結婚招待
「魔王様、招待状が来ております」
「誰から?なんの?」
「隣国のガルス魔王様よりです」
「#また__・__#なの?」
「#また__・__#です」
この世界の地上は50%を魔族が支配し、30%が人族、残りは未踏破地域と呼ばれており、魔族には4人の魔王が存在し、それぞれに国を築き納めている。
4人の魔王は争う事もなく、相互不可侵条約を結び平和を享受している。
人族だけは例外で、支配地域を増やそうと目論見、勇者や軍などを頻繁に魔王国に送り込んでいた、一切成功する事はないのだが・・・・・・
「何人目だっけ?」
「58人目でございます」
「さすがに悪食と言われるだけあるわね」
悪食とは、ガルスの支配地域で魔獣が氾濫し暴走したのを自らが先頭に立ち鎮圧した際、獅子の顔を持つ彼はその牙で魔獣達の命を絶ち、全身を血で染めた事に由来する。ただ平和な現在では、手当たり次第に手を付け、夫人として迎える事を揶揄していた。
「本当に悪食でございます。私も御会いする度に声を掛けられており困っております」
「・・・・・・」
「城内のメイド及び勤務女性全てからも口説かれたっと聞いております」
「・・・・・・」
「どうなさいました?」
「わわわわわわわわわわ私の方から願い下げよ!あんな奴!」
「そうですよね?あんな節操もない男なんて願い下げですわよね?因みに今回の新夫人はオークだそうです」
「はあっ?魔物じゃない!」
「えぇ、「魔物でも女性に変わりはない、見た目じゃないんだ心なんだ」と言っているそうですよ」
「・・・・・・」
「ワタシタビニデタイ」
「えぇ、隣国へ伺いましょう」
あまりにも魔王が哀れ。
本当は魔王はそれなりにモテる、ただそれは写真や立体画像で見た場合や、その性格を他人より聞いた場合のみである。
あまりにも隔絶した圧倒的な魔力を内包する魔王、それを目の前にした時、男は強ければ強いほどに恐怖を感じ身体が硬直し、゛死“を感じてしまうのだ。それ故に魔王が望むような男は現れない。
ただ、その魔力を隠す術もあるのだが、面白くないので今は言わないメイド長だった。
「そういえば、ガルス様にお渡しする物はお決まりなんですか?」
「ん?あぁ決まってるわよ、毎回一緒だし」
「そういえば、私見た事ありませんわね、魔王様からのご祝儀を」
「そうだっけ?あっ、大きいからいつも先に贈ってるんだったわ」
魔王に付き添って隣国の結婚パーティーに赴く事50回、一度も目にした事がメイド長はなかった。
4魔王の間では、お互いの結婚の際金銀や通貨でのご祝儀は禁止していた、そして夫人ではなく魔王本人が喜ぶ物を送ろうっとなっている。
「どんな物をお贈りになっているのですか?」
「編み物よ」
「えっ?編み物?魔王様が?本当に?」
当然の疑問である。料理といって肉の丸焼きをドヤ顔で作る魔王の編み物?
「失礼ね!出来るわよ編み物くらい」
「し、失礼致しました。ぜ、是非今回は贈る前に見せて頂きたいのですが」
「ふふん♪いいわよ」
またしてもドヤ顔である。
この顔は危険だ・・・・・メイド長は内心震えていた。
「出来たわ!」
ドヤ顔で呼びにきた魔王に付いて行くと・・・・・・訓練場、そこには直径20m程の大きな白い毛玉があった。
「・・・・・・これは?」
「編み物よ?」
目眩を感じながらふっと訓練所の端を見ると、丸裸にされた頭上に金色の輪を浮かべた巨大な羊が数十頭震えて鳴いていた。
「あ……あの羊は?私見た事がないんですが……」
「あれ?あれはよく飛んでる羊よ」
「ど、どうやって捕まえたんですか!?」
「え?紐に石を付けて、空に飛ばして引っかけるのよ。やってみる?」
「い、いいです・・・・・・」
まさか天界にまで迷惑を掛けているとは・・・・・・ただ、謝りたくてもここ三百数十年何故か地上に一切顔を出さないので謝りようもない。
「これをガルスの前に転がしてあげると目をキラキラさせて喜ぶのよ」
まさかの他国の魔王を猫扱いである。
そして羊の毛を紡いで毛玉に出来る能力があったのには驚きだ、残念だけれども。
考えないようにしよう・・・・・・
「えっと、贈る手配をしなければなりませんね」
「えっ?このままいつも贈ってるから大丈夫よ?」
「包まないんですか・・・・・・いや、飛竜便とかのですよ」
「うん、だからここからこうやって・・・・・・・よいしょーっ!!」
頭を抱えて問うメイド長に魔王はドヤ顔のまま、毛玉を持ち上げ放り投げた。
白い毛玉は綺麗な放物線を描きながら空を飛んでゆく。
「この角度で投げるとちょうど城の前に着くのよ」
「そう・・・・・・ですか・・・・・・私ちょっとお手紙を書いて参りますので・・・・・・」
謝罪の手紙を書かなければとため息を付きながら歩き出すメイド長。
そしてある事に非常に納得が出来ていたのだった。
「どうして毎回ガルム様の支配する全ての、末端の兵士までもが、怯えた表情で魔王様を見る理由はこれだったのね」