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第22話 試し切り

「次はユーリだな」


「ぼ、僕はいいよ! もともと剣も鎧もあるし……」


 フルアーマーに身を包んだユーリは後ずさりながら言った。多分、絶対鎧を脱ぐのが嫌なだけだと思う。


「まぁ鎧はともかく、剣は新調してもいいんじゃないか? 剣士なら剣にはこだわるべきだろう。最強の剣士を目指すならやっぱりそれなりの品質の剣を持たなきゃな」


「……そう言われると、そうだけど」


「そうだろう? それで今使ってる剣のランクはどれぐらいなんだ?」


「……えっと、特注の鋼の剣で確かCランクだったと思う」


 Cランクか、アマンダよりはマシなレベルだな。だが、やはりAランクは欲しい。俺はさっそく、店員にこの店で最高クラスの闘気使い用の剣があれば見せて欲しいと言った。店員は俺たちを二階へと案内すると、とある一室の壁に飾られている一振りの剣を見せた。


「こちら、Aランクの剣で『フォースブレイド』という名を冠する剣になります。普通の剣に比べて使用者の闘気を多く取り込むことができ、その分だけ切れ味が大幅に増します。闘気使いの方にはとてもおすすめの剣となっております」


 店員は剣を取ってユーリに渡した。ユーリは剣を取ると軽く振ってみたり、剣身を触ってみたりした。俺が闘気を込めてみるように促すと、ユーリは剣に闘気を込めはじめた。すると剣が淡く光り出す。


「どうだ?」


「……すごく、いいと思う。普通の剣と違って、闘気が剣の中でどんどん凝縮されていく感じがする」


 ユーリの表情は見えないが、多分かなり気に入ってもらえたと感じた。その後は他にもいくつか違う剣を試したが、ユーリ的にはフォースブレイドが一番だったらしく、ユーリの新しい剣はフォースブレイドに決まった。


 最後は俺の装備だ。武器は既に神剣ゼルフィウスがあるので、問題は防具となる。ただ俺は店に入る前から『ある装備』に目をつけていた。俺は店員に尋ねる。


「……『シャドウ・クローク』を見せてもらえますか?」


 店員はその名を聞いてピクリと反応した。しかし何事もなかったかのように俺たちを店の三階へと案内する。三階はSランクの武器防具が展示されている階だ。ローランド武具店は王国内でも数少ないSランク武具を扱う店なのだ。店員は三階のとある一室に入り、部屋の中央のガラスケースに飾られた外套を指し示す。


「こちらがSランクのローブ、『シャドウ・クローク』になります。魔力を込めることで着用者をほぼ透明状態にすることができます」


 シャドウ・クローク、それは着た者を透明にすることができるローブだ。新たな装備を選ぶならこれしかないと事前に目をつけていた。


「透明になるって……勇者なのにそんな装備にするの?」


 ミアが呆れた顔をして言った。確かに勇者用というよりは完全に暗殺者向けの装備だ。


「おいおい、透明になれるローブだぞ? 色んな場面でこれ以上応用が効く能力があるか?」


 俺がそう言うと、ミアは肩をすくめる。


「魔法で透明になってもそれを見破る魔法もあるし、殺気は消せないわよ。足音だって聞こえるし、そこまでいい能力とは思えないけどね」


「…………」


「そりゃ暗殺のプロが使えば鬼に金棒だとは思うわよ? でもクライスが使ったとしてもせいぜいゴブリンに木の棒ぐらいなものでしょ」


 ミアは髪をファサっとさせて言った。……さすがにその例えはひどいと思った。しかし、ここで結局買わないのは負けだと思ったので、俺はそれでもシャドウ・クロークを買うことに決めた。白銀の鎧を着て先頭にたって戦う勇者がいるのなら、透明になれるローブを着て影でコソコソしている勇者がいたっていいだろう。きっといつかこのローブが役に立つ日が来る……はず。俺はそう信じて、堂々とシャドウ・クローク購入を店員に告げた。


 その後は各自で自由に店内を見て回ることにした。俺はやはりミアだけ何も買わないのは申し訳ない気がしたので魔法具の購入を勧めた。ミアは最初断ったが、俺が強く「先の作戦の報奨はパーティメンバーに公平に与えられるべき」と主張すると最後は折れ、何らかの魔法具を購入することを了承した。


「これとかどうだ? Aランクの装飾品、『結界の首飾り』だ。魔力を込めるとあらゆる攻撃を無効化できる障壁を展開できる。魔力消費が大きいが、切り札にはもってこいだと思う」


「……それでいいんじゃない?」


「『それでいいんじゃない?』って……ちゃんと希望を言ってもらわないと困るのだが」


「そんなこと言ったって、特に欲しいものがないんだから仕方ないでしょ」


「はぁ……、じゃあこれで決まりな」


 ミアはそれには答えず明後日の方向を見ている。


(……ミアって本当面倒くさい性格してるよな。友達とかいなさそう)


 きっと人から何かを買ってもらうことに慣れていないのだろう。だから態度がどこかつっけんどんなのだ。


(しかし、これで全員に装備という名の報酬は行き渡ったな。俺はリーダーとして満足だし、ついでにパーティの戦力も増強できるしで良いことづくめだ)


 俺はジルータに買い物に来てよかったと思った。


 その後、俺は購入した全ての装備の代金を払った。アマンダの魔杖ネクティスと死者のローブがそれぞれ100万クローネ、ユーリのフォースブレイドが1000万クローネ、俺のシャドウ・クロークが5000万クローネ、ミアの結界の首飾りが1000万クローネだった。締めて7200万クローネである。


 ネクロマンサー装備は買う人がいないからか安かったが、それ以外の装備はそれなりの値段がした。他にもスクロールや魔法具を買ったので、この日だけでおよそ1億クローネが残り資金の中からすっ飛ぶこととなった。資金にはまだ余裕があるが、今後は節制しようと思った。


 その後、俺たちはローランド武具店を出て、その夜泊まる予定の宿屋へと向かった。寝る前に、俺は自室で少しこれからのことについて考えていた。勇者になって最初の目標であった「知名度を上げる」は順調に達成されている。勇者である俺がデュロイ卿の娘を救出したことは今や王国内でも広く知れ渡っている。「勇者は王国の英雄だ!」とまではいかないが、少なくとも各地で活躍している正義の味方ぐらいのイメージにはなっているだろう。


(そろそろ次のステージに行きたいが、そのためにはより大きな『仕事』をする必要があるな……)


 一番いい方法は、やはり勇者が率いた軍が魔王軍を倒すとか魔王軍の侵攻から都市を守るといったことだろう。しかし、ミア曰く「現在、魔王軍は完全に沈黙している」らしく、次に攻めてくるのはしばらく後になるのではないかとのことだった。となれば勇者が活躍するのもしばらく待たなければいけないということになる。


 個人的にはむしろ王国騎士団の方から先に魔王軍に仕掛けたらどうかと思うのだが、王国騎士団は防戦でいっぱいいっぱいらしく、それも難しいようだ。


(何か大きな事件が起きないかな……)


 俺はそう思いながら眠りへとついた。



 翌日、俺たちは街の外にある小さな丘の上に来ていた。昨日購入した新装備を試しに使ってみようということになったからだ。ついでにちょっとした戦闘訓練なんかも行う予定だ。


「じゃあ私から行くよー♪」


 アマンダが魔杖ネクティスを振り上げ、元気な声で言った。ローブはもちろん死者のローブを着用している。


「いでよ、ボーンナイト!」


 アマンダの前方の地面に魔法陣が広がり、中から骸骨の騎士であるボーンナイトが次々に出現した。その数、およそ数十体。どのボーンナイトも重鎧と剣を装備していて、かなり強そうだ。


「いでよ、ケルベロス!」


「ガルルルルルル!!」と唸り声をあげて三つの首を持つ大きな魔獣が現れた。ケルベロスは地獄の番犬とも言われる魔獣で、その戦闘力はかなり高い。その数、およそ十体。


「いでよ、ファントム!」


 無音で空を飛ぶ亡霊のようなものが現れた。ファントムは初級から中級の各種魔法が使えるほか、その透明な体で壁などをすり抜けることができる厄介な魔物だ。その数、およそ五体。


「いでよ、アンデッド・ドラゴン!」


「グオオオオオオ!」と雄叫びを上げて巨大なアンデッド・ドラゴンが姿を現す。もはや説明はいらないと思うが、その名の通りアンデッド・ドラゴンはドラゴンのアンデッドバージョンだ。既に死んでいるとはいえドラゴンのパワーは健在で、ブリザードブレスやアシッドブレスを吐いたりする。熟練の騎士や冒険者でもこいつを相手にするのはなかなか厳しいだろう。その数、三体。


「うーん、まぁこんなもんかなー♪ なんか前よりみんな強くなってる気がする。いい感じー♪」

 召喚された死霊軍団を見てアマンダが楽しそうに言った。俺はその光景を見て唖然としていた。


(……すごすぎるな) 


 目の前にはかなり強そうなアンデッドモンスターがおよそ五十体。並みの騎士や冒険者がこれを見たら腰を抜かして逃げ出すだろう。というか俺でも間違いなく速攻で逃げる。それぐらい圧巻だった。


(よくよく考えてみれば、アマンダがアンデッド・ワイバーン以外を召喚するのを見るのはこれが初めてだな。しかし、これほどの実力とは……)


 さすが大賢者マークをして「俺と同等かそれより強いかも」と言わせるだけのことはある。というかネクロマンサーに限れば世界最強で間違いないんじゃないだろうか。


 そう思いながらふと横を見ると、ミアも相当驚いた顔をしていた。ユーリの顔は例によってわからないが、多分同じように驚いていることだろう。アマンダはそんなことはつゆ知らずか「おおー、消費魔力もかなり下がってるー♪」と無邪気に笑っている。


 ミアにこっそり「戦ったら勝てそう?」と聞いたら、「これ『だけ』ならね……」という答えが返ってきた。……そうか、これが召喚できる最大の数ではないんだよな。俺はアマンダが味方で心底よかったと思った。

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