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魔王様の婚活事情  作者: りん
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破顔視察

「まおうさまかわいいー」

「まおうさまきれー」

「びじんさーん」

「しわみつけたー」

「おれ、ぜったいおむこさんになるんだっ」


 魔王、満面の笑みである。

 時折、不穏な言葉が混じっていたりするのだが、それよりも溢れる誉め言葉によだれを垂らさんばかりに喜んでいた。

 本日は、魔王、メイド長、執事長のいつもの3人と、数百の兵は城下最大にして唯一の保育園に着ていた。魔族の身体能力が高い為、その大きさは10km四方ほどの大きさである。

 兵士が来ているのは、子供を人質に取られたら困る為だ。魔王ならなんとかしてしまうとは思うのだが、国民への安心アピールも含んでいるので致し方ない。


「みんなちゃんと勉強してるかな?」

『うん!』

「わーすごいね~、頭いいねー」

「うん!まおうさまもかわいいよー」

「君はカッコイイね~」

「まおうさまもぼくのママよりすごくきれー」


 園児達に声を掛けた後、一人一人を褒める魔王。

 さすがに一応国王なだけある・・・・・・違う、明らかに褒め返されるのを待っていた、自尊心を満たす為に園児を褒めているだけだった。


 保育士から話を聞き、授業風景を見る。

 視察は年に一度、毎年行っている常時行事だ。

 保育園から始まり、専門を勉強する大学まで教育課程は全て国家負担であり、生徒達は無償で受ける事が出来る。

 そもそも魔族は人族と比べ、生が長い事もあるせいか妊娠率が低く、子が少ない。それ故に厚い保障を敷いている。


「いいわね~子供達は素直で可愛くて」


 素直という言葉を必死に強調する魔王。よっぽど褒められる事に飢えているようだ。


「それはよう御座いますね、次は小学校に参ります」

「もう少しここで視察をしましょ」

「・・・・・・かしこまりました」

「わーい、メイド長ありがと」


 次の場所への移動を促すと、一緒に過ごしたせいなのか保育園児のように駄々をこねる魔王だった。いつもなら有無を言わせず、魔王を引きずってでも移動するメイド長だが、本日は違った、認めたのだ。その様子に驚いたのは執事長だ。そしてそっと数歩後ろへ下がった、何かを予感して。


「女の子集まってください」

 わらわらと女の子達がメイド長の元に集まってくる。

 その様子を見ながら、魔王は満足気な顔で残された男の子の元へ歩んでいく。まるでメイド長が自分の為に逆ハーレムを作ってくれたと言わんばかりだ。

・・・・・・そんなわけがない。


「みんなは彼氏とかいるのかな?」

「いる!」

「けっこんするの」

「じゃあ、その子の所へ行って手を繋いでね~。いない子は、好きな子のところに行こうか」


 メイド長の声にギョッとする魔王、だがまだ余裕があった、保育園児に彼氏などいるはずがないと高を括っていた。

 だが、魔王の思いとは裏腹にみるみる内に100人ほどの園児の中から数十組のカップルが出来ていた。男の子は恥ずかし気に、女の子は少々勝ち誇った顔をしていた。

 カップルにはなっていなくとも、男の子の傍には女の子がいたりする、まぁ取り残されたぼっちな男の子がいない訳ではないが。

 異世界、魔族の国でも女の子はませていた。


「あれー?さっき魔王様と結婚するっていってなかったっけ?」


 女の子の1人と手を繋ぐ男の子に、メイド長が嫌味っぽく問いかけた。

 すると、女の子は握った手にぎゅっと力を入れ、睨みつける。


「リップサービスよね?」

「うん・・・・・・まおうさまがけっこんできなさそうでかわいそうだからいってあげた」


 どこでリップサービスなんて言葉を覚えるのか・・・・・・すでに尻に敷かれているようである。

 ただ男の子も満更ではない顔だ。


「・・・・・・」

「さて、他の子にも質問をし「次の視察が待ってるわ」ま・・・・・・かしこまりました」


 耐えきれないようだ、魔王の顔は赤かった。




 


 小学校でも褒められ、保育園での出来事を忘れたかのように調子に乗った魔王。結局、最後は保育園と同じ下りで移動する事となった。

 中学校に移動すると、さすがにもう自意識や思春期なのか、男の子は褒めてくれない。チラチラと隅から魔王を見るだけである。だがそれでも、その様子にご満悦な魔王。女子は相変わらず褒めていた、ただその内容はより具体的になっていた。「肌が」「スタイルが」「化粧品は」「ダイエットは」などなどだ。

 高校へ移動しても、同じような感じだ。男子は女性への意識から照れ、女子は美容に対してより具体的になる。

 ただ、問題は起こった。それは生徒からの質問だった。


「魔王様はなぜご結婚されないのでしょうか?それはこの国の交際からの成婚率などと関係しているのでしょうか?また、昨今では草食系男子など、男性の女性化が進んでいる事には関係するのでしょうか?」


 かなり真剣に考えている女子であった。


「・・・・・・」


 魔王は固まっていた。

 まさか〝結婚しない″のではなく、〝結婚できない″と答える事など出来ない。

 その様子を見ていたメイド長が口を開いた。


「代わりに私が返答させて頂きます。魔王様のご結婚と、昨今の風潮との因果関係はわかりかねます。また、交際からの成婚率についてですが、現在この国では、貧困から派生する結婚などはほぼない事から、交際より結婚という過程を経るのが一般的であり、ほぼ占めております」


 裕福な家庭への借財から娘を嫁にやる、貴族が無理矢理召しあげる等は現在この国においてはない。政策により国民はそれぞれ豊かであるし、貴族制ではない為によくある無理矢理町娘を娶るなどは存在しないのだ。


「では、なぜ魔王様はご結婚されないのでしょうか?力強くお綺麗な魔王様が結婚されないと、私達普通の女子は不安になるのですが・・・・・・」


 これにはメイド長も困った、逃げ道を塞がれた形だ。〝結婚できない″とは言えなくなってしまったのだ。

 

「魔王様は・・・・・・ご理想が高いので御座います」


 捻りだした答えに、質問をした女子も・・・・・・魔王も納得した顔をしていた。魔王に至っては満足気だった、『ここに答え見つけり』である。

 そしてその顔にイラっとしたメイド長は不敵な笑みを浮かべた。


「ご理想とは、魔王様より強く、イケメンで、優しく、ある程度の金持ちで、知性的な男性だそうです」


 満面の笑みで大きく頷く魔王。

 だが、その笑みは長く続かなかった、集まっていた生徒たちの声が聞こえた為だ。


「えっ、無理じゃん」

「一生独身確定だね」

「マジヤバイ」



「・・・・・・カエリタイ」

「まだまだ時間は余っておりますよ魔王様」


 真っ赤な顔で俯き呟く魔王に、満面の笑みを浮かべたメイド長。

 なぜか笑顔でメイド長に小さく手を振る女子数名。

 その傍で小さく震える執事長だった。

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