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第31話 VS魔王軍

 それからおよそ一週間後、魔王軍が国境を超えて侵攻し、国境の近くにある村を襲って略奪し始めたとの報告が入った。村の人々は事前に避難させていたため人的被害はない。今回襲われた村には罠は仕掛けていないが、その村の近くにある別の村には罠が仕掛けてある。引っかかるのも時間の問題だろう。明日罠に引っかかるとして罠の効果が出るのは明後日だ。俺は騎士団に明後日出撃するための準備を整えるように指示を出した。


 翌日、魔王軍が罠の仕掛けられている村を襲ったとの報告が入った。これで次の日になれば魔王軍が罠にまんまと引っかかってくれたかどうか判断できるだろう。俺は期待に胸を踊らせていた。


 そして次の日、斥候から報告が入った。魔王軍は次の町の襲撃のために移動していたが、途端に移動スピードが落ち、今では移動が完全にストップしているとのこと。


「……どうやら引っかかってくれたようね」


 ミアがこちらを見て言った。俺はニヤリと笑って答える。


「ああ、予定通りだ。魔王軍の戦力は今や半減しているだろうな」


 この時点で俺はほぼ勝利を確信していた。あとはいかに効率的かに勝つか。俺は立ち上がり、目の前で出撃の準備が完了している騎士たちに大きな声で言った。


「――全軍、出撃!!」



 そこからの行動は早かった。王国軍は数時間もしないうちに魔王軍のすぐ近くまで移動し、そこで待機した。俺はアマンダと伝達用の騎士数名とともに別行動を取り、両軍が見渡せる小高い丘の上に陣取った。


「……うわ、これはひどい」


 隣でアマンダが双眼鏡を覗きながら言った。


「半分以上は完全に動けなくなってるし、残りの半分もだいぶ消耗している。くく、ここまでうまくいくとはな……」


 俺も双眼鏡を覗きながらニヤリと笑って言った。眼下に広がるのは、動けなくなっている多くの魔王軍の兵士、必死に手当する少数の医療部隊、そして右往左往する軍幹部たちだった。


「でもほんとよく思いつくよねー、『大量の酒樽に毒を入れて村に放置する』なんて作戦。これはいいモノを手に入れたと思って飲んだら毒入りだったなんて、なんか魔王軍がかわいそう」


 アマンダが楽しそうに言う。……そう、俺は魔王軍が村を襲う前に、村の家々の地下に大量のぶどう酒が入った酒樽を多数放置していたのだ。もちろん強烈な神経毒入りのものだ。少量でも摂取すれば数日は満足に体が動かせなくなるだろう。魔王軍はまんまとそれを飲み、今日になってその毒が回ってきたというわけだ。


「くく、我ながらよくできた作戦だと思う。略奪した酒を飲まない軍なんて、まずいないからな。勝利の美酒が実は敗北の美酒だった、なんて最高だろう」


「ほんと、清く正しい勇者様の発言とは思えないセリフだねー」


 アマンダが茶化して言う。……もともと俺は勇者っぽい勇者を目指すつもりはまったくないんだけどな。さて、これで『完全なる迎撃』作戦の第一段階は成功した。次の段階に移ろう。


「……一騎打ちの申し出をするようミアに伝えてくれ」


 俺は側で待機していた騎士に向かって言った。騎士はすぐさま馬に乗り、王国軍本部に向かって駆け出した。


 しばらくして、魔王軍の近くに陣取っている王国軍から馬に乗った一人の騎士が魔王軍の方へ駆け出していくのが見えた。片方の手には王国騎士団の旗がある。騎士は魔王軍のすぐ近くまで来ると、何やら魔王軍に向かって叫び始めた。ここからではさすがに聞こえないが、魔王軍に向かって大将同士の一騎打ちを呼びかけているのだろう。ひとしきり叫ぶと騎士は王国軍の方へと帰っていった。


 その後、しばらくして今度は魔王軍の方から一人の騎士が魔王軍の旗を掲げて王国軍の近くへとやってきた。何やら叫んでいる。魔王軍の騎士は叫び終わると自軍へと戻っていった。それから少しして王国軍本部から報告のために騎士がこちらへとやってきた。


「……勇者様、魔王軍との一騎打ちの件ですが相手は了承したようです。これからおよそ三十分後に相手側の大将との一騎打ちが行われます」


「了解した。それで『もう一人の勇者』の方は問題ないか?」


「ええ、少し緊張しているが問題ないとのことです」


「わかった。こっちも問題ない、いつでも一騎打ちを開始してくれとミアに伝えてくれ」


「はっ!」


 騎士はそう言うと踵を返して王国軍の方へと戻っていった。



 三十分後、王国軍側から俺と姿が瓜二つの『もう一人の勇者』が現れ、魔王軍の方へと歩き出した。同時に魔王軍の方からも大将と思しき、重鎧を着た魔族の男が歩き出してくる。両者は同じような速度で歩き、ちょうど両軍の中間地点で相対した。両者は武器を構える。勇者は剣、魔王軍の大将は槍だ。


――そしてしばしの沈黙の後、両者は駆け出し、激突した。


 まず魔王軍大将が勇者に向かって槍を驚くべき速さで突いた。しかし、勇者は軽くそれをかわすと素早く相手の懐に潜り込み、脇腹へと剣を振った。魔王軍大将はそれを察知し、戻した槍で剣の一撃を防ぐ。ガキィン!と大きな音が聞こえてきそうな衝突だ。


 その後も両者の打ち合いは続く。速さでは勇者の方が上だが、魔王軍大将の槍さばきは見事なものでなかなか勇者は有効な一撃を入れることができないでいる。さらに何度か打ち合った後、魔王軍大将は急に動きを止め、勇者に向かって何かを言った。そして、ニヤリと笑うと突然体にオーラのようなものを纏い始める。


(まさか……あれは闘気か!?)


 完全に予想外の事態だった。勇者、いや『魔法具で勇者に化けたユーリ』が一対一の戦いで負けるとは考えにくいが、相手もユーリと同様の闘気使いだとしたらどうだろうか? 勝負はわからないかもしれない。しかし、今の俺にできることはユーリを信じることだけだ。ユーリの方を見るとユーリも同じように闘気のオーラを纏っている。


(ユーリ、頼むぞ……。ただ無理はするな。例え、敵軍大将の撃破に失敗したとしても、王国軍は健在だし策もまだある。ヤバそうなら逃げろよ……)


 ヤバそうなら例え一騎打ちだろうと逃げろということは既にユーリには言ってある。俺はユーリが勝利することを願いつつも、それ以上に無事であることを祈った。


 そして遂にお互い闘気を纏った状態での戦いが始まった。魔王軍大将は闘気を込めた槍をユーリに向かって突く。先ほどとは全く違って、目で追うのが困難なほどの速さだった。しかし、ユーリはこれをかわした。魔王軍大将はさらに槍をユーリに向かって振り下ろす。これもユーリは紙一重でかわす。


 だが、闘気の込められた槍の威力は半端ではなく、振り下ろされた槍が打ち付けられた地面は半径ニメートルほどに渡って大きく吹き飛んでいた。魔王軍大将はこれで終わりだと言わんばかりにユーリに向かって追撃をする。


――次の瞬間、俺は信じられない光景を目にした。


 ユーリは剣を振り下ろすと相手の槍の先端に剣を叩きつけ、そのまま槍を真っ二つにしたのだ。魔王軍大将は驚愕の表情を浮かべたが、その隙をついてユーリは魔王軍大将にさらなる一撃を放った。その一撃は凄まじく、おそらく闘気で強化しているだろう魔王軍大将鎧を容易に切り裂いた。剣は魔王軍大将の肉体に達し、魔王軍大将は胸から血しぶきを上げて倒れる。


……一騎打ちはユーリの完全勝利に終わったのだった。結局のところ、ユーリと魔王軍大将では比べ物にならないほどにユーリの闘気は強大だったのだ。魔王軍大将がユーリと同じように闘気を纏った時はどうなるかと思ったが、蓋を開けてみればユーリにとってはなんてことはない楽勝な戦いだったというわけだ。


(ふぅ、全くひやひやさせやがって……)


 俺はユーリが無事でよかったと安堵した。


……そして、ユーリ扮する勇者の勝利に王国軍は大きな歓声を上げ、魔王軍は完全に意気消沈していた。魔王軍大将は重傷を負ったもののまだ生きていて、他の兵士によって自軍へと運ばれていった。しかし、あの傷では治癒術でも動けるようになるまでだいぶかかるだろう。自軍の頭が無様に敗れる姿を見て、魔王軍の士気は大きく低下しているはずだ。……魔王軍大将を生きて帰すというのも作戦の一つだ。これは頭を失った魔王軍が自暴自棄になって突撃してくるのを防ぐためだ。


(……よし、これで『完全なる迎撃』作戦は第二段階まで完了した。残るは最終段階のみ……)


「魔王軍に降伏を促すようにミアに伝えてくれ」


 俺は近くで待機している騎士に言った。騎士は「はッ!」と言うと、王国軍の方へ向かって駆け出していく。


……しばらくして王国軍から馬に乗ったミア本人が現れ、魔王軍へと近づくと何かを叫んだ。間違いなく降伏勧告だろう。しかし、魔王軍の反応を見る限りでは特に降伏する様子はなかった。武器も構えたままだ。……あくまで徹底抗戦するということだろうか。ミアはしばらく呼びかけていたが、諦めた様子で自軍へと戻った。そして、こちらへ向かって合図をする。


「やはりやるしかないか。――アマンダ、例のやつの準備はいいか?」


「いつでも行けるよー♪」


「よし、じゃあ頼む」


「おっけー♪」


 アマンダはそう言うと魔杖ネクティスを構えて目を閉じ、静かに詠唱を始めた。……その声は普段の天真爛漫なアマンダからは想像できないほど静謐で、凛としていた。どちらかというと聖女のそれだ。


(アマンダにこんな声が出せるなんて驚きだな……)


 俺は感心しながらアマンダの詠唱を眺めていた。


「――我求む、暗き深淵に鎮座する死者の王、その尊厳の名の下に全ての生者に絶望と混沌を持たらせ……死霊召喚《サモン・アンデッド》!!」


 すると魔王軍を取り囲むように、数え切れないほどの魔法陣が地面に広がっていく。そしてその魔法陣の中から次々とボーンナイトが出現した。


……またたく間に魔王軍はおびただしい数のボーンナイトの軍勢に取り囲まれる。ボーンナイトの数は、少なく見積もっても三万以上はあるだろう。


「……ふぃー、さすがにこの数の召喚はかなりきついものがあるねー」


 アマンダは息を切らしていった。さすがのアマンダでもボーンナイトを三万以上も召喚するのは相当魔力を消耗するようだ。俺は用意していた炭酸入りマジックポーションをアマンダに差し出す。アマンダはにっと笑ってそれを受け取った。


 双眼鏡で確認すると、魔王軍は多くの兵が完全に絶望に囚われた表情をしていた。しかし、それも無理はない。自軍の半数以上が毒で動けない上に大将は一騎打ちで無残に破れ、さらに左右後方を見渡せばそこにはおびただしい数のボーンナイトがいて、自分たちを完全に包囲しているのだから。加えて前方には王国軍だ。これで絶望するなという方がおかしいだろう。


(まぁボーンナイトは数を揃えるために、個々の強さはだいぶ落としているんだけどな。といっても今の魔王軍にそんなこと考えてる余裕はないか……)


 再度の降伏勧告は必要なかった。魔王軍の兵士は次々と武器を捨て、投降し始めたからだ。


(『完全なる迎撃』作戦成功、と)


……こうして魔王軍遊撃隊一万と勇者率いる王国軍四千の戦いは、王国軍側の完全勝利で終わった。


 さらにこの戦いの数日後、俺たちのもとに「王国軍主力と魔王軍主力が激突したが戦いは王国軍の勝利に終わった」との知らせがもたらされた。主力が負けたということもあって他の魔王軍遊撃隊も全て撤退したらしい。ただ勝利したといっても王国軍の被害もかなり大きく、何とかぎりぎり魔王軍を退けることができたというのが本当のところのようだった。しかし、何はともあれ全体として王国軍は魔王軍に勝利し撃退することに成功したのだ。この知らせには王国中の人間がみな歓喜していた。


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