第15話 闘技都市ヴァルアード
アンデッド・ワイバーンによるしばしの飛行を経て、俺たちは無事森の入り口に着くことができた。そこで停めてあった馬に乗り換え、俺たちはヴァルアードへと向かう。途中いくつかの村や町に寄り、休憩を取りながら馬に乗ること約二日、俺たちは目的地であるヴァルアードに到着した。
「ここがヴァルアードかぁ……」
アマンダが感慨深げに呟いた。俺たちはさっそくヴァルアードの正門をくぐり、街の仲へと入っていく。ヴァルアードはかなり大きな闘技都市で中央には王国で最大の闘技場がある。そのせいだろうか、道行く人の中には戦士や剣士、武道家といった風貌の人間が多くいた。その他の住民もなんだか気性が激しそうな人が多く、街の雰囲気はまさに荒くれどもが集う町という感じだ。知的な印象のある魔法都市マギステイアとはかなり対照的だ。
俺たちはまず今晩泊まる予定の宿を確保してから闘技場へと向かった。闘技場チャンピオンの試合がいつあるのかを確認するためだ。闘技場は街の中央にあり、円形でかなり大きかった。アマンダは闘技場を訪れるのが初めてらしく、辺りをはしゃぎながら歩き回っている。俺は受付に行き、いつチャンピオンの試合があるのかを尋ねた。すると、運がいいことに明日チャンピオンの試合があることがわかった。ついでにチャンピオンの名前も確認しておく。
(名前は『皇帝』ゼクリスか……。剣闘士デビューしてからは42戦全勝で負けはなし。どんな相手もその大剣で完全に粉砕する史上最強の男。……なるほど、これは強そうだ)
チャンピオンの対戦相手はランキング五位の『閃光の貴公子』ユーリ。閃光のように目にも止まらぬ速さで相手を翻弄し瞬時に切り伏せる剣士。……対戦相手もなかなか強そうだな。本命はゼクリスだが、他のランキング上位の剣闘士でもかなり強かったら仲間の候補として考えてもいいかもしれない。
「なぁ、ミア。剣闘士で上位の連中と王国騎士団で上位の騎士だとどっちが強いと思う?」
「そんなの王国騎士に決まってるでしょ…………と言いたいところだけど、実際はなんとも言えないわね。ランキング上位の剣闘士が、剣闘士をやめて王国騎士団に入ったらすぐに上位の騎士になったっていう例も聞いたことがあるし。まぁだいたい同じくらいの強さなんじゃないかしら」
ミアは肩をすくめて言った。王国騎士団と同程度の実力か、これはランキング上位の剣闘士にはかなり期待ができそうだ。
俺たちは闘技場で試合観戦の予約を済ませると宿へと戻った。ミアとアマンダが部屋でゆったりと過ごす中、俺は宿から抜け出て街の酒場へと向かう。ゼクリスについて情報収集するためだ。俺は酒場で麦酒を頼むと、酒場のマスターにゼクリスについて聞いてみた。
「ゼクリス? あぁ、あいつは化物だよ。二年前にチャンピオンになったんだが、それまでもそのあとも今の今まで一度も負けたことがない。一度もだ。明日の試合もゼクリスの勝ちだろうな」
「得物? 大剣だよ。巨大な大剣をまるで重さがないかのように振り回すんだぜ。あれはやばいよ」
「性格? 俺が知るわけがないが噂によると強さのみを求めるストイックな男なんだとか」
「ゼクリスをパーティに入れたい? あんた、冒険者か何かか? うーん、難しいんじゃないかねぇ。冒険するよりもひたすら修行するタイプだよありゃ」
どうやらゼクリスという男は強いが強くなること以外にあまり興味がない男のようだ。うーん、うちのパーティに入ってくれるだろうか……。いくら強くても勇者パーティに興味がなければ意味がないんだよな……。
俺は一応、対戦相手のランキング五位だというユーリについても聞いてみることにした。
「ユーリ? 閃光の貴公子のユーリのことか? あいつはゼクリスほどではないが、ランキングもかなり上位で相当強いぜ。顔を完全に覆う兜と軽鎧を装備して戦うから素顔はわからないんだが、噂によるとかなり美形らしい」
美形……なるほど、それで貴公子って言われているわけか。まぁそれはどうでもいい情報だな。その後、俺は他のランキング十位までの剣闘士の情報を根掘り葉掘り聞いてメモした後、酒場から宿へと戻った。
翌日、俺たちはゼクリスVSユーリの試合を観に行った。値段は張ったが特等席だ。戦いぶりがよく観察できる。周りを見ると観客席はほぼ満員だった。さすがチャンピオンの試合というだけあってかなりの人気だ。
席についてしばらくすると、まもなく試合が始まるとの係員からのアナウンスがあった。同時に闘技場の両側にある大きな扉が音を立てて開かれる。
左側からはゼクリスと思われる長身の男が登場した。中鎧を身に纏い、背中には大きな大剣を担いでいる。右側からはユーリと思われるかなり華奢な感じの男――というよりは背格好的に少年のように見える――が登場した。顔が見えない兜と軽鎧を身に着け、腰には普通サイズの剣を差している。両者は相対すると、互いに剣を構える。そして審判の合図とともにゼクリスVSユーリの試合が始まった。
――試合は終始ゼクリスがユーリを圧倒していた。ユーリは背が小さめでゼクリスよりも素早く斬撃の手数も多かったのだが、そのすべてがゼクリスによっていなされ有効打にならなかった。一方でゼクリスの剣の一撃は重く、ユーリが例えゼクリスの剣を自身の剣で受け止めてもその衝撃でふっ飛ばされることが何度もあった。ユーリはかなり粘っていたが、遂にゼクリスによって剣を弾き飛ばされ降参した。
「圧倒的だったな……」
試合が終わると俺は隣りにいるミアに話しかけた。
「…………」
ミアは何やら真剣な顔をして退場していくユーリの姿を見つめている。
「……クライス、あなた闘技場のチャンピオンを仲間にするって言ってたわよね?」
「そうだが?」
「それ、考え直したほうがいいと思うわ」
「……理由は?」
「私の見立てでは……あのユーリって剣士の方がゼクリスよりも何倍も強いと思うから」
「!?」
俺はかなり驚いた。俺にはゼクリスの方がユーリよりも明らかに強く見えたからだ。ミア曰く、ユーリはわざと手を抜いて戦っていたらしい。騎士として数多くの試合を見てきたからわかると、そう言った。半信半疑のままアマンダにも尋ねると、ミアと同意見であのユーリという剣士からは何かとてつもないオーラを感じるという。
……正直信じられなかったが、ずば抜けた実力を持つ二人が言うのだから多分間違いないだろう。ただ、それならなぜユーリは手を抜いて戦っていたのだろうか。現チャンピオンであるゼクリスよりも強いのなら自分がチャンピオンになるのは楽勝だろう。
(これは何かあるな……)
俺の勘がそう告げていた。
その後、みんなで話し合った結果、ユーリをしばらくの間『観察』することになった。というのも、街で得た情報によると、ユーリはたびたび近くの山で密かに修行しているらしいということがわかったのだ。その修行の様子を見ることができれば、ユーリの本当の実力を知ることができるとそういうことだ。その実力いかんによってはその場でパーティに誘おうという結論になった。
それからユーリをこっそり尾行する日々が始まった。……ユーリというのは実に変なやつだった。なぜならユーリは家から外出するときは、いつでも必ず顔が見えない兜と軽鎧を装備していた。買い物をするときも、散歩をするときも、外で食事をするときも、人と会うときも常に兜に鎧装備なのだ。はっきり言って異様であるが、街の人はそれに慣れているのか特に何も言わなかった。一種のトレードマークのようなものだろうか。
また、ユーリが人と話しているときの会話を聞く限りでは、ユーリの声はかなり若く、中性的で少年のようだった。おそらく実年齢もかなり若いだろうと思われる。下手するとアマンダと同じぐらいの十代半ばという可能性もあるだろう。
(十代半ばで三十代には見えるゼクリスより強いとすれば、ユーリには相当な潜在能力があると言える。これは面白くなってきたな……)
そんなこんなで半ばユーリのストーカーと化していた俺たちであったが、遂にその時は来た。尾行を続けて三日が経ったある日の昼頃、ユーリが家を出て近くの山の方へと向かって歩き出したのだ。おそらく修行するためだろう。俺たちは気づかれないように後を追った。




