第21話 買い物
――こうして俺たちは無事領主の娘を救出することができた。領主のデュロイ卿は娘の姿を見るなり、歓喜の涙を流して娘に抱きついていた。そして何度も俺たちに感謝の言葉を述べた。俺は大したことはしていないと謙遜しつつ、自分たちがリグリック湿地で体験したことを詳細に報告した。リグリック湿地に霧が発生していたこと、捜索隊や娘のお供が全滅していたこと、そして見たこともない魔物の群れに襲われたことを話した。
加えて、俺は娘の救出の際には彼女のお供が果たした役割が大きかったことを強調した。実際、お供二人が娘を小屋に匿い、身を挺して守ったからこそ彼女は助かったと言える。例え自分たちが全滅しようとも、彼らはお供、あるいは護衛としての責務を立派に果たしたのだ。
デュロイ卿は魔物についてはかなり驚いた様子で、後日対策会議を開く必要があるだろうと語った。さらに娘のお供と捜索隊については魔物の脅威がなくなった後に、必ず部下に遺体を回収させ、弔うことを約束した。
最後に、デュロイ卿は自分に何か協力できることがあれば何でも言ってくれと言って去っていった。俺はその場では返答しなかったが、今後何か困ったことがあればデュロイ卿を頼ることができるだろう。今回の作戦はかなり大変だったが、得た利益も大きかったと言える。
……翌日は救出作戦の疲労を癒すために休みにした。ただ、俺は昨日遭遇した魔物が少し気になったので、一人冒険者ギルドへと向かうことにした。ヴァルアードの冒険者ギルドはこの国では比較的大きく、冒険者が得た情報も多く集まってくる。俺はそこで魔物についての情報を得られないかと考えたのだ。……もっとも、俺は依然として冒険者登録されているので、新種の魔物を見つけた際にはギルドに報告する義務があるのだが。
ギルドに着くと、さっそく受付へと行き、受付嬢に自分がリグリック湿地で今まで見たこともない魔物に遭遇したことを伝えた。すると彼女はギルド内で一番この付近の魔物に詳しいという担当の職員の男を紹介してくれた。
「……それでその魔物は昨晩、霧で覆われたリグリック湿地に出現したとそういうわけですね?」
「えぇ、そうです」
俺がそう言うと、職員の男は「うーん」と呟いて腕組みをする。
「正直いって、それはかなり不可解ですね……。リグリック湿地でそのような魔物が出たという話は今までに一度も聞いたことがありません。というかリグリック湿地以外でも、そういう報告は聞いたことがないです」
「新種の魔物という可能性は?」
「……その可能性はないとは言えませんが、かなり低いと思います。王国領土内の魔物は今までにほぼ発見され尽くしていますからね。特にリグリック湿地のように何の変哲もない場所で、新種の魔物が発見されるケースはほぼありえないと言っていいでしょう。自分の家の庭で新種の花を発見するようなものですよ」
「そうですか……」
新種の魔物ではないとすると、あの魔物は一体どのような存在ということになるのだろうか? 何らかの形で召喚された魔物という可能性も考えたが、アマンダ曰く「召喚された魔物は、普通は倒すと消えちゃって死体は残らないからねー♪ たぶん違うと思うなー♪」ということらしいからその線はないだろう。
「ところで、その魔物の群れに襲われて捜索隊が全滅しているんですよね? となるとこれはかなり危険度の高い魔物と言えるので、冒険者ギルド内で魔物について情報共有をするとともに、冒険者への注意喚起も検討しようと思います。デュロイ卿とも対策を協議する必要がありそうですね」
職員の男は真剣な顔で言った。
「……よろしくお願いします」
「いえ、こちらこそ情報の提供に感謝します」
他には特に用もなかったので、俺は職員との会話を終えるとすぐに冒険者ギルドを出た。結局、冒険者ギルドでは魔物についての有益な情報を得ることはできなかった。
(この件について俺ができることはこれぐらいか……)
魔物の謎は、俺の心の片隅に引っかかったままだった。
数日後、俺たちはヴァルアードを去り、商業都市ジルータを訪れていた。ジルータを訪れた理由は商業者ギルドと接点を持つためというのが一番の理由だが、加えて『買い物』をするためという理由もあった。パーティの戦力向上のために、より性能のいい武器防具を揃えることにしたのだ。これは先の救出作戦成功の褒美も兼ねているので、費用はもちろんすべて俺持ちである。財布にはまだ余裕があるので、みんなには好きなものを買っていいと言っておいた。
商業都市ジルータは商業都市と言うだけあって武器や防具、アイテムなどの店が豊富に揃っている。掘り出し物など、この街でしか手に入らないものも多い。街中央部にある市場の活気も他の都市とは段違いだ。物資を補給するのにジルータ以上の都市はこの王国には存在しないと言ってもいいだろう。
俺たちはそんなジルータでも最も高級な武器防具を扱っていると言われる『ローランド武具店』の本店へと向かった。ちなみにローランドの由来は現商業者ギルドマスターであるモルガン・ローランド氏である。
ローランド本店の内部はさすが最高級武具店というだけあってとても豪華だった。さながら美術館といった感じである。多くの武器や防具がガラスケースの中に飾られており、どれもキラキラとした輝きを放っている。見た目からしてもう高そうだ。
(こういう高級な雰囲気の店に来るのは久しぶりだから、なんかドキドキするな……)
俺はそう思いながら何気なく後ろを見ると、アマンダとユーリがかなり挙動不審なのに気づいた。明らかに場馴れしていない様子だ。……二人の気持ちは痛いほどよくわかる。一方、ミアはかなり慣れているのかいつもと特に変わらない雰囲気だ。さすがは銀騎士と言ったところか。俺はとりあえず寄ってきた店員に自分たちで色々見て回りたい旨を伝えた。
ミアは既に銀騎士装備があるとのことで特に新しい装備はいらないらしいので、まずはアマンダの装備を買うことにした。
「アマンダ、今使っている杖とローブのランクってわかるか?」
「うーんとね、普通の魔法使い用の杖とローブだから……Dランクかな?」
Dランクか……。勇者パーティのメンバーならやはりAランクの武器防具を使って欲しいところだ。ちなみに、エステニア王国では店で売られているすべての武器防具は国家鑑定士による鑑定が義務付けられていて、その品質に応じてEからSまでランクが付けられる。Aランクは上から二番目のランクで市販品では最高級レベルと言っていいだろう。俺の神剣ゼルフィウスは鑑定されていないが、もし鑑定されたら確実にSか下手するとそれ以上だと思われる。まぁ国宝なのだから当たり前なのだが。
というわけで、俺たちはネクロマンサー用のAランクの杖とローブを探すことにした。しかし、展示されている杖とローブは多くが普通の魔法使い用のものでネクロマンサー用のものは見つからなかった。まぁ普通の魔法使い用のものでもいいのだが、できれば専用のものがいい。店員に尋ねると、ネクロマンサー用のものは表には出していないとのこと。……これは多分、ネクロマンサーのイメージが悪いから、ネクロマンサー用の装備はあまり展示したくないということなんだろう。
俺はとりあえずAランクのネクロマンサー用の杖とローブがあれば、それを見せて欲しいと伝えた。すると店員はすぐに店の奥へと引っ込み、少し経ってから一揃いの杖とローブを持って出てきた。
「こちらがネクロマンサー用のAランクの杖、『魔杖ネクティス』と同じくAランクのローブ、『死者のローブ』になります」
店員の説明によると、魔杖ネクティスには死霊魔法や闇魔法の効果を大幅に高める効果があり、死者のローブには死霊魔法や闇魔法の消費魔力を大幅に抑える効果があるらしい。効果を高めて消費魔力は減らす……魔法使いにとってこれ以上最適な組み合わせはないのではないだろうか。さっそく、アマンダには魔杖ネクティスと死者のローブを試しに装備してもらった。
「どうだ?」
「……お、おおっ? おおー♪♪」
「おおー?」
「いい、いいよ、これ! なんかこうしっくり来る感じ! 杖は魔力をぎゅんって伝えられるし、ローブは着ていると力が溢れてくる感じ!」
……よくわからないが気に入ってもらえたのは確かなようだ。ネクロマンサー用の杖やローブはAランクのものは他にはないということで、アマンダの新装備はこの魔杖ネクティスと死者のローブに決まった。




