アオとアメ
ふと、目が覚めると、知らない駅のホームに一人で立っていました。
私の手には、赤い切符が握られていました。
† † †
「アメちゃんの切符は赤いんだね」
私は、自分の手に握られた赤い切符を眺めた。
アオくんの手に握られた切符とは違う色だ。
「アオくんの切符はふしぎな色だね」
「うーん、確かにね。青いような白いような……」
私の切符とは違って、とてもきれいな色だ。私はその色が好きだった。でも、私の切符は血で塗られたような嫌な色だ。
「アオくんも、駅に来る前の記憶が無いんだよね?」
「うん、何も思い出せない」
二人とも、駅に来る前の記憶がすっぽりぬけていた。
他にこの列車に乗っている人も見つからなかった。
「アメちゃん、この列車がどこに行くのか、知ってる?」
「私も、何も知らない。この列車に乗らなきゃいけない気がしただけで」
「僕もそんな気がしただけで、なにも知らずに乗ったよ。うーん、どうしよう」
そんなこと言われても、私もどうしたらいいかなんて、わからなかった。
この列車には窓が無い。
外に出ることもできなかった。
だから、この列車がどこに向かってるかなんて、知る由もないのだ。
私たちはただ、お互いの切符を眺めることしかできなかった。
「……アオくんの切符、きれい」
……あれ?
今のは、誰が言ったのだろう。
「う~ん、そうかな……僕は赤が好きだけど」
アオくんの声が脳に伝わってくるとともに、さっきの言葉を発した主がわかった。
「やっぱり、なんでもない」
「……?」
他人の切符を褒めるなんてどうかしてる。
まあ、つまりはそれほど暇なのだ。
「私、寝るね」
「あ、うん。おやすみ」
「おやすみ」
この列車にはベッドがある。寝台列車なのかもしれない。
私は、木製のいすを離れ、ベッドに向かった。
「あ、ねえちょっと待って」
背中を伝い、頭の中にアオくんの声が響いた。
「僕の切符と交換する?」
私は、一瞬の逡巡のあと、答えた。
「したいけど……その切符は、アオくんのだから」
アオくんはちょっと悩んだ。
「うん、わかったよ。でも本当にいいの?」
悩んだあと、念を押すようにそう言った。
「アオくんは交換したいの?」
少し意地悪だが、私は質問で返した。
「う~ん、したい……かな?」
そんな曖昧な答えが返ってきた。
「したかったら、勝手にしていいよ。私は寝るから」
「……わかった。おやすみ」
「おやすみ」
――わかった。
その言葉がなにを示すかなんて、私にはわからない。
だって、それはアオくんの言葉だから。
私は、驚くほどすみやかに、夢の中へと旅立った。
――ふと、目が覚めると、知らない駅のホームに独りで立っていました。
私の手には、ふしぎな色の切符が握られていました。
その切符の色は、私の乗ってきた列車のような色をしていました。
その列車はブルーレインという名前らしいです。
その切符を使って駅の外に出ると、そこは岩と石が転がっているだけの殺風景な場所でした。
ふと、目を上に向けると、知らないはずの青い星が、雨のように泣いていました。