表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王様の婚活事情  作者: りん
23/27

切磋琢磨

「ねえ、メイド長は結婚しないの?」


 いつものように和気藹々と時が過ぎていた謁見場、魔王の一言に因って場は静まり返った。

 執事長は不自然に目を逸らし俯いている。

 魔王とラースは興味津々といった表情を隠そうともせず、メイド長をガン見していた。


「そうですね・・・・・・したくない訳では御座いませんが、こればっかりは相手の気持ちも御座いますので」

「そうよね~まずは相手探さないとだものね」

「それは必要御座いません」

「「えっ」」

「「相手がいるっていう事?」」


 メイド長の答えに呆けた顔で同じ台詞を被らせる魔王とラース。


「ええ、お付き合いしている方はおりますよ」

「「えっ?」」


 2人の返答は失礼極まりないが、メイド長は優し気な微笑みを崩さなかった。

 いや、ほんの少しだが眉がピクリとした。

 それに気づいたのは執事長ただ一人、そこにうすら寒い何かを感じていた。


「ど、ど、どこで?いつ?わたし聞いてない」

「随分と昔ですよ、言ってませんでしたか?」


 さらりと躱すメイド長、それを射殺さんばかりの瞳で見つめる魔王。


「ねえ、どんな人よ、見せて」

「プライベートですので」

「いいじゃない!見せてよ、お願い、どんな人?」

「・・・・・・普通の男性ですよ」

「気になって仕事が手に付かなくなるわ」

「・・・・・・わかりました」


 執拗な魔王の請求に、メイド長が折れた。

 しぶしぶといった表情で立体映像の呪文を唱える。


「エ、エルフなの!?」

「はい、そうで御座います」


 そこに映っていたのは、中世的な顔立ちで、美しく光る金色の髪を肩まで伸ばした長身でスラリとした体形のエルフだった。


「すごいイケメンじゃない・・・・・・」

「ありがとうございます」


 微笑みを崩さず、何事もなかったように映像を消すメイド長。

 魔王と他2人は固まっていた。


「何を生業とされているのですか?」

「恥ずかしい話なのですが、吟遊詩人として世界を漫遊しております」


 一早く現実に戻った執事長の質問に、言葉とは違い、恥ずかしさを微塵も感じさせない口調で答えるメイド長。


「いいわね・・・・・・いいな・・・・・・」

「ゾンビとかじゃないんだ」


 魔王は心底羨まし気な表情で呟き、ラースは不穏な事を呟いた。


「ラース!お前はメイド長のお相手の方は血が通ってないとでも言いたいのか?」


 ラースの言葉に叱咤するような口調で執事長が叫んだ。

 だが、メイド長の表情は一切変わっていなかった。

 チラリとそれを見た執事長は、自分が失敗を犯したことに気が付いた。保身の為にラースを責めたつもりだったが、フォローのようでただラースの言葉を解説しただけになってしまった事に。


「ねえ、どこで知り合ったの?」

「幼馴染で御座いますよ」

「幼馴染・・・・・・」


 昨日の幼馴染全員が結婚する事を思い出したのか、遠くを見つめて凹む魔王。


「学生時代ずっと一緒だったもので、腐れ縁のようなものでもありますので」

「いいわね・・・・・・!!思い出した事があるわ」


 突然ハッとした表情で叫ぶ魔王。


「私が魔王に就任した時のトーナメント覚えてる?」

「「「もちろんで御座います」」」


 3人がユニゾンで首肯する。


「その時に、決勝で私と戦った相手いたじゃない?剣使いの」

「「「はい」」」


 魔王決定トーナメントとは毎年開催される、魔王を決める戦いである。魔王とは国で一番強い者がなるものと決まっている為である。優勝者にその時の魔王と戦う権利を与えられる。

 魔人は強力な魔力を持つ、その為自らの肉体を武器として戦う者が多い。現にここにいる3人も、強弱はあるものの、剣ではなく魔力で強化した手刀を使う。その事から剣使いはかなり珍しい存在であった。


「その彼、名前は忘れてしまったけど今どうしてるのかしら」

「突然どうされたので?」


 なぜ今更トーナメントを思い出したのか?

 3人が同じ疑問を抱えていた。


「私の場合は学生時代じゃないけど、兵士時代1年間毎日一緒に切磋琢磨したのよ」


 魔王は一般兵士として勤務していた、だがたった1年だけだった。

 本人曰く、腕試しのつもりでトーナメントに応募したらしいのだが・・・・・・・結果は、振り下ろされた拳に大地が大きく裂け、当時の魔王が悲鳴と共に落ちていった事で終わった。

 その日、その時、見ていた者は誰もが口を開いたまま固まっていた。


「それで?」

「うん、思い出したら結構いいおと・・・・・・国軍の為にもどこで何をしているのかと思ったのよ」


 明らかにいい男と言おうとした、話の流れから考えても彼氏候補にしか思えない。だが、誰も突っ込まなかった。


「かしこまりました、至急調べさせて頂きます」

 

 一応、国軍の為にというのも筋は通っていた為か、執事長が了解の意を印すと部屋を出て行く。


「きっと強くなってるわよね~強さに対してストイックだったし。それに成長していい男になってるに決まってるわ・・・・・・」


 何を想像しているのであろうか?

 魔王はにやけた表情でぶつぶつと呟きを漏らしていた。

 メイド長も同じ表情をしていた。




5日後


「魔王様、先日おっしゃっていた決勝で対戦された男性の事がわかりました」


 午後の謁見場でメイド長が報告を始めた。

 国の調査部に指示を出していたのは執事長のはずだったのだが、なぜかメイド長が誰よりも早く情報を入手していた。


「えっ?執事長じゃなくてメイド長?」


 同じ疑問を抱いたのか、魔王が不思議そうに首を傾げた。


「魔王様の為にと、私なりの伝手を使いまして」


 伝手とは何なのか?

 執事長は恐怖を覚えていた。


「そうなのね、で、どこで何をしているの?」


 あっさりと流す魔王、些細な事など気にはしない。


「先日お話ししたと思いますが、私のお付き合いしている吟遊詩人が詩を謡うほどのご活躍をされているそうです」

「活躍?」

「はい、武者修行の為に諸国漫遊されているそうなのですが、行く先々で魔獣に苦しめらている村や街を救ったりしているそうです」

「すごいじゃない」

「ええ、その為に救われた者達より「救世の魔人」と称えられているとの事です」

「素敵!ねえ、この国に戻って来て貰えないかしら?」

「そう言われると思いまして、飛竜籠を出し、先ほど到着されました。現在、当城広間にて控えていらっしゃいます」

「さすがね!すぐ会いましょう」


 嬉々とした表情で立ち上がった魔王。

 「かしこまりました」と迎えに行くメイド長の顔はにやけていた。


「お連れしました」


 声と共に入って来たのは、赤髪を後ろで一つに纏めた立派な体躯をした、まるで侍のような風貌の男だった。


「お久しぶりで御座います」

「本当に久しぶりね、活躍を聞いたわ」

「お恥ずかしい限りで御座います、陛下に比べましたら私などは塵にも等しいかと・・・・・・」


 膝をつき、首を下げたまま答える男。


「頭を上げて話して」

「ではお言葉に甘えまして・・・・・・」

「急に一緒に切磋琢磨していた時に事を思い出してね」

「・・・・・・切磋琢磨?・・・・・一緒に?」

「今日は剣は持って来てないの?」

「陛下にお会いする為、預けております」


 上気した顔でテンション高く、饒舌に話す魔王。

 対して、時折怯えた瞳でそれを見る男。


「持って来て、剣舞?見せてよ」

「・・・・・・いえ、お見せできるほどの程のものでは」

「じゃあ、久しぶりに手合わせする?」

「・・・・・・私は兵としてはもう勤務しておりませぬ故、どうぞご勘弁を」

「いいじゃない、軽く・・・・・昔みたいに・・・・・・ね?」


 男の様子が明らかに変わった。

 小刻みに震え、額に大玉の汗を浮かべている。


「わ、私、何か何か・・・・・・お気に触れるような事をしたでしょうか?」

「え?何言ってるの?」

「もももももも・・・・・・もうサンドバッグだけは・・・・・剣も大事なものなんです、折られたり丸められたりだけは・・・・・・何卒ご勘弁を・・・・・・」


 ついに泣きながら叫び出した。

 侍はどこにいったのか?その様子はまるで獄門台の前に立つ囚人のようだ。


「えっ?何言ってるの?もう~」

「・・・・・・」


 魔王は不思議そうな顔だ、冗談と受け止めているようだ。


「そういえば、結婚はしたの?」

「いいいいいいえ、まままままままだで」

「そうなんだ♪私もよ♪」

「でででででででしょうね」


 大きく首を縦に振ったと思ったら、その勢いで白目を剥いて気絶しながら倒れる男。


「・・・・・・でしょうね?でしょうね?」


 問い詰める相手は気絶している為、言葉を繰り返す魔王。



「結婚できる訳ないだろ、なんてそのようなヒドイ言葉、魔王様に失礼ですよ執事長にラース!」

「「えっ?」」


 2人に向けて言い放ったメイド長、その顔は大きく笑みで満たされていた。


「「「ぎゃあああああああああ」」」


 瞬間、2人は驚きで目を見開いたまま、自らの頭で床に大きな穴を開ける事になった。

 

 静寂と鳴き声が響く謁見場。

 そこには満面の笑みのメイド長だけが小さく笑い声を漏らしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ