第26話 遭遇
――三日目、俺たちはいよいよ砂漠の中央付近に差し掛かった。輸送隊が襲われたのもこの近くだろうと推察される。俺たちは魔物を発見しやすくするため、できるだけ広い陣形でかつゆっくりと周りを探索しながら前へと進んだ。しかし、この日、魔物と遭遇することはなかった。
俺たちは事前に目星をつけていた小さなオアシスを見つけ、そこでキャンプをすることにした。オアシスの水はとても澄んでいておいしく、みんなの喉を潤した。明日からはここでのキャンプをベースに本格的な魔物の捜索となる。……鬼が出るか蛇が出るか。この面子で対処できるレベルの魔物でありますように。俺はそう思いながら寝床へと着いた。
――四日目、今日からは本格的に魔物を捜索することになる。しかし、正直言って砂漠は広い。そう簡単には魔物はみつからないだろう。……無論、向こうからこちらに寄ってくるのなら話は別だが。
朝の会合で傭兵隊長は討伐隊をいくつかのグループに分け、手分けして周りを探索することを提案した。各グループは魔物を見つけたらすぐに魔法具で他のグループに知らせる。自力で倒せそうならそのまま倒し、倒せなさそうなら魔物を遠くから見張りつつ、他のグループが合流するのを待つ。全方向を探索するとグループ間の距離が開きすぎて合流しにくくなるので、今日はキャンプから東側の方だけを探索しようとのことだった。
特に誰も反対しなかったので傭兵隊長の案はそのまま採用となった。個人的にはこの案はとてもいい案だと思う。東西南北全てを探索するのに合計で四日もかかるのが難点といえば難点だが、安全重視ならそれぐらいかかっても仕方ない。
その後、グループ分けがされたが勇者パーティは勇者パーティのみで一つのグループということになり、キャンプから北東の方向を探索することになった。
「……うーん、全然反応ないねー」
索敵用の魔法具を見ながらアマンダがつまらなそうに呟く。キャンプを出て数時間、ひたすら砂漠を探索するも成果はゼロだった。索敵に何も引っかからないのはもちろんのこと、何らかの魔物の痕跡すら発見できなかった。今は岩場の影で昼食のための休憩を取っている。
「この方向ははずれだったかもな……」
……いや魔物の対処を傭兵隊に任せられるとしたら、ある意味当たりか? まぁでも連絡用の魔法具が反応していないから、他のグループも魔物は見つけていないようだが。
「はぁ……早く魔物を見つけて倒してジルータに帰りたいわ……」
「僕もそれすごく同感……」
慣れない砂漠での活動に嫌気が差したのか、ミアとユーリが愚痴っぽく言う。
「おいおい、砂漠に入ってまだ四日だぞ? 音を上げるのには早すぎるんじゃないか」
「そんなこと言ったって、ここ数日はずっと代わり映えしない風景の中、ひたすらダストリッチに乗ってるだけなのよ。もう飽き飽きだわ」
「僕も同じ意見……」
「私はまだ大丈夫かなー♪ でもそろそろ何か刺激が欲しいってのはわかる!」
意外なことにアマンダは結構我慢強いようだ。全く、ミアもユーリもアマンダを見習ってもらいたい。
「私もまだまだ退屈してないぞ。スケルもそうだろう?」
骨を口に咥えながらヘルぞーがそう言うと、スケルが小さく頷く。お前は骨さえあればどこでも満足なのでは……?
「ま、もしかしたら午後の探索ですんなり魔物が見つかるかもしれないさ。それで魔物を倒せれば今日で任務終了だ。やる気出して行こう」
俺はみんなの士気を低めないようにできるだけ楽観的なことを言った。ただ、内心は北東方向ははずれで魔物は見つからないだろうと思っていた。
……午後になって探索を再開したが、やはり成果はなかった。しかし、今日はもう終わりというところで連絡用の魔法具に反応があった。他のグループが魔物を見つけたか、あるいは魔物につながる何か重要なモノを見つけたかのどちらかだ。
「南東の方を探索してるグループからみたいだねー♪ 距離的には急いでまぁ一時間ぐらいかなー」
一時間か……合流したころで既にもう終わってる可能性もありそうだ。ただ、もし魔物を見つけたケースだとしたら、魔法具に連絡が来たということは南東のグループが自分たちだけでは対処できないと判断したということだ。この場合、早急に合流して戦力を整える必要がある。
「よし、急いで合流するぞ!」
俺たちは探索を中止し、南東方向を調査していたグループと合流するため全速力で南へと向かう。
ちょうど一時間後、行く手の先に傭兵隊が集まっているのが見えた。南東方向のグループだけでなく、他の全ての方向のグループが既に集結していた。もちろん、中には傭兵隊長の姿もある。
「お、来たな勇者グループ。朗報だ。思ったより早く見つかったようだぜ」
傭兵隊長はそう言って親指でクィっと後ろの方を差す。指が差す方向には大きな岩山があり、その一部にぽっかりと黒い穴が空いていた。大きな洞窟だった。
「洞窟の入り口付近の地面を見てみろ」
そう言って傭兵隊長は双眼鏡を俺に渡す。言われた通り、双眼鏡で洞窟の入り口付近の地面を見てみると、明らかに何かが這ったような跡があった。幅から推測するにかなり大きいものだ。
「例の魔物の巣だよ。間違いない」
傭兵隊長はそう断言する。
「……そう断言する理由は?」
「傭兵としての『勘』だよ。よく当たるんだなこれが」
傭兵隊長はそう言ってニヤリと笑う。……あれが絶対に魔物の巣だとは言えないとは思うが、その可能性があるのは確かだ。
「今日は時間も遅いし、このままキャンプに戻るぞ! 明日はあの洞窟を探索する。目的の魔物がいる可能性は極めて高い。各自、気を引き締めるように!」
傭兵隊長がそう指示する。それから俺たちは日も暮れかけた頃にキャンプへと戻った。思ったよりも早く魔物の痕跡が見つかったので、ミアとユーリはこれは早く帰れると大喜びだった。俺はテントの中で一人寝転がりながら魔物について考えていた。
……あの這ったような跡が魔物のものだとすると、魔物の正体は傭兵隊長が以前に言っていた巨大なデューンウォームという線も現実味を帯びてくる。ただ、這ったような跡がもし魔物が捕らえた獲物のものだとしたら話は全く変わってくる。
(……まぁ考えても仕方ないな。今日はもう寝ることにしよう)
俺はそのまま眠りへと落ちていった。
――五日目、今日はいよいよ洞窟の探索だ。俺たちはちょうど日が一番高くなった頃に洞窟の入り口へと集結していた。洞窟の様子は昨日と変わらない。洞窟内部は、ところどころで日が差しているのか、そこまで暗くなかった。
「よし、中に入るぞ!」
傭兵隊長の号令とともに傭兵隊が先行していく。勇者パーティはしんがりだが、特に文句はない。俺たちは洞窟内部を慎重に一歩一歩進んでいった。洞窟は基本的に一本道で迷うことはなかった。
……数十分ほど歩いた頃だろうか、ただでさえ明るめの洞窟がさらに明るさを増していく。その理由は簡単で奥の方に洞窟の出口があり、そこから眩しい太陽の光が差し込んでいたからだ。俺はてっきり洞窟には行き止まりがあって、そこに魔物がいると考えていたから、これは意外だった。洞窟を出ると、そこは周囲を岩山に囲まれた開けた空間になっていた。広さはちょうどヴァルアードの闘技場と同じぐらいだ。
(ここが魔物の巣だろうか? 魔物は見当たらないが……)
俺たちは慎重にその場を調べた。しかし、特に気になるものは見つからなかった。この場所がはずれだったか、あるいはそもそも魔物がまだ帰ってきていないか。……さて、傭兵隊長はどう判断するのだろう。
「……各員、しばらくこの場で――」
傭兵隊長がそう言いかけた瞬間、索敵用の魔法具を見ていた傭兵の一人が叫ぶ。
「魔物の反応あり!! 洞窟の方向です!!」
「一体だけか!?」
「はい、反応があるのは一体だけです! ただ、これは……今まで見たこともないような大きさです!」
魔物が一体で、その大きさは今まで見たことがないほど……。少なくとも大きさという点では『黄金の目を持つ巨大な化物』と合致するなと俺は思った。
(この場所は当たりの可能性が高いな。きっと魔物はたまたま留守で今帰ってきたのだろう)
同じように考えたのか、傭兵隊長はすぐさま俺たちに戦闘態勢に入るように指示を出す。俺たちは武器を構え、洞窟の出口を包囲するように陣形を敷いた。
「距離、およそ100メートル……80メートル……70メートル……」
この場にいる全員に緊張が走る。魔物は洞窟を通って、どんどんとこちらに近づいてきていた。
「40メートル……30メートル……20メートル……」
魔物が近づいてくるたびに地響きが強くなっていく。かなり巨大な魔物というのは間違いないだろう。
「……来ます!!」
傭兵が叫ぶと、それは遂に姿を現した。




