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第25話 VSデューンウォーム

 それから馬で駆けること約二日、俺たちはナージェ砂漠より少し手前に位置する小さな集落へとたどり着いた。


「一旦、ここで休憩だ。翌日には砂漠へ入る。各自準備を整えておくように!」


 傭兵隊長が大きな声で指示する。その日の宿は傭兵隊によって手配され、俺たちはそのうちの一つへと泊まることになった。


 俺はみんなに「ちょっと情報収集してくる」と言って宿を抜け出し、集落に一つしかない小さな酒場へと向かった。情報収集といえば酒場、酒場といえば情報収集だ。俺は意気揚々と酒場に入ったが、そこには既に『先客』がいることに気づいた。傭兵隊長と仲間の傭兵が数人、テーブル席で酒を飲んでいたのだ。


「……ん? 誰かと思えば勇者さんじゃないか。いいところにきたな。こっちに来て話でもしようぜ?」


 傭兵隊長がそう言って麦酒の入ったジョッキを掲げる。……しまった、あまり関わりたくないやつに見つかってしまった。


(断ってもいいが、一応同じ討伐隊の仲間だからな……。まぁ適当に相手しとくか)


 俺はそう判断して傭兵隊長のいるテーブルへと向かった。傭兵隊長とその連れは結構酔っているように見える。……なんとなく面倒くさそうな予感がした。


「へへっ、まぁ一杯飲めや。これは俺の奢りだからよ」


 傭兵隊長はそう言って麦酒の入った大瓶を手に持つ。俺が店員に空のジョッキをもらうと、傭兵隊長はすかさずジョッキに麦酒を波なみと注いだ。俺はそれをゴクゴクと半分ぐらい飲む。


「ひゅ~! なかなかいい飲みっぷりじゃないか。結構いける口なんだな、あんた」


 傭兵隊長がニヤニヤしながら言った。実際、俺は酒は弱い方ではなかった。結構何かにつけて酒場に繰り出している気がする。


「ところでよ、今ちょうど例の魔物の正体について話しあってたんだけどよ、あんたどう思う?」


「……例の魔物の正体?」


「そう、黄金の目を持つ巨大な化け物って聞いただろ? そいつが実際は何なのかって話さ。俺は巨大な『デューンウォーム』に一票入れててな。他のやつらはサンドスコーピオンやらストーンゴーレムやら言うんだけどよ」


 デューンウォームは確か体長が三メートルほどある芋虫のような魔物だ。主に砂漠に生息していて人間を襲うこともある。普段は砂漠の砂の中に潜んでいて、獲物を見つけると獲物の近くまで一気に接近し、地中から襲いかかる。そんな感じの魔物だったと思う。


「俺は砂漠の魔物についてはあまり知らないんだが、そのデューンウォームは実際どれぐらい危険なんだ?」


「ん、普通のデューンウォームか? 普通のデューンウォームなら大して危険じゃねえな。索敵用の魔法具があればどこにいるか探知できるし、炎に弱いから炎系の魔法を使えば簡単に撃退できる。皮膚も柔らかいから剣で楽に倒せるしな」


 傭兵隊長は饒舌に言った。


「ただ、これが突然変異か何かの影響ででかくなってたり、皮膚が硬くなってたりしたら相当厄介だろうな。だから俺は魔物の正体は何かが原因で巨大になったデューンウォームじゃないかと思ってんだよ。十メートルとかそれぐらいのクラスのな」


「デューンウォームなんてでかくても俺らの敵じゃないですよ~。それよりも巨大なサンドスコーピオンの方がやばいですって」


「いやいや、それよりも巨大なストーンゴーレムでしょ! 硬い、魔法が効きにくい、一発が重いでもう勘弁してくれって感じだ」


 他の傭兵がやいのやいの言い出して、場は「どの魔物が一番やばいか?」という話題で盛り上がった。ただ、俺はそんな中でもあまり気分が盛り上がらなかった。


(既に見知っている魔物であればいいけどな……)


 もし出会った魔物が、例えば巨大なデューンウォームだとしても、デューンウォームはデューンウォームだ。行動パターンは同じだろうし、対処法もそんなに変わらないだろう。しかし、これがもし完全に新種の魔物だとしたら、話は変わってくる。行動パターンは全くわからないし、どんな攻撃をしてくるのかもわからないし、弱点も不明だ。危険度は段違いに上がる。


(まぁ、うちのパーティなら特に問題ないとは思うが……)


 俺はそんなことを思いながら静かに飲んでいたが、傭兵隊長たちの飲み会はその後すぐに終了した。……明日の準備があるわけだし当然か。


「っつーわけで勇者さんよ、あんたらには期待しているからよ。魔物に遭遇したときにはぜひその実力見させてもらうぜ?」


……傭兵隊長はそんな捨て台詞を残して、仲間とともに宿へと帰っていった。俺が見せる実力はそんなにないのだが……。俺は傭兵隊長が帰っていくのを見送ると、口直しに酒場のカウンターでカクテルを頼んだ。



 翌日の朝、俺たちは傭兵隊とともに集落内にある大きな厩舎へと来ていた。そこでは多くの『ダストリッチ』が飼育されていた。ダストリッチは二足歩行の大きな鳥のことだ。飛ぶことはできないが走りに長けており、荒野や砂漠といった場所でもすばやく移動することができる。そのためそうした地域では、移動手段として馬の代わりによく利用されている。


「今日から砂漠地帯だからな。ダストリッチに乗り換える。ダストリッチに乗ったことがない者もいるだろうが、基本は馬とそう変わらない。一日で慣れるだろう。……それじゃあ各自、好みのダストリッチに乗ってくれ」


 傭兵隊長がそう言ってみんなを促す。俺は特にこだわりもないので、適当にその辺の目が合った個体を選んだ。ミアはアマンダと一緒に乗るためか、大型のダストリッチを選び、ユーリは比較的小柄なダストリッチを選んだ。


「……頼むぞ相棒、これからよろしくな」


 俺はとりあえず乗ったダストリッチに背中から話しかけてみた。ダストリッチは「キュルキュル!」とよくわからない鳴き声を上げる。……ちなみにダストリッチに乗るのはこれが人生初だった。乗り心地は独特なものがあるが、傭兵隊長の言う通り、多分すぐ慣れるだろう。俺はしっかりと手綱を握った。


「よし、みんな準備はいいな。それじゃあ出発だ!」


 傭兵隊長が先頭に立ってダストリッチを駆け、俺たちはそれについていく。……討伐隊は遂に目的のナージェ砂漠へと至った。


――ナージェ砂漠に入って一日目、俺たちはひたすらダストリッチで前に進んだ。軽く走る程度のペースで進み、二時間ごとに休憩を挟む。ずっとダストリッチに乗っているせいか、ダストリッチの扱いにも慣れ、だいぶ乗りこなせるようになった。


 砂漠は季節のせいか意外と暑くなく、夜はむしろ涼しいほどだった。夜になると見晴らしのいい岩場を探して、その上でキャンプをする。もちろん、寝る時は魔物の襲撃に備えて交代で見張りを立てることも忘れない。砂漠に入って最初の一日は特に魔物に遭遇することなく過ぎていった。


――二日目、一日目と同じようにとにかくダストリッチで進んでいく。この日は午前中は特に何もなかったが、午後は違った。……俺たちがちょうど休憩を取っていた時に、『そいつら』はいきなり俺たちの前に現れたのだ。


「前方に魔物の反応あり! デューンウォームの群れだと思われます!」


 見張りをしていた傭兵の一人が魔法具を見ながら叫ぶ。それに対して傭兵隊長が反応した。


「デューンウォームか……数は?」


「およそ三十ほどと思われます」


「三十だと!? ちっ、そりゃ大群だな……各員、戦闘準備!」


 傭兵隊長がそう叫ぶと、傭兵隊は一斉に戦闘態勢に入る。俺たち勇者パーティもすぐに集まり、陣形を整える。ユーリとミアが前方に立ち、ユーリの左後ろとミアの右後ろに俺とスケルが陣取る。近接戦闘ができないアマンダは四人の後ろで待機だ。ヘルぞーはアマンダの守り担当としてアマンダのそばに立つ。


「いいか、奴らが地中から出てきたところを狙うんだ! 回り込まれる可能性もあるから前後左右全てに気を配れ!」


 全員が戦闘態勢を取ったところで、傭兵隊長が大きな声で言った。


「……接敵まで約三分!」


 魔法具を注視している傭兵が叫ぶ。同時に、前方の砂山が微かに振動し崩れるのが見える。デューンウォームが接近している証拠だろう。……俺は神剣ゼルフィウスを構え、さらに魔力を込めた。


(……来るなら来い。出てきたところを叩き切ってやる……)


 俺はかなり緊張しつつも、前方に全ての意識を集中させる。二十……十九……十八……時が刻まれていく。

「来ます!!」


――魔法具担当の傭兵が叫んだ瞬間、すぐ目の前の砂の中からそれは飛び出してきた。牙が無数に生えた丸い口に、長い芋虫のような胴体。間違いない、デューンウォームだ。


「――ッ!」


 俺はデューンウォームの飛びつきを避けることなく、そのまま剣を頭に振り下ろす。剣はデューンウォームの頭を真っ二つにし、デューンウォームはそのまま地面に落とされる。頭を真っ二つにされてもまだ息があるのか、デューンウォームはびくびくとその場でもがいている。止めを刺そうかとも思ったが、次のデューンウォームに備え、俺は剣を構え直した。


(次はどこから来る……?)


 俺は意識を集中しつつ、ふと周りに目をやると、みんな俺と同じようにうまくデューンウォームに対処していた。次々と飛び出してきたデューンウォームの群れは、いとも簡単に次々と死体になっていく。俺はデューンウォームにはかなり警戒していたが、その存在を探知できる魔法具さえあればこれほど容易に倒せるんだなと思った。……ただそれは、逆に言えばもし魔法具がなければデューンウォームの不意打ちを食らいまくる可能性があるということだ。そうなれば、普通のパーティなら簡単に全滅するだろう。


(……事前対策の重要性がよくわかる。魔法具についても俺はもっと勉強する必要があるな)


 俺はそう思いつつ、どこから来るかわからないデューンウォームに意識を集中させる。


 ……結局、俺の元に来たのは最初の一匹だけだった。歴戦の猛者なら物足りないと思うのかもしれないが、俺は普通に運がよかったと思う。三匹とか一斉に襲ってきていたら正直やばかったかもしれない。


 ちなみに勇者パーティのデューンウォームの撃破数はミアとユーリがそれぞれニ体、俺とスケルがそれぞれ一体の合計六体であった。残りの二十四体ほどは傭兵隊が全て処理していた。さすがは精鋭の傭兵隊と言ったところか。傭兵隊の中には今回の襲撃で負傷した者もいたが、傭兵隊には治癒魔法担当のヒーラーも同行しているので特に問題はなかった。


「……デューンウォーム程度なら特に問題ないようだな。なかなかやるようで何よりだ」


 いつの間にか近くにいた傭兵隊長が声をかけてくる。


「しかし、デューンウォームが三十体とはな……こんな大きな群れにこんなにすぐ遭遇するのは初めてだ。普通はデューンウォームは砂漠でももっと奥に生息している魔物なんだがな……」


 傭兵隊長はそう言って怪訝な顔をする。


「……何かから逃げてきたんじゃないか?」


 俺はそう答えた。


「何か? 何かとはなんだ?」


「そりゃ決まってるだろ……例の魔物だよ」


 俺は少しふざけた調子で傭兵隊長に向かって言った。すると、傭兵隊長は予想外に真剣な顔になり「……なるほど、その可能性はあるかもな」と呟いた。


 その後、俺たちは再度休憩を取ったのちに、ダストリッチに乗って出発した。この日はこのときのデューンウォーム以外に特に魔物と遭遇することはなかった。


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