた時も大体これくらいの時間に解散していたような気がする。特に問題ないはないので大丈夫と深雪に返事を返す。


 新しく追加された連絡先を見ながら、最近の出来事に思いを馳せる。

 かなり気にしていた二年生のクラス割り。かなり良かったと思う。

 すこし手のかかる吸血鬼の夜黒さんとも知り合え、なかなかに楽しい。どこかに既視感を覚えたが、手のかかるという意味で深雪や昔の渚を思い出す。何というか新しく妹が増えた気分だ。


 家に帰ると適当に野菜と肉を炒め、夕食を作る。作っている間はどうやって夜黒さんに教えてあげようか、なんてことを考えていた。

 深雪が帰ってくると二人で夕食を食べながら、学校はどうかという話をした。深雪の方も滑り出しは順調らしく、特に心配はなさそうだった。


 その日の夜もいつも通りにテレビなどを見て過ごし、そのまま寝た。そして何事もなく次の日の朝を迎えたのだった。

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