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第17話 続・閃光の貴公子ユーリ

 翌日、俺たちはユーリの家を訪れた。時間は午前十時前後。この日はユーリの闘技場での試合はないので、ユーリは家にいる可能性が高かった。呼び鈴を鳴らすと、少し時間が経ってから扉が開いた。そこには相変わらずの鎧兜装備のユーリが立っていた。


「……え、えーと、ど、どなたでしょうか?」


 ユーリは見知らぬ俺たち三人を見ておずおずと言った。


「俺の名はクライス・ルーンフィールド、ちょっと勇者をやっているものだ。君がユーリ・セレイアルだな?」


「え? あ、はいそうですけど……」


「単刀直入に言おう。君には我ら勇者パーティに参加してもらいたい」


「え、えええええええ!?」


 ユーリは少し後ずさってうわずった叫び声を上げた。顔が見えないので表情はわからないが、かなり驚いていることは確かだろう。……まぁ自称勇者の知らない男にいきなりパーティに加わってくれなんて言われたらこういう反応になってもおかしくない。



 俺たちは半ば強引にユーリの家に上がり、ユーリに事情を説明した。ユーリの試合を闘技場で見たこと。ユーリの実力が素晴らしかったこと。現在の勇者パーティには前衛で戦うことができるユーリのような人材が必要なこと。望むなら報酬もはずむこと……などを説明した。もちろん、ユーリを実はストーカーしていたことは伏せてある。


「……話はわかりました」


 ユーリはやや下を向いて言った。


「ただ……せっかくのお誘いですが、僕はあまりそういうのには向いてないというか……。多分、僕じゃなくて他の人の方がいいと思います……。それこそ闘技場の現チャンピオンであるゼクリスさんとか……」


「ゼクリスか。ゼクリスと君の試合を見た限りでは、確かにゼクリスは君に勝っていたな」


「…………」


 ユーリは特に何も答えなかった。


「しかしそれは、君が本気を出していなかったからではないか? 君が本気を出せばゼクリスですら簡単に倒せるだろう」


「……なぜ、そう思うんですか?」


「勇者の目を見くびってもらっては困る。君がゼクリスと戦っていたときに手を抜いていたのはお見通しなのだよ――『闘気使い』のユーリ君?」


「!! な、なぜそれを!?」


「言っただろう、俺は伝説の勇者さ。こう見えて人を見る目には自信があるんだ」


 俺はそう言って不敵な笑みを浮かべる。実際はユーリの真の実力なんて全く見抜けなかったし、見抜いたのはミアとアマンダだが、もちろんそんなことは言う必要はない。


「なぜ君が手を抜いたのかまではわからない。ただ理由を推測するとしたら、そうだな……君はもはや強くなりすぎて闘技場での試合に興味がなくなってしまったのではないか? それで勝敗はどうでもよくなり、ランキング順位を維持するためだけに適当に勝ったり負けたりしていた――違うか? 」


 俺は自信たっぷりな口調で言った。実際、ユーリは闘技場の試合で勝ったり負けたりを繰り返している。現チャンピオンのゼクリスより強いユーリが他の相手に負けるのは『故意』以外には考えられない。だから俺は、ユーリはランキング順位の維持のためにわざと勝ち負けを調整していると考えた。もちろん、なぜ順位を維持する必要があるのかまではわからなかったから、その辺の理由は適当だ。


「…………」


 ユーリは沈黙している。どうやら俺の推測はそれなりにいい所を突いているようだ。


「……君は今飢えているんだ。君の情熱を引き出してくれるような本当の闘いに。もし君が勇者パーティに参加してくれたなら、そういった闘いはこれから何度も体験することができる。君は自分より遥かに強い相手と出会うこともあるかもしれない。君の才能をこんな一都市で眠らせておくのはとても惜しい。どうだ、俺たちと一緒に来て世界を目指さないか?」


 俺はとにかく勇者パーティに参加するメリットを力説した。正直なところ、俺にはこの方法以外にどうやって他人を仲間に誘ったらいいかわからない。


 しばしの沈黙の後、ユーリは言った。


「……少し、考えさせてください」


「もちろんだ。俺たちはこの街の中央通りにある宿に泊まっている。住所の書いてある紙を渡しておこう。ただ、明後日には出発する予定だからそれまでには決めてほしい」


 本当は明後日に出発する予定なんてないし、そもそも今後の予定自体すら全く決まっていない。が、やはり期限があった方がいい回答をもらえそうな気がするので、とりあえず期限を設定しておくことにした。俺はユーリに宿の住所が書かれた紙を渡すと、そのままミア、アマンダとともにユーリの家を後にした。


「……クライスってほんと口だけは上手いわよね」


 宿への帰り道でミアが言った。


「ほんとー♪ なんかすごい説得がんばってる感じ!」


 アマンダも同調する。……それはそうだろ。そもそもこの街に来たのは仲間を得るためだ。仲間を得られなかったら時間と金をかけてわざわざこの街に来た意味が全くない。


(結構必死なんだぞ……パーティのリーダーって……)


 俺は心の中でそう思いつつ、ユーリが仲間になってくれることを祈った。



……明後日の午後、ユーリは俺たちの泊まる宿にやってきた。どうやら俺はなんとか説得に成功したらしい。


「よ、よろしくお願いします!」


 相変わらずの鎧兜姿でユーリは言った。俺は自分の部屋でソファに座りながら本を読んでいた。


「……改めてこちらこそよろしく。俺のことはクライスと呼んでくれ。ミアとアマンダは隣の部屋にいる。挨拶してくるといい。……あと、うちのパーティじゃ敬語は使わないからその方向で頼む」


「え? あ、は、はい……。わかりま……わかった」


 ユーリはそう言ってミアとアマンダに挨拶するために部屋を出ていった。……少ししてユーリの叫び声が聞こえる。きっと喋るヘルハウンドか無口のスケルトンにびっくりしたのだろう。


(そういえば言うの忘れてたな……次からは気をつけよう)


 俺は特に気にせず読書へと戻る。数分経つとユーリが隣の部屋から戻ってきた。


「えっと、ミアさ……ミアとアマンダに会ってきたよ……。ス、スケルとヘルぞーにも。喋るヘルハウンドにはすごくびっくりした……。勇者パーティって色々とすごいんだね……」


「そりゃあ、勇者パーティだからな。何があったって不思議じゃない。でも、だからこそ――面白いだろ?」


「……そう言われればそうかも」


……俺は正直適当なことを言ったが、ユーリは納得してくれたようだ。というか、ユーリは喋るヘルハウンドことヘルぞーに驚いていたようだが、いつでも鎧兜を着ているユーリもヘルぞーと同じくらい特異な存在だということに気がついているだろうか……。


「……あ、そういえば、ユーリに一つ伝えておくべきことを忘れていた」


「? えっと何かな?」


 俺は読んでいた本をぱたんと閉じてユーリの方を向く。


「実は、前に今日この町を出発するって言ったよな? ただそれが色々と事情が変わって明後日出発することになった」


 実際は現時点で今後の予定が特に決まってないので、とりあえず予定を明日中に決めて明後日に街を出立しようという魂胆だ。


「そうなんだ、わかった。じゃあ僕はどうしたらいい? 出発するときにまた合流する感じにする?」


「……いや、その必要はない。というか、むしろ今晩と明日、ユーリの家に俺たちを泊めてくれないだろうか?」


「え? 僕の家に泊まる? ……ってえええ!? 無理無理!! 絶対無理!!」


 ユーリはかなり困惑した様子で「無理無理!」を連呼する。


「いや、たったの二泊だぞ? 何がそんなに問題なんだ? パーティの親睦を深めるためにもいい機会だと思うんだが」


「だ、だ、だってベッド二つしかないし! 四人も泊まれないよ!」


「俺はソファで寝るから大丈夫だ。ミアはアマンダと一緒に一つのベッドで寝て、ユーリがもう一つのベッドで寝ればいけるだろ?」


「で、でも……」


 ユーリはやけに拒否をするが、そんなに嫌なことだろうか? まぁ同じパーティとは言え、ミアとアマンダは女の子だし二人に家の中を見られるのが恥ずかしいという気持ちはわかるが……。


「まぁ、そこまで嫌なら無理にとは言わないさ。ただ、これからは野宿とかでずっと四人一緒ってことはよくあると思うぞ? その辺り、大丈夫か?」


「そ、それは……」


「仲間ってのは信頼感が大事なんだ。そして、その信頼感は寝食をともにすることで最大限に養われる。もちろん一人の時間が必要なのは否定しないけどな。ただ、最初から自宅に少しの間泊めるぐらいのことを拒否されると同じパーティの仲間としてはちょっと悲しいだろ? まぁユーリがそれでいいならそれでもいいけど――」


「わぁあああ!! わ、わかった! わかったよ!! 泊めればいいんでしょ!? 泊めるよ!!」


 ユーリが半ばやけになって言った。……ちょっと強引すぎただろうか? ただ、これで今日と明日の俺とミアとアマンダの宿泊費が節約できるのだ。


(たった二日の宿泊費とは言え、それが三人分だと馬鹿にならないからな。ユーリの家に泊まるのならほぼタダだし、利用しない手はない)


 塵も積もれば山となる。節約できるところはできる限り節約していくのが俺の方針だ。


「おお、それはよかった! ついでだから一緒にユーリの歓迎会もしようじゃないか!」


「う、うう……どうしてこんなことに……」


 ユーリは肩を落として何か呟いていたが、俺は特に気にしなかった


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