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魔王様の婚活事情  作者: りん
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青田買い

「はぁ~いい男いないわね~」

「いても関係ない・・・・・・グハアッ・・・・・・」


魔王が大きくため息を付いた。

懲りずに真実を告げようとしたラース、いつものように床を舐め気を失っていた。


「勇者でも襲いに来ないかしら」


この国では、魔人は一切勇者に手を出す事を禁止していた。勇者が国境を跨ぐと伝令が走り、村や街では通り去る日はシャッターを降ろして静観するのである。もし勇者一行が魔獣に襲われていたならば、こっそりと陰より手伝いをするほどだ。

それもこれもすべては魔王様の出会いの為である。


「そうだ!来ないならわたしが行けばいいんじゃない!」

「魔王様、勇者などはそこら中にいるものではございませんよ」

「知ってるわよ、それくらい。人族の国には冒険者っていう勇者予備軍がいるそうよ」

「はぁ、まあそうですが・・・・・・」

「どうせ後で勇者になってくるんだから、先に会いに行ってあげるのよ」





翌日、魔王とメイド長は人族の国に来ていた。

もちろん、2人は変身の魔法を使っている。魔王はいつものように角を隠し、メイド長はなんとか街の娘に化けていた。


だが、来てみたはいいが魔王は何も考えていなかった。

行けば出会いが転がっていると思っていたのだ、そんな訳がない。

ここでメイド長が作戦を伝授する、それは『魔王の好みの男性に指名依頼する』である。

依頼内容は゛ある程度の魔獣が出る道を通った先にある村に行く護衛″だ。本当に用があるわけではない、あるとすれば依頼する為の場所という事くらいか。


「素敵な案ね、さすがメイド長よ。そうすればイケメンで力もある男性と必然的にデートできるわけよね。そうね、私はある貴族のお姫様、あなたはメイド長って設定にしましょ」


設定を考えるのは得意な魔王。恋愛小説を山ほど読んでいるのだ。



冒険者ギルド内で、獲物探し・・・・・・じゃなくて魔王好みの男性を、目を皿のようにして探していた。

その必死な様子にギルド職員も冒険者も引いていた。最初は興味本位で見てくる者達が今や必死に目を逸らしていた。


待つ事数時間、メイド長が街で購入した本を1冊細かくチェックするようにして読み終えたところだった。

ギルドに入って来た男3人組に魔王は声をかけた。


「すみません、今からヘゲール村に急いで行かなくてはいけなくて・・・・・・護衛をお願いできませんか?」


それを聞いていたギルド職員と男3人組以外の冒険者達は心の中で突っ込んでいた。

〈数時間なんで目を血走らせて座ってたんだよ!〉っと。もっともである。


「ん?あぁ依頼を探しにきた処だったからちょうどいいが・・・・・・報酬はいくらだ」


ギルド内の微妙な雰囲気に戸惑いながらも興味を示す男達。

だが、報酬なんて細かい事は考えていなかった魔王。


「金貨3枚でございます」


常識人であるメイド長が答えた。金貨3枚とは通常では考えられないほどの破格である。本来ならせいぜい金貨1枚がいいところなのだ。

聞き耳をたてていた周りの冒険者は色めきだった、それは3人組も同様で大きく驚いた後に了承した。



借りてきた馬車の荷車には男2人と魔王とメイド長が乗り、一人が御者をしていた。

数時間考えに考えた設定を伝え終え、コトコト揺られていた。


「おい!ウルフが10匹程度が前方に出たぞ!」


御者の声に、飛び出る2人。


「お二人は中に居てください」


剣を抜きながら叫ぶ男達。


「きゃ~こわーい」


手を前に突き出しクネクネしながら間抜けた声で叫ぶ魔王。

これを叫ぶ為にわざわざ馬車から降りていた。


「「「なっ!馬車の中に戻ってくれ!」」」


魔王の様子に驚き叫ぶ男達、だが魔王は気にしない。


「こわーい」


それを満面の笑みで馬車から覗き見るメイド長。



続く事、数十分。

そこに新たな魔獣が襲いかかってきた。


「オ、オークキングだと!?こんな場所に出るなんて!ムリだ!逃げてくれ!!」


すでにウルフとの戦いで疲弊し、血まみれの男達が悲痛の表情で叫ぶ。


「きゃーこわーい」


壊れたラジオのようにクネクネしながら繰り返す魔王。

オークキングと呼ばれた魔獣はそんな魔王めがけて向かってきた。


「きゃーこわ———ドゴォーンッ————い」


突き出した腕が偶然にもオークキングの胸に当たり、穴が開いた、大きな穴が開いたのだ。



「「「ヒィィィィッ!化け物だ~~~!!」


男達3人は満身創痍なのにも関わらず、必死な表情でその場を走り去っていた。





「大丈夫だよ、魔獣は俺達が倒した・・・・・抱きしめられキュンッってする私。っていう予定がどうしてこうなったの・・・・・・」



城に帰宅した魔王が肩を落としてぶつぶつと呟いていた。

それをにやけ顔で見るメイド長。





人族の街道に置き去りにされた馬車の中には一冊の本が残されていた。


【魔王アンゴルモアの恐怖          著者 とある国のメイド長】

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