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第28話 レジスタンス

 その後、俺たちはキャンプへと戻った。皆、依然として魔物を倒した興奮が収まらないのか、その日の夜はちょっとした宴会になった。酒は傭兵隊が高純度のものを物資として持ってきていたので、それとオアシスの水と食料のオレンジを混ぜてちょっとしたジュース風にしてみんなで飲んだ。さすがに死闘のあとの酒は格別であった。


 翌日の朝、オアシスで顔を洗って戻ると、傭兵隊長が俺に話しかけてきた。


「さて、魔物の討伐もできたわけだし、あんたらがこれからどうするかはあんたらの自由だ。どうする? ジルータに帰るか?」


「ん? そっちはジルータに帰らないのか?」


 俺はてっきり傭兵隊も魔物の討伐が終わったらジルータに帰るものだと思っていた。


「いや、俺たち傭兵隊にはまだやることがある。負傷した者にはすぐにジルータに帰ってもらうが、動ける者が帰るのはもう少し先だ」


「やることとは?」


「……レジスタンスへの報告だよ。魔物の脅威は取り除かれたから、近いうちに物資の輸送を再開するって報告しに行くんだ。それと今回は魔物討伐がメインだから量は少ないが、レジスタンスのための物資も持ってきているからな。それも届ける」


 なるほど、傭兵隊はこれからジルータには戻らずにレジスタンスの元へ向かうのか……。


「もし興味があるなら別に付いてきてもいいぜ。レジスタンスの拠点は砂漠を越えて少ししたところにある。距離的にはあと三日といったところだな」


……これはどうしたらいいだろうか。今すぐジルータに帰ってもいいが、正直なところレジスタンスにも興味がある。ただ、その代わりさらに長旅になってしまうのは確実だ。俺は一旦返事を保留して、パーティのみんなと相談することにした。


――結論から言えば全員賛成だった。ミアは王国騎士団所属ということもあるのか、レジスタンスの動向を知りたがっていたし、アマンダは相変わらず「面白そーだし、いいと思う♪」という感じだったし、ユーリは「みんなが賛成なら僕もそれでいい」ということだった。そんなわけで俺たちは傭兵隊と一緒にレジスタンスの拠点を目指すことになった。



 その後、俺たちは三日かけて砂漠帯を抜け、レジスタンスがアジトとしている砦に到着した。砦は山岳地帯の中にあり、周りを切り立った崖で囲まれていた。遠くにはバリアスの街が見える。砦に近づくと、俺たちの存在に気がついた見張りの魔族が大きな声で叫ぶ。


「!! 何者だ!? 所属を明らかにしろ!」 


 それに対して傭兵隊長が返事をする。


「待て、俺たちは怪しいものではない! 王国騎士団の使いの者だ!」


「王国騎士団? ……あぁ、例の件か。何か証明となるものは持っているか?」


「もちろん」


 傭兵隊長はそう言って見張りの魔族に近づくと、懐から何やら文書のようなものを取り出し、魔族に渡した。魔族はその文書を確認すると、そのうちの一人が砦の中へと去っていった。きっと担当の者に用件を伝えに言ったのだろう。


 結局、俺たちはその担当の者が来るまで門の前で待機ということになった。


(この調子じゃ、砦の中には入れてもらえなさそうだな)


 まぁ機密保持という面から考えれば当たり前のことではあるが……。俺は何気なく門の中へと目をやった。中には多くのテントがあり、魔族が行き来している。庭では戦闘の訓練をしている魔族も多くいた。


(しかし、レジスタンスとはいえ敵対種族である魔族の日常をこうして見ていると、なんだか不思議な気分になってくるな)


 魔族は名称こそ魔族となっているが、人族とそこまで差異はない。外見で言えばせいぜい肌の色が褐色だったり青色だったり、角や尻尾が生えていたりする程度だ。言語も昔は別々だったらしいが、今では同じ言語を喋る。身体能力や魔法能力も平均的には人族と大差はない。


 ただ魔法に関しては、魔族の方が闇魔法や死霊魔法の適正が高いという調査結果を何かの本で見たことがある。逆に人族は神聖魔法や治癒魔法の適性が魔族よりも高かったような……。とは言っても、それは平均の話で実際は死霊魔法が得意な人族だっているだろうし、逆に神聖魔法が得意な魔族だっているだろう。……考えてみれば、アマンダなんて人族だが死霊魔法の天才である。


 交配面に関しては、もちろん魔族と人族で普通に交配は可能だ。魔族と人族のハーフはどちらの社会でもあまり歓迎はされないが、いないということはない。ただ今は王国と魔王国で戦争中なため、ハーフはどちらの国でも昔よりもだいぶ肩身が狭いだろうとは思う。


 文化的には人族が大多数である王国と魔族が大多数である魔王国はかなり違う。例えば、食文化で言えば、オーク肉などは王国では捨てられるが魔王国ではごちそう扱いだ。


 他にも、王国には女性の騎士が多くいるが、魔王国では女性の騎士はかなり少ない。ただ、そのかわりに女性の魔法使いの数が王国よりもだいぶ多い。魔王国では戦争において最前線で戦う騎士は男の職業というイメージがかなり根強いのだ。


 こんな感じで差異はあるけど似た者同士である人族と魔族、昔は仲良くやっていたけど今は戦争をしているぐらいには敵対している。


(昨日の友が今日の敵なんて、よくあることなのかもな……)


……そんなことを考えながら待っていると、遂に担当の者と思われる魔族がやってきた。傭兵隊長は魔族に対してこちら側の事情を詳細に説明した。輸送隊がナージェ砂漠で魔物に襲われたこと。その魔物は巨大な蛇の化物であったこと。それを俺たちが討伐したこと。今後は以前のように輸送が行われること、などについて話をした。魔族は魔物の存在についてはかなり驚いていた。魔族は今後、ナージェ砂漠に入る場合には十分に注意すると言った。


 事務的な連絡が終わると、魔族は数人で荷物を検分し始めた。剣などの武器防具の品質や数などを念入りにチェックしていく。数十分後、特に荷物に不備はなかったようで魔族は書類に受け取りのサインをした。その後、対価となる金貨が入った袋を傭兵隊長が受け取り、金額が正しいかを確かめる。こちらも特に問題はなかったようで傭兵隊長は魔族側から出された書類に受け取りのサインをする。これで取引は終了だ。


「よし、これで任務は全て完了だ。あとはジルータに帰るだけだが、ダストリッチもだいぶ疲れているようだし出発は明日とする」


 傭兵隊長はそう言ってキャンプの準備をするように指示する。場所は砦のすぐそばだ。


 その後、しばらく時間が経ち、夕食の頃合いになると魔族が差し入れとして食料を持ってきてくれた。サンド・リザードの肉を燻製にしたものだ。サンド・リザードは主に砂漠や荒野に生息するトカゲの一種で、この地方ではよく食べられているらしい。トカゲの肉を食べるのは人生で初めてだったが、思ったよりもいける味だった。鶏肉に似ているが歯ごたえは鶏肉よりもあり、噛むたびに口の中に旨味が広がる。


 俺は食料を持ってきてくれた魔族に率直に美味いと伝えた。すると魔族もそれはよかったという感じで応じる。気がつけば俺はその魔族とちょっとした世間話をしていた。


「……それでレジスタンスの方の調子はどうだ? うまくいってるのか?」


 俺は軽い調子で魔族に話しかける。


「それは……なんとも言えないな。もちろん俺たちはそれなりに成果を出しているという自負はあるが、魔王軍はやはり圧倒的だ。多勢に無勢という感は否めない」


 魔族はそう言って肩を落とす。


「全く、なぜこんなことになってしまったのか……。ベルガルド大公国としてエステニア王国含め周辺の国々と仲良くやっていた時代が懐かしいよ。オルドウィン大公も以前は名君として評判も良かった。それが今じゃ魔王を自称してやりたい放題。気に入らない者は貴族だろうがなんだろうが処刑と来たもんだ。ほんと一体どうしちまったんだか……」


(オルドウィン大公……いや魔王オルドウィンか。俺が勇者として討伐しなければいけない相手だ)


「俺はその辺りの事情に詳しくないんだが、オルドウィン大公が変わった理由というか何かきっかけみたいなものはなかったのか?」


「おいおい、俺はレジスタンスのただの一団員だぜ? 大公家の事情なんて知るわけがないだろ。……ただまぁ、有力なのはやっぱり『例の女』が大公をそそのかしたって説だろうなぁ」


「『例の女』というのは『魔女ロヴィーサ』のことか?」


 魔女ロヴィーサは魔王が最も信頼を置く側近として王国でも有名だ。噂によれば未来を予知する能力があるとかないとか。ただ、魔王と違ってその素性は一切不明であり、ミアに聞いても「王国騎士団ですら正体が把握できていない全く得体の知れない人物」という答えが返ってくるほどだ。


「そうだよ。ま、こっちじゃ魔女なんて呼んだら兵士に袋叩きにされるがな」


「突如として現れた魔女が大公と結託して魔王国を作り、世界を支配するために他国へと侵攻を開始した、か……。ありそうな話ではあるが、そんな単純なもんかね」


「さぁな。ただもうそうなってしまったものは仕方がない。理由はどうであれ、俺たちはこの国をもとに戻すために戦うだけさ」


 魔族はそう言ってサンド・リザードの燻製を口に入れた。


「しかし、お前ら王国騎士団もそろそろ気をつけろよ。今、魔王軍は東にある都市同盟をほぼ占領下に置きつつある。東が終われば、次は西――――エステニア王国ってわけだ。既に魔王軍の一部がより本格的なエステニア侵攻に向けて準備をしてるっていう話もある。これからはもっと激しい戦いになると思うぜ。ま、言われるまでもないとは思うがな」


……なるほど、そう遠くないうちに魔王軍が王国に攻めてくるかもしれないってことか。正直言って軍対軍の戦いは王国騎士団に任せたいところだが、俺も勇者として協力しないといけないだろうな……。俺はサンド・リザードの燻製を食べながら、今後のことについて考えていた。


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