第11話 大賢者マーク
マークに会うために、俺たちはマジックアカデミーがある魔法都市マギステイアにやってきた。マギステイアはマジックアカデミーがある街だけあって、道行く人にはローブを纏ってたり、杖を持っていたりして魔法使いっぽい人が多かった。街並みも歴史を感じさせる荘厳な建物が多く、これぞ魔法都市という感じだ。
マーク・スタイロンはこの街の外れにある一軒家に住んでいる。俺は何度かマークの家を訪れたことがあったので場所は覚えていた。俺たちは特に迷うことなくマークの家の前まで辿り着くことができた。
「……なんていうか、『ここには変な魔法使いが住んでいます』って感じの家ね」
ミアが言った。確かにマークの家はかなり古めかしくデザインも奇妙だ。その上、家の壁がところどころツタに覆われていたり、庭に変なオブジェクトが飾られたりしている。この家には変人が住んでいそうと思われても仕方がないだろう。
「じゃあ呼び鈴を鳴らすぞ」
俺はそう言って門の横に付いている紐を引っ張った。すると中からチリンチリーンと鐘の音が聞こえた。……少し待ったが、誰も出ない。
俺はもう一度、呼び鈴を鳴らす。
…………やはり誰も出ない。
「留守なんじゃないの?」
ミアが言った。俺はそれには答えず黙ってもう一度呼び鈴を鳴らした。経験上、あいつの場合は最低三回は鳴らすべきだ。
……それからさらに少し待つと、遂に扉が開いた。中からはローブを纏った長髪の男が機嫌悪そうに出てきた。髪はボサボサ、ローブはよれよれで一歩間違えば浮浪者と言った風貌だ。間違いない、マーク・スタイロンだ。
マークは訝しげに俺を見ると、俺がクライスだとわかったのか機嫌が悪そうな顔がパッと笑顔に変わった。
「やぁ、クライス! クライスじゃないか!!」
久しぶりの再会ということでマークは俺に軽くハグしてくる。
「久しぶりだなマーク、また会えて嬉しいよ」
「あぁ、二年ぶりぐらいかな? クライスは全然変わってないね!」
マークはそう言って笑ったあと、ミアの存在に気がついた。
「……えっと、そちらの方は?」
「初めまして、私は王国騎士団のミア・ヴィックリーズと言う者です。現在は勇者クライスの補佐官を務めています。どうぞよろしく」
ミアはそう言って手を差し出した。マークは状況がよくわからないという顔をしつつも握手に応じる。
「クライスが勇者で王国騎士団の人間が補佐官? ……何やらいろいろと事情がありそうだね。まぁ中に入ってゆっくりしていってくれよ」
マークは笑顔で俺たちを中に招き入れた。
俺たちは応接間に通され、マークは何やらお茶を出す用意をしているようだった。
「ところでさ! 最近、おもしろい魔法具を開発したんだよね。ちょっとこれ見てくれない?」
マークは特に変哲のない水の入ったポットを持ってきて言った。
「このポットは魔力を込めると中の水を沸騰させることができる魔法具なんだ。お茶とか入れるときにすごく便利だと思うんだよね!」
そう言うとマークは何やらポットに魔力を込めはじめた。すると中の水から湯気が出てきて、さらにポコポコと音を立てる。音はさらに大きくなり、ポット自体も振動しはじめた。どうやら中の水がすごい勢いで沸騰しているようだ。
「どう、これすごくない? これさえあれば誰でも簡単にお湯が沸かせ……」
そう言いかけた時、中の沸騰した水が跳ねてマークの手に直撃した。
「あっづ!!」
マークは耐えきれずにポットを落とした。ポットは床に落ちた衝撃で中の熱湯をぶちまけたが、その先には運が悪いことにマークの右足があった。
「うわっ!! あっづ!! あっづ!!」
マークは右足を上げて、ぴょんぴょんと飛び跳ねている。マークは靴を履いていたし、かかった熱湯の量も少量だったので大惨事には至らなかったのだが、ミアはと言うとツボに入ったのか手で口を抑えて必死に笑いをこらえようとしていた。
「……ごめん、みっともないところを見せてしまった」
「慣れてるし気にするな。やけどしなくてよかったじゃないか」
「まぁね……。こりゃまだまだ改良が必要のようだ」
マークはしょんぼりした様子で言った。
「……それで今日はなぜ僕のところへ来たんだい? 近くを通ったからちょっと寄ってみた……って感じじゃなさそうだけど」
「実は、ちょっと頼みたいことがあってな」
「頼み?」
「あぁ、かなり大事な頼みだ」
マークは少し真剣な顔をして俺の次の言葉を待つ。
「……率直に言おう。マーク、俺のパーティに加わってくれないか?」
俺は自分が勇者として選ばれたこと、今は勇者パーティの仲間の一人として魔法使いを探していることなどを話した。
「……なるほどね。しかし、君が勇者だったとは……驚いたよ。まぁ、初めて会った時からなんというか独特のオーラを感じたというか不思議なやつだとは思ってたけども」
「そうか? それは褒め言葉と受け取っておこう。……それで返事の方は?」
そう言うと、マークは椅子から立ち上がり窓際まで歩いて行った。窓から外を見つつ何やら考えている。マークは振り返って言った。
「……面白い提案だと思うし、できれば君に協力したいと思う。でも今は少し難しいかな」
「というと?」
「実は今、僕はマジックアカデミーの特別顧問という役職についているんだ。それで、その仕事が忙しくて他のことをする余裕が全然ないんだよね。辞めるっていう選択肢もあるけど、僕としては一度やるって決めた以上、任期が終わるまではやり通したくてね」
「任期はあとどれぐらい残ってるんだ?」
「三年ぐらいかな。さすがに三年は待てないでしょ?」
「それは、そうだな……」
「というわけで現時点では君について行くことはできない。ただ……」
「ただ……?」
マークはいいアイデアがあるという顔で言った。
「君たちが探しているのは世界で最高クラスの魔法使いなんだろう? それなら心当たりがあるよ。魔法の腕は僕と同じくらいか、下手すれば向こうの方が上かもしれない」
大賢者の称号を持つマークと同等クラスの魔法使い……? 予想外の展開に俺は驚いた。
「年中暇してると思うし、パーティに誘われたら喜んでついて行くんじゃないかな」
「それは好都合だな。それで、そいつはどんなやつなんだ?」
「会ってみればわかるよ。性格は悪くないと思うし、君とは相性がいいと思う。僕が言えるのはそれぐらいかな」
……ん、僕が言えるのはそれぐらい? それだけじゃ情報が足りなすぎると思うんだが……。俺は少し違和感を覚えた。
「……何でそれぐらいしか言えないんだ?」
「え? い、いや、それはほらあまり個人の情報を第三者に漏らすのはよくないというかなんというか……」
「……何か隠してないか?」
「い、いや何も隠してないよ」
マークはあたふたし始めた。明らかに何か隠している。
「じゃあ、その魔法使いの年齢、性別、種族、所属は? それぐらいなら聞いてもいいだろ?」
「……年齢、性別は会えばわかるよ。種族は人間。所属は多分どこにも所属してない」
マークはなぜかそれ以上は頑なに情報を出そうとはしなかった。「会えばわかる」の一点張りだ。俺はそれ以上の追求は諦め、マークの言うとおり実際に会ってみることにした。マークは好意で紹介しようと言ってるんだし、多分何かマークなりの理由があるのだろう。そこは友人として信じてみようと思った。
「わかったよ。それで、そいつはどこに住んでるんだ?」
「マギステイアからずっと南に行ったところにある『ローグウィッシュの森』、別名『暗い森』さ」
マークは爽やかに言った。




