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第4話 王都へ

 数日後、彼女から一通の手紙が届いた。手紙には十億と国宝級であるという剣の入手方法が詳しく書かれていた。


(……おいおい、これ本当に大丈夫なんだろうな)


 手紙に書かれていた入手方法は、はっきり言ってかなりヤバい内容だった。成功すれば確かに目的のブツは手に入るが、失敗すれば牢屋行きの可能性もあるという感じだ。だが、これは乗りかかった船だ。ここで辞めるわけには行かない。俺はさっそく手紙に書かれている通りにエステニア王国の首都である『王都イクセル』へと出発する準備を始めた。


 ……後日、俺は王都イクセルへ到着した。今、俺は王都の入り口の門の前に立っている。さすがに王都というだけあって、街の規模はかなり大きく、人の往来も盛んだ。


(ただ聖王国の首都と比べると向こうの方が上かな)


 俺はそんなことを思いつつ、王都へ入ろうと門を通ろうとした。すると、門衛が一人近寄ってきて俺を制止した。


「こんにちは、旅人さん。悪いけど、今ちょっとした『調査』をしていてね。失礼だが、あなたの名前を教えてくれないだろうか?」


 そう言った門衛に対して、俺はごく自然に笑顔で答えた。


「えっと、クライス・ルーンフィールドです」


 ――途端に門衛の顔色が変わった。門衛は少しここで待っているように俺に言うと、他の門衛のもとに行き何やら話し始めた。すると他の門衛も皆みるみるうちに顔色が変わっていく。そうこうしてるうちに門衛の一人が馬に乗って王都の方へと駆け出していった。


(まずは第一段階クリアといったところか……)


 俺は心の中でそう呟いた。



 それから結構な時間が経ち、街の方から騎士と思われる男たちが数人、門衛と共にやってきた。騎士は俺を下から上まで値踏みするように見ると、確認したいことがあるから王宮の方まで来て欲しいと言った。俺は少し困惑したフリをしながらその提案に同意した。


 そして俺はそのまま王宮まで連れて行かれた。エステニア王国の王宮は見るのは初めてだったが、かなり荘厳でなかなかのものがあった。


(まさか故郷で王宮を追い出された俺が、他国とはいえ王宮に招かれる日が来るとはな……)


 少し運命のいたずらのようなものを感じつつ、俺は王宮に入るととある一室へと連れて行かれた。中には上流貴族と思われる人間が多数と神官っぽい衣装を着た老婆がいた。上流貴族たちは部屋の四方で真ん中の老婆を囲むように立っている。中央には椅子があり、俺はその椅子に座るように老婆から促された。


 椅子に座ると、老婆は奥のテーブルの上にある宝石箱のようなものから一つの首飾りを取り出した。大きな紫色の宝石が特徴的な首飾りだった。そして、おもむろにその首飾りを俺の首へと掛けた。――すると、すぐに変化は現れた。さっきまで紫色だった宝石が深い青色へと変わっていたのだ。俺はそれを見てさも驚いたフリをする……まぁ、実際結構びっくりしたのだけども。


 周りからはすぐに「おお……」と声が上がった。喜び、期待、驚き、戸惑い……様々な感情が入り混じった声が聞こえてくる。


「間違いない、この者は伝説の勇者じゃ!」


 そう老婆は言った。それを聞いて困惑したフリをしながらも、俺は心の中でニヤリと笑った。ここまで全て例の手紙の筋書き通りだ。


 その後、俺は別室に連れて行かれ、大臣を名乗る中年の男と色々話をすることになった。


「……それで冒険者をやめて仕事を探しに王都に来たと。間違いないな?」


 大臣はそう言ってこちらを訝しむように見る。


「はい」


「……出身は地方の農村で職業はD級冒険者。剣、魔法の腕は並以下でこれといって特技はなし。そうだな?」


「……はい」


「正直言って、お主のような人間が伝説の勇者というのにはいささか驚いたよ。だが、大神官殿の予言は見事に当たったし、『青の光』が反応したのも事実だ。お主が伝説の勇者というのは確かだろう」


『青の光』というのは大神官だったらしい老婆が俺の首にかけた首飾りのことだ。勇者の素質を持つ人間が首にかけると青色に変わることからその名が付けられたらしい。


「それで、お主の今後についてなんだが、この国に伝わる勇者の伝説については知っておるな?」


「もちろんです」


「であれば、話は早い。現在、我が国は隣国であるベルガルド魔王国と戦争状態にある。伝説の勇者であるお主には、ベルガルドの魔王をその力を持ってして討伐してもらいたい――――と言いたいところだが、まぁ正直なところ特に何もしてもらわなくても構わんよ」


 大臣はそう言った。勇者とは言っても一個人の能力はたかが知れているし、当てにはしていないという意思表示だろう。実際、遥か昔はともかく今のエステニア王国には王国騎士団という強力な軍隊がある。どこの馬の骨とも知れない、かつ強くもなさそうな勇者なんて正直どうでもいいというのが大臣始め他の王国上層部の本音だろうな。


「いえ、一応、勇者として魔王討伐には貢献したいと考えています」


「……そうか? それは実に結構。王国騎士団の邪魔にならない程度で好きなように活動してくれ」


 大臣は明らかに興味がないといった様子だった。それから俺は大臣とおよそ一週間後に執り行われるという勇者の任命式について少し話をした後、宿泊予定の宿へと向かった。


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