女子力上昇
「魔王様、女子力をあげましょう」
「女子力?」
「そう女子力です」
メイド長の提案に魔王は首を傾げた。
「まずは料理ですね、料理が出来る女の子はモテます」
「そ、そうなの?」
「そうですよ、想像してください、戦いに傷つく男性・・・・・・そこで回復魔法をかけた魔王様は美味しい料理を作って出す・・・・・・「ありがとう、嬉しいよ」と抱きしめる男性」
「そ、そ、それはいいわね!」
想像を膨らませ、顔を赤く上気させる魔王。
それは相手がいてこその話、その相手が見つからない事が問題なのだが、魔王の頭の中の恋愛ストーリーは結婚式にまで発展していた。
「やっぱり白のウェディングドレスがいいわね~」
「何の話をしているんですか?まずは厨房に向かいますよ」
呆れた目をしたメイド長は魔王の背中を押して厨房へと向かった。
未だ魔王の頭の中は想像が爆発していた。「南の島で2人でバカンス・・・・・・」現在ハネムーン中のようだ。
厨房では魔王の突然の来訪に殺伐とした雰囲気となっていた。
「ま、魔王様、私達の料理に何か問題が?」
震える身体に青い顔で料理人が尋ねる。
もし何かあったら職を失う、いや、殺されるかもしれないのだ。
「いつも美味しいわよ」
「で、では何用で?」
「料理を作ろうと思って」
「えっ?魔王様が?」「なんの冗談だ?」「やはり味がお気に召さないのでは?」
料理人達が顔を見合わせる。
「ど、どうして突然・・・・・・」
上目遣いで恐る恐る尋ねる料理人。
「それはですね、魔王様のじょ・・・・・・」
魔王の動きは早かった、メイド長の口を手で押さえつけた。
さすがに恥ずかしかったらしい。
「い、いいわ、またね」
モガモガと口を動かすメイド長を引きずるようにして謁見場へと戻った魔王。
だが困った、城の厨房が使えないとなると他に料理できる場所が思いつかない。
「魔王になる前は軍におられましたよね?その時の食事はどうされていたんですか?」
悩む魔王にメイド長は尋ねる。
「食堂で食べるか、自炊ね。寮で作ってたわ」
「そうですか、では私の自宅で作ってみましょうか」
「いいの?『女子力アップモテモテ大作戦』決行ね!」
恥ずかしい名称をつけていた魔王様。
それを呆れた目で見つつもメイド長は悩んでいた。
軽い気持ちで自炊できるならばと思って「自宅を貸す」なんて言ってしまったが、本当に大丈夫なのだろうか?仕えて数十年、料理のりょの字も出なかった魔王にできるのか?だがもう仕方がないっと覚悟を決めた。
「ただ自宅には食材は御座いません、ですので調達してから向かう事になります」
「わかったわ、じゃあ得意料理をご馳走しないとね!行きましょう!」
飛竜の上で仁王立ちの魔王。
その横にいるメイド長の顔は?マークが溢れていた。いつもの冷静沈着でにやけた笑みを浮かべる姿はどこにもなかった。
「なぜ、私たちは飛竜に乗っているのでしょう?」
「肉よ!」
どこかの街の名産を買いに行くのであろうか?
「見えたわ!先に行くわね!」
魔王は叫ぶと同時に飛竜より飛び降りた。慌ててメイド長が下を見ると、そこには伝説と言われる、約30mはあろう幻の巨獣〝暴れ地獄牛”に飛び蹴りをしている魔王の姿があった。
飛竜と共にメイド長が地に降りると、すでに生命活動を終え横たわる暴れ地獄牛と満足気な魔王の姿があった。
「に、肉ってこれの事ですか?」
「そうよ!」
困惑するメイド長にドヤ顔の魔王。すでに絶滅したと言われていた巨獣が目の前に・・・・・・あの慣れた様子からすると、絶滅したんじゃなくて魔王が絶滅させているのであろう事が想像に難くない。
「どうやって持って帰るんです?」
「そうね、持って帰るのも大変だからここで料理にしましょう」
聞き間違いだろうか?ここで料理とは?ここは前人未踏と言われるはずの森奥深く。キッチンなんて見当たらない。
「ま、魔王様?いつも〝寮のキッチン”で調理してたんですよね?」
「えっ?そうよ〝寮にある訓練場”で作ってたわ」
今確かに「訓練場=キッチン」と言い放った。
頭を抱えるメイド長の横で、魔王は嬉々とした表情で大木を手刀で切り倒している。
「ま、魔王様、私少し頭痛が・・・・・・」
「それは大変ね、回復魔法をかけてあげるから少し寝てなさい。料理が出来たら呼ぶわよ」
「・・・・・・はい」
「出来たわよ~」
肩を揺すられ目をあけたメイド長。
そこには幻の巨獣の丸焼きが鎮座していた。
「美味しいわよ、食べて元気出してちょうだい。あっ、惚れちゃダメよ」
ドヤ顔の魔王。
丸焦げかと思いきや、中はしっとりとし肉汁が溢れていた。
確かに美味しい・・・・・・味は美味しい。
「魔王様!そこに正座~~~~~~~!!!」
紅く焼ける夕日差す空。
一匹の飛竜が飛んでいた。
その背には仁王立ちのメイド服の女性が一人。
飛竜の腕には紐が握られ、その先にはすすり泣く女性が縛られ揺れていた。