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泡沫の物語(ミソロジー)  作者: 月ノ葉
4/5

第1頁 人、ならざる者。


ーーこの世界には人ならざる者が多数存在する。


 人形や動物などの人の形を成していないものもいるが、この世には、人の形を成している人ならざる者も存在する。1つは悪霊と呼ばれる者、そして、もう1つは………。



 「最近、人ならざる者が村の人を喰って回っている」


 そんな噂がされるようになった。

 始まりはたぶん、1、2カ月前くらい前に1人の村人が突然消え、後になって死体で見つかったことだと思う。その死体も外傷もなく、これといった病気も持っていなかったらしく、謎の死を遂げた死体だったらしい。

 それ以来、ほぼ毎日このようなことが起こっていて、村の人がそう噂するのも無理はない。

 ……まぁ、私は信じてないけど。


 (どうせただの偶然だって。証拠も何もないんだから。何か未知の病が流行っただけかもしれないし。)


 そう思いながら私は道を歩いていた。昔から悪魔だ悪霊だのを無駄に信じる村で、こうゆうことが起こるとすぐ変な噂を信じる。この村の人は何故かみんなそう。私以外は。


  角野すみの美咲。このごくありふれた村の住人の1人。生まれた時からこの目で実際に見たものしか信じない。


 こんな性格だから恐らく今回のことも信じないのだ。村の人たちは警戒してか必要以上外に出ないようにしていて、昼間なのに村はガラガラ。何をしようか考えながらただひたすら道を歩いている今現在。


 (暇だな~。何しよう。でも、あんま遠くに行くとお母さんに怒られるからな~。)


 そう考えていると、不意に後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。


「美咲~!何してるの~?」


 振り向くとそこには幼なじみの清華さやかの姿があった。


「おっ!清華!どうしたの?奇遇だね。」


「うん。家に居ても暇だから、ちょっと散歩してたの。そしたら美咲がいて。最近外は誰もいないから…。」


「みんなビビりすぎなんだよね。人ならざる者とか言ってるけど、そんなんじゃないと思うんだよね!」


「さすがにちょっとビビりすぎかもね。でも、なんかちょっと気味悪い。……って、そんなことより、せっかくだから遊ばない?」


「おっ!いいね!何して遊ぼうか。」


「まぁ。それはぼちぼち決めよ。あっ!でも、午後から用事があるから私は先に帰ることになるけど…。」


「いいよ。それまで遊ぼう!」


「うん。てゆうか久しぶりだよね~。あのね…………」


 2人は楽しそうな会話をしながら歩いていった。



ーーー


「すっかり遅くなっちゃったな…。」


 結局、清華が帰ったあとも結構遊んで、すっかり辺りは暗くなった…。

 昼間ですら人があまりいないのだから、この時間は人なんて1人もいない。しかも、今美咲が通っている道は、人通りの少ない脇道。

(こんな時間まで遊んでいたとしれば、お母さんになんと言われることか…。)


 考えるだけでも憂鬱なことを考えながら、美咲は暗い脇道を歩いていった。



ーーザッッ


「えっ。」


 気付いた時には遅かった。その瞬間、美咲の首に鈍い痛みがはしった。そして自分に何が起こったのか全く分からないまま、美咲は意識を失った。

 美咲の後ろには怪しい人が数人立っていた。


「今日もいい人間見ーっけた。」



ーーー


ーー



「んっっ……。」


 暗闇の中美咲は目を覚ました。


(ここは…。確か、道を歩いていて……。それで…。……いたっ!)


 何が起こっているのか全く整理できない頭をフル回転させていると、不意に首の後ろに痛みがはしった。


(そうだ。私、誰かに襲われたんだった!てことは、ここって…。)


 美咲はキョロキョロと辺りを見渡していた。すると、どこからか声が聞こえた。


「おっ!?どうやらお目覚めみたいだぜ。」


「!?」


 その声が聞こえた瞬間急に部屋が明るくなった。そして美咲は自分の周りを取り囲む人の存在に気付いた。


「そんな驚くなって。」


「えっっ…。だ、誰!!あんたたち!!」


「名乗る必要は無いだろ?だってお前もう死ぬんだし。」


「なっ…。どうゆうことだよ!それ!」


 抵抗しようとしたが、手足が椅子にきっちり固定されていて全く動けない。


「人ならざる者が出るって大人たちに言われなかったか?最近じゃそれを恐れて誰1人こんな時間に外なんて出てねーのに、お前は外に出てただろ?てことは、俺らに喰われる覚悟があるってことだ。」


(人ならざる者?喰う?何言ってんのコイツ。)


「人ならざる者の話は腐るほど聞いてるよ。でも、そんなん信じて無い。……あんたまさか自分らがその人ならざる者だとか言いたいの?」


「フハハっ!なかなか骨のあるヤツだなお前。ここに連れてきた奴らはみんな怯えてたから面白ぇよ。そうだ。俺らがその人ならざる者だよ。」


「人ならざる者って…。あんたたち、人じゃないの?」


 どの奴らを見てみても人にしか見えなかった。人ならざる者と言われてるくらいだから、もっと化け物みたいな形をしているものだと思っていた。


「人じゃねーよ。まぁ、お前らからしてみれば人にしか見えないだろうがな。………つーか、これ以上話してもお前には分からねー話だ。久しぶりに骨のあるヤツがきたんだ。たっぷり楽しませてもらうぜぇ。」


 そう言いながら男は近くにあった鉄パイプに手を伸ばした。そしてやけに楽しそうな顔でこっちに近づいてきた。


「こうゆうヤツはこのままボコボコにしたあとに頂くのが1番いい。」


 男がだんだん近づいてくる。

 怖い……。これから自分の身に起こることが100%想像できた。おそらくこのままボコボコにされたあと、瀕死のまま奴らに頂かれるのだろう。必死に逃げようと試みるが、ガッチリ固定された手足はびくともしない。


(確実に殺される…!ほどけろよ!このロープ!)


 そうしてる間に、とうとう男は美咲の目の前で足を止めた。そして、手に持っている鉄パイプを振り上げた。


(もうダメだ。私はここで死ぬんだ…。)


 美咲はしている動作を全て諦めて死を覚悟した。そして、これからすぐくる痛みに備えてぎゅっと目を閉じた。


「フハハハっ!!」


 そして男は持っている鉄パイプを振り下げようとした!


 …っと、次の瞬間。ドカンッとものすごい音でドアが開いた。いや、正確には外れた。新手のヤツが来たんだろうと美咲は思った。そう思いながらも少し目を開けてみた。

 そこには、スラッと背が高い、1人の女性の姿があった。その女性は何かデカいものを持っているように見えたが、あまりよく見えなかった。すると女性は笑みを浮かべながらこっちに歩いて来た。


「あら?何か声が聞こえると思っていたら、こんなにもたくさんいらっしゃいましたか。私の仕事はないと思っていたのですが……。どうやら殺らなくてはいけないようで。」


 女性は優雅なようで、どこか人をバカにするような口調で部屋に入って来た。


「んだよてめぇーは!?何で知らないヤツが入ってきてんだよ!」


「フフッ。あら。知らないヤツが入ってきてはダメだった?見るからに応接室に見えたのですが。」


 どこをどう見れば応接室に見えるのだろうか。美咲は心の中でそう思っていた。というか、この部屋にいる全員が全員そう思っただろう。だが、女性が近づいたことで手に持っているものがよく見えるようになった。


(あれは……。鎌……?)


「さて。雑魚と無駄話をする気は更々ありませんので、さっさと済ませてしまいましょうか。」


 美咲が鎌だと気づくのと、女性が鎌を振り上げるのはほぼ同じタイミングだった。

 女性は自分の身長と同じくらいの大鎌を振り上げると、「さようなら」とだけ言って顔色ひとつ変えずにその鎌を振るった。見た目からは想像のつかないほどの豪快な手さばきで次々と人ならざる者たちを斬っていった。斬られたヤツは皆、何が起こったのか分からないような顔をして一瞬で動かなくなった。

 気がつくと自分の周りの奴らは皆斬られていて、目の前には返り血で汚れた女性の姿があった。まるで死神が持つような大鎌で斬られた死体はそのほとんどが切断されていた。


「あら?人間が何でこんなところに?フフッ、その様子から察するに、あなたコイツらに連れ去られたみたいね。」


 顔についた血を拭きながら女性は美咲に訪ねてきた。


(えぇっ!何この人!私を助けにきたの!?いや、でも全然知らない人だし…。もしかして、私も殺されるの!?いや、でもまぁ、とりあえず質問に答えるか。)


「あっ、はい。いきなり連れ去られたみたいで……。」


「それはまぁ、大変ね。えーと、どれどれ…。」


 女性はそう言いながら美咲の後ろに回り込んだ。そして、美咲の後ろであの大鎌を振り上げた。


「えっっ!ちょっ!!わぁあぁ~!!やっぱ私も殺されるんだぁあぁ~!!」


 スパァーン


 殺されるこを覚悟で叫んでいると、やけに軽い音が聞こえた。それに、痛みもない。少し驚いていると、さっきまで全く動かなかった手足が自由になった。


「フフッ。何よ。殺すわけないでしょ。あなたは人間なんだから。そんな大声ださないの。」


「は、はぁ……。」


(それなら最初からロープを切るって言ってくれれば…!……めっちゃ恥ずかしい…。)


「てか、あの、助けて頂いてありがとうございます。私は角野美咲っていいます。あなたは?」


「別に助けた訳じゃないけど。まぁいいか。私はアイリよ。名乗っても特に何にもならないけど。でもこれで、晴れてあなたも自由の身よ。あとは好きにして。」


 女性はそこから立ち去ろうとした。………が。


「あの~!!ちょっと待ってください!私今自分がどこにいるのか分からなくて。外に出るなら案内して頂けませんか!」


 美咲は自分の持てる全ての敬語の能力を使って頼んだ。すると女性は立ち止まり、美咲の方に振り向いた。


「別に構わないけど。あなたもしかしてここに来る途中に通った、あの大きな木がある村の人?」


「そうです!村の真ん中に大きな木が植えてある村ですよね?」


「えぇ。そうよ。丁度そこまで行く用事があるから、案内してあげる。」


「いいんですか!?ありがとうございます!」


 こうして、美咲はアイリに村まで案内してもらうもらうことになった。



 美咲は歩きながら建物を見回していた。


(改めて見ると、すごい廃墟だな……。夜は来たくない。)


 どこにあるかはよく分からないが、とりあえず凄くボロボロな建物だった。そこらじゅうにクモの巣があり、窓ガラスに至っては全て割れている。


「あの、アイリさん。ここは一体どこなんですか?」


「ここはとある山の中よ。」


「そうなんですか。てか、さっきの奴らなんなんですか?私の村の人たちはみんな人ならざる者とか言ってますけど。」


「あぁ。うーん。村の人たちが言ってることは間違ってはないわ。」


「えっ。」


「フフッ。村に行くまでの道中暇だから少し話してあげましょうか。」

「奴らは悪霊と呼ばれる者たちよ。奴らはね、人の魂を喰らって進化していくの。でもそれを造り出したのは、他でもない人間なんだけどね。」


「ど、どうゆうことですか?」


「悪霊が生み出される要因は大きく分けて2つあるわ。1つ目は、悪の心を持ったまま死に、そのまま魂まで悪に染まってしまった魂が、もう1つは恨み、憎しみ、悲しみを持ったまま死に、それらに染まってしまった魂が悪霊になる。悪霊たちは人の魂を喰らい続けることによって、悪魔へと進化していくわ。恐らく、もうかなりの数の悪魔がこの世に誕生しているはずよ。彼らは人の形を成していて、それでいて人間ではない。だから、今の人間の技術では、倒すことも封印することもできないわ。」


(じゃあ、村の人の言ってることは正しかったんだ。)


「でも、アイリさんは倒してましたよね?」


「あぁ。それはまぁ、私は特別だからよ。」


「じゃあ、アイリさんは奴らを倒すことが仕事ってことですか?」


「まぁ、そういうことね。」


 話をしながら歩いていると、ふと前方に光が見えた。出口だ。美咲は嬉しさに走り出した。しかし、よく見るとその光の中に2人の人影が見えた。美咲は思わず立ち止まった。


「アイリさん!出口にいる人影って、もしかして敵じゃ!」


 美咲はアイリの方を振り向いた。しかしアイリはフッと可笑しそうに笑いながら答えた。


「フフッ。あれは私の仲間よ。ここで待ち合わせようと約束してたの。」


「あっ…。そうなんですか。…すみません。」


「いいのよ。さらわれたばかりなんだから、無理もないわ。」


 安心した美咲はアイリと一緒に出口へ向かった。するとアイリの言ったとおり、そこにはアイリの仲間らしき人が2人立っていた。1人は白くまの耳がついている少女と、もう1人は黒のパーカーを着た少女であった。


「あっ!遅せーよアイリ!どんだけコイツと待たせんだよ!」


「ヒュウガだけ先に帰ればよかったじゃん。」


「それができたらとっくにそうしてるわ!今ここでその口二度ときけなくして殺ろうかぁ?」


「殺れるもんならやってみれば?…その前にツキがその首を落としてあげる。」


「はいはい。2人とも喧嘩しない。そんなことするんだったらその前に、私が2人まとめて真っ二つにしてあげましょうか?」


 何故か喧嘩が始まった。アイリはまるで普通に仲裁に入っていったが、喧嘩する方もする方だが、仲裁する方もする方だと美咲は思った。


「あ、あのー、アイリさん。この2人がアイリさんの仲間ですか?」


「えぇそうよ。あまりにも馬鹿馬鹿しくて分からないわよね。無理もないわよ。」


 あははと笑っているけれど、完全にディスっている。


「馬鹿馬鹿しい言うな!…てかアイリ。お前の後ろにいるのって誰?悪霊…って訳じゃなさそうだけど。」


「この子は美咲ちゃんよ。ここにいた悪霊たちにさらわれてたところを偶然助けたわ。丁度あの村の人なんですって。」


「フーン。じゃあ行き先は一緒か。あっ、俺はヒュウガだ。よろしく。」


「ほら、ツキも挨拶して。」


「……ツキっていいます。よろしく……。」


「よろしくお願いします。美咲っていいます!」


「フフッ。私はアイリね。」


「それはさっき聞きました。」


「冗談よ。さっ、行きましょ。」


 4人は歩き出した。外に出てもやはり全く分からない景色だった。美咲は自分がどこに連れてこられたのか、全く分からずにいた。


「結局、ここどこなんです?全然知らない風景なんですが。もしかして、かなり遠くだったりしますか?」


「心配すんなよ。ここはお前のいる村のすぐ裏にある山の中だ。しかも、そんなに高い所じゃない。お前、来たことないのか?」


「実は私、村から出たことがあんまりなくて。村の裏に山があることは知ってたけど、入ったことはありません。」


「へぇー。なるけどな。じゃ知らない訳だな。」


「……村からあんまり離れてないところなのに、なんで来たことないの?」


 隣でツキは不思議そうに問うた。


「私の村は基本村から出ちゃいけないことになってて、外に出る人はいません。たまに偉い方の人が出入りしてたりしたけど…。」


「……。」


「?」


「あっ。ごめんね。ツキはこういう子なの。気にしないで。」


 アイリがそう付け足した。無視されたと思った美咲は少し安心した。


「私の村はなんかよくわからないけど特殊な宗教みたいなのを信仰してて、昔からよく分からないルールがあったんです。私はそんなの全然信じない性格なので、小さい時から村の人によく怒られてました。お母さんからもいろんな話を聞いてたんですけど、あまり信じてなくて。でも、1つだけ信じてる話があるんです。」


「どんな話?」


「世界が闇に染まると天界からたくさんの神様がやって来て、世界を光に満たしてくれる。そして人間を守ってくれて、人間の味方でいてくれる。っていう話です。神様は闇から人間を守ってくれる。だから、悪霊たちもきっと神様が倒してくれますよ。」


「お前、自分の目で見たものしか信じなさそうなのに、神様は信じるんだな。」


「なんでか知らないんですけど、神様は信じてます。」


 ヒュウガはそう言った。するとアイリは少し考えるように俯いてすぐ顔を上げ、美咲の方を向いて言った。


「フフッ、いいんじゃない。信じるのは自由だもの。あなたが信じているような神様が、いつか現れるといいわね。」


「そ、そうですね!」


 美咲は嬉しそうに言った。


「そんなに嬉しかった?」


「はい。私の意見なんか理解してくれる人なんて、全然居なかったから、つい……。幼なじみでさえ、理解してくれなかったから……。」


「なるほどね。」


 美咲は純粋に理解してくれたことが嬉しかった。嬉しさからか美咲は少しフフッと笑った。


 美咲たちが山の中を歩き始めてからだいぶ時間が経っていた。美咲たちはやっと山らしい景色から抜け出せることができた。するとそこには、何の曲がり道もない、真っ直ぐな道が広がっていた。そしてその先には、1つの村があった。


「あっ!!あれです!私の村が見えました!やっと帰れる!」


 美咲は安心して喜んで言った。しかしその瞬間、美咲の目にはとんでもない景色が写っていた。


(えっ……………。)


 村から立ち上る真っ黒な煙。下の方には炎。まるで今まで居た村とは思えないほどの景色がそこにはあった。


(か、火事!?)


 美咲はそう気づくと思わず走り出した。美咲が居た位置と村まではそんなに離れてなかったため、美咲はすぐに村の前までたどり着くことができた。


(まだみんな生きてるかもしれない!!助けにいかなきゃ!)


 美咲がそう思い、燃え盛る村の中に入ろうとした瞬間、後ろから声が聞こえた。


「待てよ!お前まさか助けに行こうとか考えてるんじゃないよな!?無理だ!」


「なんでですか!まだ誰か生きてるかもしれないじゃないですか!きっと誰か生きてるはず………」


「それはないわ。」


「えっ…。」


 美咲が話している途中にアイリがそう言った。


「どうしてそう言い切れるんですか!!!」


「だって、()()()()()()()()()()もの。」


 美咲はアイリが言ったことが理解できなかった。何も言えずにいる美咲に、アイリは話しを続けた。何一つ顔色を変えず、今までの調子のままで。


「ごめんなさいね。でも、騙していたわけではないの。私たちは最初からこの村が狙いで、たまたまその時にあなたを助けただけ。この村をこんなにしたのは私たちの仲間……というか私たちよ。」


「どうゆうことですか!なんでそんなこと……。」


 だんだん状況が理解できてきた美咲は困惑を隠せなかった。今まで恩人だと思っていた人たちが、まさか自分の村を壊しただなんてことを信じることはできなかった。


「あなたはまるでこの村のことを知らないのね。じゃあ教えて差し上げましょうか。この村はね、数々の悪霊たちを生み出してきた村よ。あなたも話していたわよね、この村は特殊な宗教を信仰する村だって。でも、それは宗教なんかじゃない、全く別のものだったのよ。」


「全く、別のもの……。」


「洗脳よ。人はね、信じやすいことを言えば何でも信じるのよ。そして、どんどん深みにはまっていく。この村の村長は神の声なんて微塵も聞こえないわ。ただそれっぽいことを言いふらして信者を増やしていったのよ。村の人は、村長の言うことだからって真面目に信じた。そして洗礼と題した“洗脳”を村人に行うことによって、1つのカースト制度を広めていったのよ。」


 今まで自分が居た村にそんなことがあったなんて知らなかった美咲は、驚きを隠せなかった。すると、今まで黙っていたツキが続けて話し始めた。


「でも、その中に必ず、あなたのような人が現れた…。村長の言うことを信じない、そんな人が。……村長はそれがつくづく気に入らなかった。でも、村長の信者は村人のほとんどだったこともあって、村長を信じない人は重罪人という考えが定着してた。だから村人はその人を重罪人として処刑した…。もちろん死刑で。」


「その村長が死んでからも、その制度は引き継がれ続けた。でもその都度数人そういう人が出て、処刑し続けた。処刑された人にしてみれば、ただ村長を信じなかったってだけで殺されたって思うのは当然だ。そしてその魂は憎しみと悲しみに満ちて悪霊になったってことだ。おまけにその信者たちも悪の心に満ちたってことで悪霊になる始末だ。……で、悪霊たちは村からそんな離れてない裏山に住み着いて、村への復讐で村人を殺して喰い荒らしてた。ってゆうのが真相だ。お前はもう少しで村の奴らに殺されるところだったんだよ。」


「……そんな奴ら、死んで当然なんだよ。」


 途中からヒュウガも話し始め、状況が説明された。もう何も言えない美咲はただ呆然とするしかなかった。それでも何か言おうと美咲が口を開いたその時。後ろの方から数名の足音か聞こえた。美咲は瞬時に振り返った。そこには、初めて見る4人の人の姿があった。

 マフラーを巻いている少女、神父のような服を着ている少年、不良のような青年に、背の高い無愛想な青年だ。

 彼らは燃え盛る村の中から平然と出てきた。


「今回も、かなり大胆な戦い方をしてしまいましたね。出来れば村の形だけでも残しておきたかったのですが…。」


「んなこと言っても燃えたもんは仕方ねーだろ。アイツらが勝手に暴れ出したんだ。」


「これから殺されるってゆう時に暴れ出さないヤツなんているわけねーだろ。おかげでちょっと手こずった。」


「まぁそう言わずに……。それより、アイリさんたちがいます!向こうも無事終わったみたい。」


 4人は話ながら近づいてきた。今まさに村を一つ焼いたきたようには到底見えないほどの身なりをしていた。着ている服は一切乱れてなく、圧勝だったと言っているようだった。


「あ?なんか1人多くねーか?」


「あぁ、本当ですね…。アイリさーん。お疲れ様です。あの、そこにいる人は誰なんですか~?」


 神父のような服を着ている少年がそうアイリに声をかけた。


「あぁ、そちらこそご苦労様。この子はこの村の子よ。悪霊たちに捕らえられているところを助けたの。」


「そうなんですか。」


 歩いてきた4人はアイリたちのところまで来ると美咲について問うた。見知らぬ人間がいるのだから当然のことだ。だが、美咲にはそうは思えなかった。村の人を村ごと焼くくらいの人たちなのだから、自分も殺されるに違いないとそう思っていた。


「運がいいのか悪いのか、助けられたということですか。」


「運がいいこたねーだろ。帰って来たら自分の村がこの有り様だぜ?」


「命が助かっただけで、充分運がいいだろ。そうゆう見方もあるぞ、エンマ。」


「るっせーよ。ヒュウガ。てめーは俺より年下だろーが。」


「年下だからなんだよ。もうそんなことあんま関係ないだろ。」


「はいはい、こんなところで小競り合いしないで。私はそんなことより、カイトが持ってるものが気になるわ。」


 アイリはそう言うとフフッと怪しげに笑ってカイトの方へ向かった。美咲は無愛想なカイトという人の手元に目を向けた。その瞬間、美咲は息が止まるほどの衝撃を受けた。身の毛がよだつ光景がそこにはあったのだ。

 カイトという青年に捕まっている白髪の老人。間違いなく村長だった。攻撃を受けたのか、傷を負っている。


「コイツは村人のことをそっちのけで1人逃げようとした。とりあえず一発撃って捕まえといた。」


 そう言うとカイトは村長を投げ捨てた。


「そうなの。確かにただ普通に殺すにはもったいないわね。」


「そ………村長……。」


 美咲のやっと出た言葉はそれだった。村長はそんな美咲の存在に気づいたような顔をした。


「なんなんだお前ら!!わしの村をこんなにしおってぇ!」


 村長が怒りをぶつけるように怒鳴った。そんな村長を見下しながらアイリは笑いながら話した。


「あら、自分の村がこんなになるようにしたのはあなたでしょう。つくづく身勝手な人ね。普通自分の村がやられてるなら、自分のことは後回しで、村人を助けるのが村長じゃないの?」


「なんじゃお前は!!偉そうに!」


「フフッ、私はアイリよ。あなたより偉いのだから偉そうにして当然だわ。それより、せっかくだから聞きたいことがあるの。あなたはどうして宗教を広め続けたの?初代じゃないんだから、あなたの代でやめることもできたはずよ。」


「……。」


 村長はその問いに答えようとはしなかった。アイリを睨み付けながらただ黙秘していた。


「質問に答えなさいよ。逃げようとしても無駄よ。カイトはね、射撃の天才なの。ほら、あなたのアキレス腱、完璧に撃ってあるでしょ?この時点でもう逃げることは不可能よ。大人しく質問に答えなさい。」


「お前に話すことなどないわ。」


 村長はそう言うと一層アイリを強く睨んだ。村長に質問に答える気は更々ない。すると、アイリの後ろにいたツキが村長に近づいて言った。


「あなたは力が欲しかっただけ。村を支配する“権力”が欲しくてたまらなかった…。宗教とか洗脳とかそんなのどうでもよくて、ただ、自分のに従う村人(下僕)が欲しかった。」


 表情は変わらないものの、言葉には何か重みを感じた。何も感じないような、色の違う目はただ冷たく村長を見下していた。すると村長は今まで黙っていたのが嘘かのように怒鳴り始めた。


「それの何が悪いというのじゃ!力が欲しいのは当たり前じゃろ!所詮村人など、わしの下僕にすぎない。ただ、村人は自らの意思でわしについてきた!別に悪いことでは無かろうに!村人などわしの言いなりになっておればいいのだ。」


 その瞬間、ツキの腰の2振りの刀が現れた。ツキそのうち1振りの刀を抜くと、村長の腕にいきなり突き刺した。刀が現れてから突き刺さるまではほんの数秒のことだった。


「うぐぉおぉおぉぉお!!!」


「その力はこの村以外でも使えるの?そこでこの村の村長と言えば、みんな従わせることができる?お前がそんなにも欲しくて手に入れた力は、この村から一歩出てしまえば使えない、下らない力。そんな力のために村人の自由は奪われ、罪のない人が殺された。」


 ツキは人を蔑むような目をして言った。表情、口調は変わらないが、刀を握る手の力がツキの心情を物語っていた。すると、ツキの力がこもった左手に手を添えながらアイリは言った。


「ツキ、気持ちは分かるけど落ち着いて。コイツにはまだ聞きたいことがあるの。大量出血で死ぬと悪いからそのままちょっと待ってて。」


「………。」


 ツキは黙って手の力を抜いた。


「ごめんなさいね。あなたの言いたいことはよく分かったわ。じゃあ最後にもう1つだけ。美咲ちゃんをどうする気だったの?」


 すると村長は立ち尽くす美咲の方を見てニヤリと笑いながら話した。


「美咲かぁ。お前はわしを微塵も信じようとはしなかった。だからもう少しで死刑にしてやろうと思っていたのじゃ。死刑執行人も決まっていたというのに…。」


「し……死刑執行人…。」


「そんなのを決める制度があるの?」


「あぁそうじゃ。美咲、お前を殺すのは清華の役目だった。清華も『村長に歯向かうヤツなら』と、喜んで引き受けてくれたわい。じゃが、それを任命してすぐ、お前は途端姿を消してしまった。清華はたいそうショックを受けていたぞ。」


「清華が……。わ、私を…。そんなっ!だって、アイツとは……。」


 幼なじみに殺されそうになっていたという事実を突き付けられて、美咲はもうどうしていいか分からなくなった。ただ、ニヤリと笑いながら美咲を見つめている村長から嘘をついているような雰囲気は一切感じず、ただ辛い現実を受け入れるしかなかった。


(じゃああの時の用事って、まさか村長からの……。)


「お前の仲間など、最初から誰1人居なかったのじゃ。大人しくわしを信じていれば良かったものを。」


 美咲はもう涙すら流れなかった。自分の味方など、誰1人居なかった、幼なじみですら……。そんな事実が美咲をひどく傷つけた。そんな時、不意にアイリの声が聞こえた。


「あははっ!最っ高よ。あなたの言いたいことは十分理解出来たわ。こんなくそ下らない面白い話久々に聞いたわ。あぁごめんなさいね、ツキ。もうそいつは用無しよ。あとは好きにして。」


 そう言って可笑しそうに笑いながらアイリは村長に背を向けた。ツキはアイリに言われるなり、もう一度刀を握る手に力を入れた。


「あなたは力に溺れすぎた……。さよなら。」


 ツキは村長の腕に刺さった刀を抜くと瞬時に刀を振るった。その刀は村長の首を何の迷いも無く切りつけた。村長の首からはおびただしい量の血が流れ、後に村長は動かなくなった。


「あなたは初代じゃない。だから首は落とさないどいてあげた…。」


 そう言うとツキは刀を鞘にしまった。そして2振りの刀は消えていった。

 美咲はもう動かなくなった村長をただ呆然と見ていた。自分の中でふつふつと浮かび上がってくる思いを少しずつ理解していったのであった。


「…………アイリさん…。どうして私を助けたんですか?」


 自分でも、不可解な質問をしていることは分かっていた。でも、これくらいしか話せることが見つからなかった。それを聞くと、アイリは美咲を見て笑いながら話した。


「私たちにあなたを殺す理由なんて無いからよ。この村の住人だからといっても、あなたの心はまだキレイだもの。意図的に“光”を倒す訳ないでしょ。でも、もしあなたがどうしても殺してほしいと言うなら、殺してあげないこともないわ。」


「今死んだら、私は悪霊に……なってしまいます…。」


「その心配はないわ。私たちの使っている武器は自らの魂から作り出された武器なの。だから、悪霊であれ人間であれ、この武器で殺せば魂をあるべきところに返すことができるわ。」


「………。……神様は、人間を助けて世界を光に満たしてくれるはずなのに……。救われたのは、闇、ですか。アイリさん……、アイリさんたちは一体誰の味方ですか。悪霊の魂も悪い人間の魂も、それじゃ等しく救われる……!同じく救われたはずの光は、一番苦しい……。」


 いろいろな感情が入り交じった美咲は自分が救われたことに対しても戸惑いを感じていた。救われたのは光か闇か、美咲はその戸惑いをアイリに向かって訴えた。するとアイリは今までと態度を変えること無く美咲に答えた。


「私たちは悪霊の味方でも、ましてや人間の味方でもない。この世の頂点に立つ1人の神の味方よ。だから救った光を最後まで幸せにする義理なんて、端から持ち合わせていないの。」


 アイリはそう言うと美咲の方に近づいた。


「私たちは、あなたが信じているような心優しい神様じゃないわ。だからたとえ人間であっても、悪は悪として始末する。世界を光で満たして人間を救うなんて如何にも()()()()()()()()みたいなことはあまり考えてないわ。」


 アイリそう言うと、美咲の目を見て少し微笑んだ。それが慰めなのか蔑みなのか、美咲には両方の意味に感じた。美咲は目の前まで近づいてきたアイリに向かってふと頭をよぎった疑問をぶつけた。


「アイリさんたちは、一体何者?さっきから話を聞いてれば、まるで自分たちが……神様みたいなことを言って……!それに、いきなり武器が出てきたり……!」


「そうね。人ならざる者、とでも言っておきましょうか。」


「人……ならざる…者…。」


 それを聞いた瞬間、美咲は顔色を変え後退りしていた。そして、アイリからの距離はだいぶ離れた。そんな状況でもアイリは微笑んだまま美咲を見ていた。美咲にはその笑みがとても恐ろしいものに見えた。言葉にしなくても、美咲が“人ならざる者”を拒んでいることは十分に分かるほどだった。

 するといきなりアイリの横にいたヒュウガが話始めた。


「お前の中じゃたぶん、人ならざる者=悪霊ってなってるだろうがそれは違う。俺たちは(そと)は人間だが(なか)は神様だ。だから、人であって人じゃない。お前ら人間からすれば、人間じゃないものは全部人ならざる者になるんだ。なら、俺たちは十分人ならざる者だよ。だからもし、お前が人ならざる者を拒んでるんなら、俺たちのことも拒んでることになる。」


「でも現に今、あなたは私たちのことを拒んでる。そうでしょ、美咲ちゃん。」


「………。」


 美咲は返す言葉が見つからなかった。アイリに言われたことは紛れもない真実だったからだ。


「所詮私たちはそういう存在よ。神様というものは、つくづく嫌われ者なのよ。人間からしてみれば、極悪非道なことをしているようにしか見えないから。」


 アイリの言葉は美咲の心にストレートに届いた。全く、その通りだと、美咲は思った。自分を悪霊(人ならざる者)から救ってくれたのは神様(人ならざる者)で、その神様(人ならざる者)は自分の村を破壊した。

 自分を助けてくれたと思っていたのに……………。

  信じてくれたと思っていたのに……………。

 村人や村長が殺されたことより、裏切られたという感情が美咲を支配していた。そんな美咲の目に、光が映った。

  夜明けだった。

 今まで闇が支配していた景色が急に明るくなった。次第に明るくなっていく空を、美咲は不確かな目で見ていた。


「もう夜明けね。さて、そろそろ帰りましょう。」


 アイリがそう言うと、ほかの6人は歩き始めた。


「今回も疲れました……。帰ったらゆっくり休もう!」


「本っ当フウカは体力無しだなぁ?」


「ムゥ……、余計なお世話です!」


 美咲の後ろにいた4人は会話をしながら次々と美咲を追い越して行った。そして、仕事終わりみたいな会話をしながら去っていく7人を、美咲は見ることすら出来なかった。ただ俯いて少し楽しそうな会話を聞いているだけだった。

 その7人の中でふとアイリが立ち止まった。他の6人は少し先に行ったところで立ち止まり、アイリの方を振り返った。アイリは美咲の方を見ると、フッと笑って話かけた。


「美咲ちゃん。今のあなたにこんなこと言っても、ただのきれいごとのように聞こえるだろうけど、私は、信じることは自由だと思っているわ。それが真実だろうが嘘だろうが関係ない。でもね、信じるということにはそれなりの代償が必要よ。それが嘘だったときの苦しみと、それを受け入れられる心が必要になる。だから、あなたがその苦しみを受け入れて“光”として生きていくのか、その苦しみを受け入れきれずに“闇”に染まって生きるのか、それはあなた自身が決めていかなきゃならない。その事を忘れないでね。」


 アイリはそう言うと、じゃあね。と言って歩いていった。そして、歩いていく7人の姿は次第に遠くなっていった。


ーーー

ーー


 恐らくかなりの時間が経った。7人の姿はもう何も見えなくなっていた。美咲はそれほどの時間が経ったなんて思えなかった。ただ、だんだん明るくなっていく空がその時間を表していた。

 美咲はゆっくりと空を見た。徐々に紫やオレンジに染まっていく空を見ていると、美咲の目から一粒、水がこぼれ落ちた。この時、やっと美咲の目からは涙がこぼれた。そしてその涙は止まることを知らなかった。

 恐らく美咲がこの日の夜明けを忘れることは、無い。



「だいぶ明るくなってきたわね。」


 アイリは歩きながら夜明けを見ながら話した。


「アイツ、ぜってー立ち直らねーよ。どうすんだよ、アイリ。」


「それは彼女次第ね。彼女は本当の神様を知ったわ。この世で人間が信じてる神様なんて、自分たちが苦しみから逃れたいがためだけに創っただけの幻にすぎない。本当の神様は人間が想像しているよりはるかに厳しいものよ。人間が基準なんてこと、端から考えてないからね。ホーント、人間って、ワカラナイわ~。」


「……分かってるくせに。」


「何か言った?ツキ?」


「別に何も。」


 7人の神継たちはだんだん明るくなっていく空の中で歩いていった。しかし、世界を救う七天神の魂を受け継ぎし7人の物語は、まだまだ序章にすぎないのであった。


 自らが唯一味方とする“神”の望みが叶う、その日までは。


                  第1頁 終

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