一望千頃②
軍艦に乗り込んだ4人の眼下には大地が広がっていた。
「ついでだから世界を一周して~」
「了解です、姐御」
その言葉通り、窓から見る地上は各魔王国、人族の各国、海、森が映り変わっていく。
「わ~すごーい、きれー」
「な、なあみく、この状況わかってる?エンド様を足代わりって・・・・・・」
「もーらーくん、いつものように呼んでくれなきゃやだー」
「み、みーたん?」
「エンドたんだって気にするなって言ってるんだからいいんだよ~ね~まーたん♪」
青い顔から赤くなったり元に戻ったりと忙しいラース。間延びした口調で状況を理解出来ていないのかバカな事を言い続けるミク。魔王をまーたんとは・・・・・・。呆れと蔑んだ目で見るメイド長だった。
魔王はというと「まーたん」などと呼ばれた事に気づかないのか……いや聞いてはいるようだ、必死にメモを取っていた。
「着きやしたぜ姐御」
魔王の旗の後を付いて船を降りたそこは・・・・・・白い神殿が立ち並ぶ街が見える場所だった。
「えっ?ここなに~?こんな場所見た事も聞いた事もないよ~」
はしゃぐミク、ドヤ顔の魔王、呆然とするメイド長とラース。
龍のエンドは欠伸をしながら寝そべっていた。
「め、メイド長・・・・・・もしかしてここは天界ですか?」
「今頃気が付いたの?・・・・・・それ以外ないじゃない」
「どどどどどどどうってるんですか」
「・・・・・・これが魔王様よ」
遠い目をして白昼に見える星を見上げる2人だった。
「わ~なになに~?なんか誰かきたよ~」
間の抜けたミクの声に2人が目を向けると、白金に身を包んだ騎士が数十人が2列になって向かってきていた。
そして5mほどの場所で止まると、一斉に膝を付き頭を下げた。するとその間から貫頭衣に身を包んだ壮年の男性が現れた。
「こ、これはこれはアンゴルモア女王様と龍神エンド様、本日はいかがされましたでしょうか?」
「その名前を呼ぶなと言ったでしょ!」
男性が魔王と龍に話した掛けた瞬間、魔王の怒声が響き渡った。
直後、ドスンッっと音がした、貫頭衣の男と騎士達が尻もちをついたのだ。
そしてどこからかカチカチと小刻みな音がする。
それは騎士達の震える歯の音だった・・・・・・龍エンドもだった。
「ももももも申し訳ございません!!」
一斉の土下座である。
「魔王様、本日は・・・・・・」
「ただの観光よ~」
「そ、そうですか、ではお好きなだけどうぞ」
それだけ言うとそそくさと立ち去ろうとする貫頭衣の男。
メイド長は謝罪をすべくその背に声をかけた。
「この度は誠に申し訳ございません・・・・・・普段も羊を取っていたりするようで……」
「い、いえ・・・・・・ご丁寧にありがとうございます」
「神様にもご挨拶したいのですが・・・・・・」
「神様ですか・・・・・・いや、ちょっと臥せっておりまして」
目の前にメイド長がいるにもかかわらず貫頭衣の男は怯えを含んだ眼で魔王の様子をチラチラ伺っている。
「も、もしかしてですが……うちの魔王様、何かしました?」
「・・・・・・」
答えない、ただ震えているだけだ。だが、これは肯定の証でもあった。
「魔王様!ちょっとここに!!」
嫌な予感がしたメイド長は説明を聞こうと魔王を呼びつける、その行為に貫頭衣の男とそれを待つ騎士達は再び尻を地落とし、それぞれ水溜まりを作っていた。
魔王の説明によると、ある日水浴びをしようと裸で川遊びをしていたら天界より神様が覗いて見ていた。それに腹を立て、天界に乗り込んでちょっとだけ説教をしたとの事だ。
「魔王様……説教とは何を言ったんですか?」
「花も恥じらう15歳の乙女の裸を覗き見してたのよ?だから、変態、ロリコン、幼女趣味、
デバガメって文句を言ったの」
「・・・・・・そうですか」
神様が下界の様子を見ていたら、突然魔王が天界に乗り込み罵詈雑言を浴びせたと。
そして騎士達を巻き込んで肉体言語で説教したのは間違いないだろう・・・・・・
「ふぅっ」とため息をついて謝罪しようとメイド長が顔を上げると、すでに天界の男達の姿は
なかった、水溜まりだけを残して逃げていた。
なんやかんやありながらも、景色を散策した一行。
「そろそろ帰ろうか」
魔王の一言により帰り支度をしている時だった。
「そういえば、魔王様ってアンゴルモアって名前だったんですね」
ラースはやはりラースだった。
緊張や衝撃が過ぎて一周したのかもしれない。
「あ、あーたんですね~可愛い~」
ミクはバカだが、空気の読めるバカだった。
だが魔王は怒らなかった。
頭がある事でいっぱいだったのだ。
「エンドたん、帰りもよろしくね」
「ヒィィィッ!あ、姐御、オイラなんかしましたでしょうか?」
手の中のメモから顔あげて言った魔王に龍は土下座した。涙を流しながら土下座していた。
「何を言ってるの?さ、帰ろ、エンドたん」
今日初めてメイド長の顔にはいつものニヤニヤが戻っていた。
3人を乗せた帰りの船はずっと小刻みに揺れていた。
それを持つ龍の尾はいつもより長かった、その尾の先は人の形だったらしい。