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第14話 続・森の魔法使い

 その後は日も暮れてきたこともあり、俺とミアはアマンダ邸に一泊させてもらうことになった。夕食もごちそうになったが、驚くべきことに料理を作ったのはアマンダだった。正直、全く料理ができるようには見えなかったのだが、できた料理は豪勢でかなり美味しかった。


 もちもちした食感のパン、自家製の野菜を使ったスープ、オーブンでじっくり焼かれたスパイスが香ばしい肉、クリーミーな味わいのチーズ、どれも本当においしかった。普段はそんなに感情を出さないミアですら、よほど美味しかったのかかなりばくばく食べていた。


 俺が思わず「すごくうまい」と言うと、「えへへ、はりきって作ったからね!」とアマンダは顔をほころばせた。聞くところによると、料理は横にエプロン姿で立っているスケルトンが教えてくれたらしい。確かにこのスケルトンはアマンダが料理を作るのを色々と手伝っていたが、一体何者なんだろうか……。


「スケルはこう見えて器用だからな。だいたい何でもそつなくこなすぞ」


 アマンダに与えられた骨を夢中でかじりながらヘルハウンドが言う。


「そういえばちょっと気になったんだが、スケルトンとヘルハウンドはアマンダが召喚したのか?」


「そうだよ♪ もうかなり前の話だけど、ある遺跡で不思議な魔力が宿っていた魔石を見つけたんだ♪ それで、なんとなくその魔石を媒介にして召喚魔法を唱えたらスケルたんとヘルぞーが現れたってわけ! それからずっと一緒に暮らしてるんだよ。ね、スケルたん、ヘルぞー♪」


 スケルトンは首をゆっくり縦に振り、ヘルハウンドはうむと頷いた。なるほど、まんざらでもないらしい。


「それで3人仲良くこの家で暮らしているってわけね。でも、なんだってこんな辺鄙なところに住んでるの? ローグウィッシュの森を通るのだって大変でしょう? どこか近隣の町に住んだ方が便利だと思うけど」


「それは……」


 アマンダは少し悲しそうな顔をして言い淀んだ。


「……ミア、職業がネクロマンサーで連れがスケルトンとヘルハウンドというどこからどう見ても魔物の召喚獣だぞ? 人間が多い街で暮らすのは無理があるってもんだ」


 俺がそう言うとミアははっとした顔をして「ごめんなさい」と言った。ネクロマンサーは禁止されているわけではないが、世間的にはかなり忌み嫌われている職業だ。それに加えてスケルトンにヘルハウンドでは街に住むどころか入る許可すら出るかどうかも怪しいところだ。


「まぁ、我々は必要な時は魔石に戻ることができるから、人間の街でも隠れて暮らすことは可能だとは思うのだがな。ただ周りに知られるとかなり面倒なことになるからご主人はこの場所を選んだのだ。森に囲まれてるせいで来客は滅多になく、他の人間に存在を知られることはまずない。それにご主人は空を飛べる魔物を召喚できるから実際に森を通ることはほとんどないのだ」


 骨を咥えたままヘルハウンドが説明する。


「ま、そういうことー。ここでの暮らしは気に入ってるし、特に問題はないよー」


 アマンダは得意げに言った。実際、アマンダは幸せそうな生活を送っていると感じる。周りに人間はいないかもしれないが、代わりに気の合う友だち――いや家族というべきか――がいればそれだけで日々の暮らしが楽しく感じられるのだろう。


「あ、言ってなかったけど勇者パーティに参加するのはスケルたんとヘルぞーも一緒だからね! じゃないと参加しないから!」


「あぁ、もちろんだ。人間の街に滞在する際には少しの間魔石に戻ってもらうかもしれないが……それでも大丈夫か?」


「うん、それぐらいなら大丈夫!」


 その夜は家にベッドが二つしかなかったので、ミアとアマンダはベッドで寝て俺は床で寝ることにした。隣にはヘルハウンドが丸まって休んでいる。スケルトンは部屋の隅に座っているが、寝ているのか起きているのかはわからなかった。



 ……翌朝、目が覚めると隣で寝てたはずのヘルハウンドはいなかった。ベッドで寝ているアマンダの方を見ると、アマンダはヘルハウンドと一緒に仲良く寝ていた。ミアの方を見るとミアの姿はなかった。水でも飲もうかとキッチンに向かうと、テーブルに座って珈琲を飲んでいるミアの姿があった。キッチンではスケルトンが何やら調理をしている。朝食の用意だろうか。


「おはようクライス。これ、スケルトンが淹れてくれたの。たぶん、今まで飲んだどの珈琲よりおいしいと思う」


 ミアは珈琲の入ったカップを片手にこちらを見て言った。


 朝食後、俺たちは今後の予定について話をした。


「現在、勇者パーティはスケルトンとヘルハウンドを除くと前衛が騎士のミア、中衛が勇者の俺、後衛がネクロマンサーのアマンダという構成になっている。しかし、正直言って前衛が一人というのは戦力的に心もとない。不足の事態に対処するためにも、もう一人前衛ができる人間が必要だと考えている。どう思う?」


「いいんじゃない? 私は特に反対はしないわ」


 ミアはそんなに興味がないという感じで言った。


「私も異議なーし…………なんだけど、ちょっと待って」


 アマンダはそう言って真剣な眼差しで俺を見る。……ん? なにか変なこと言ったか?


「今、スケルたんとヘルぞーのことスケルトンとヘルハウンドって言ったでしょ! これからは仲間なんだしちゃんと名前で言って! そういうのよくないからね!」


 アマンダはぷんすと怒ったような口ぶりで言う。なるほど、確かにそれはアマンダの言う通りだな。


「……スケルとヘルぞーだな。気をつけよう」


「わかればよろしい♪」


「……話を戻すぞ。とりあえず今後の当面の目標は前衛職の仲間探しだ。もちろん勇者パーティなので実力は世界最高レベルが条件」


「あてはあるの? ……と言っても、あなたのことだからもしかしたらもう目星はつけているのかしら?」


「察しがいいなミア、その通りだ。先に言っておくと、俺たちが次に向かう場所は『闘技都市ヴァルアード』だ」


 俺はそう言って笑みを浮かべる。


「……ヴァルアードにはこの国最大の闘技場がある。そういうことか」


「……そういうことだ。闘技場のチャンピオンクラスならこの勇者パーティにふさわしいだろうというわけさ」


 闘技場のチャンピオンならおそらくミアレベルの戦闘力は期待できるだろう。資金も余裕があるし、チャンピオンでも交渉すれば雇える可能性はある。闘技場チャンピオンが仲間になれば強力な前衛が二人。戦闘では敵はほとんど前衛に任せて、俺は後ろで雷撃を撃っていればいいというわけだ。


「……まさかとは思うけど、前衛はそのチャンピオンと私に任せて自分は後ろで雷撃だけ撃って楽しようなんて考えてないでしょうね?」


「……ま、まさか。俺だってできたら前で戦うさ。ただ俺は戦闘力的には並レベルだから後ろで雷撃を撃っていたほうがいい場合もあるだろ。下手に前に出ていっても足手まといになるだけだ」


「ふーん、物はいいようね」


「事実を言っているだけだが?」


「あっそう」


 ミアはそう言って冷たい目で俺を見た。どうも俺の楽したい考えが見抜かれている気がする……。しかし、実際俺が前で戦うよりも後ろで雷撃を放っていたほうが効率がいいのは確かなことだ。ミアにはこれが役割分担であるということをわかってもらいたい。


「それより闘技場ってすごい面白そうだよね! 行くの楽しみ♪」


「ご主人、あまりはしゃぎすぎるのはよくないぞ」


 楽しそうにはしゃいでいるアマンダを見てヘルぞーが言った。これは遠足ではないのだが……。



 午後になりアマンダの準備が整うと俺たちはいよいよ出発することにした。アマンダ曰く、「空を飛べる」手段があるということでみんな家の前に集合していた。アマンダは「じゃあ、いっくよー!」と言って呪文を叫ぶ。


「いでよ! 死せる翼竜《アンデッド・ワイバーン》!!」


 すると地面に巨大な魔法陣が広がり、中から大きな竜が現れる。


「ギャオオオオオオオ!!!」


 竜が大きく咆哮した。


「はい、これがあんでっど・わいばーんちゃん。これに乗って森を越えるんだよ」


 アマンダは得意げな顔をして言った。……なるほど、そういう手があるのか。意外とネクロマンサーって便利なんだなと思った。


(しかし、アンデッドモンスターの背に乗る勇者か。これほど不釣り合いな組み合わせもないだろうな……)


 俺はそれについてはあまり考えないようにしてアンデッド・ワイバーンの背に乗った。心なしかミアも同じように何も考えてないような顔をしている。


 アンデッド・ワイバーンは俺たちを乗せると勢いよく飛び立った。翼は骨だけなのでなぜ空が飛べるのか疑問だが、多分魔法で飛んでいるんだろう。アンデッド・ワイバーンはどんどん高度を上げ、スピードを出していく。同時に、眼下に広がるローグウィッシュの森もものすごいスピードで過ぎていく。あれほど苦労して森の中を通ってきたのを思うと、俺は少し残念な気持ちになった。

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