勇者訪問
「最近勇者が来ない・・・・・・」
「うちはしょっちゅう来るけどな~」
魔王の呟きにガルムが首を傾げながら返答した。
現在魔王とメイド長、ラースは隣国であるガルムの国へと来ていた。
鍛え上げた軍の合同演習をする為である、決して魔王の「私に見向きもしない男共は全員地獄をみればいい」と自棄になった訳ではない・・・・・・ない?
「面倒くさいだけだろう勇者なんて、大して強いわけでもないし」
「いいのよ、そんな事は。ってどうしてうちだけ来ないのよ」
「えっ?それはお前の噂が広がってるからだろ?」
「噂?なにそれ」
「お前について書「ガルム様、奥様方はどちらに?」か・・・・・・」
魔王同士の会話には一切口を挟む事など本来は許されない。
だがそれでもメイド長は口を挟んだ事に、ガルムも魔王も一瞬違和感を感じてはいたが気にしなかった。所詮猫と魔王なのか・・・・・・
「嫁達は今な・・・・・・あっ、そうだ来月もう一人増えるから」
「はっ?また?今度はどんなの?」
「おう、異世界人勇者についてきた賢者だ」
「・・・・・・いいわね」
「おう、勇者は面倒くさいが今回はよかった」
「ますますいいわね・・・・・・でも異世界人勇者は面倒よね」
異世界人勇者とは、異世界から召喚された人間を勇者に仕立て上げたものだ。
大して強くもないが、価値観の違いや発想の違いなどから有用されている。
何が面倒かというと、〝魔王=悪″〝魔族=悪″と何故か信じ込んでいる為である。
どれだけ魔族は人族の国に攻め入る予定も気持ちもないと説明しても変わらない。それ故に野望ある人族の王達に利用されているのだが全く気付かない。
説明に納得したとしても、今度は人族の国に攻め込もうと言ってくる始末だ。
魔族の国々は領土を拡げなくとも豊かであり、安定しているのだ。
それこそ妻を59人に増やせる程に。
「面倒だな~アンの国では処理どうしてるんだ?うちは捕まえた後は基本好きにさせているけど」
「うちもそうよ、地下牢で説得した後は全員好きにさせているわよ」
退けても退けても次々に新しい勇者が魔王国にはやって来ていたため、地下牢はすぐに満員になる。その為、納得した者から順に人族の国に帰るか、ここで暮らすかを選択させていた。最初にある程度の生活資金を与えた後は放置である。基本的に魔王国の方が住みやすい環境である為、ほとんどの元勇者一行は一般市民として暮らしている。
「アンは結婚しないのか?」
「・・・・・・相手がいればね」
「・・・・・・いればいいな」
「・・・・・・」
「さ、さて俺は兵士達に混ざってくる」
自分で魔王に話を振ったくせに不穏なものを感じたのかそそくさと逃げようとするガルム。
「・・・・・・誰か紹介してよ、兵士でいいのいないの?」
「さ、さあ?本人達に聞いてみないとわからないが、今は演習だしな」
「そうね、直接聞いてみるわ!」
「それはやめ・・・・・・うわあああああああああ」
両軍の真ん中にガルムを放り投げた魔王は、嬉々とした表情でそこへ自ら飛び込んでゆく。
大きく土煙が上がる中、ガルムの上に仁王立ちになった魔王が大声で叫んだ。
「わたしのお婿さんになりたい人、この指とーまれ」
ラースは、兵士達は、その場にいた全ての者が目を見開き口を大きく開けて固まった。
メイド長1人満面の笑みであった。
先ほどまで激しい剣戟の音や歓声をあげていたその場所は今、恐ろしいほどの静寂が支配していた。魔王の言葉だけが木霊していた。
そしてしばらくした後、そこは演習場ではなく戦場と化した。
魔王1人対両国+ガルムの。
それは「元勇者とか受け入れなかったのを後悔しているかも?」とメイド長が近づいて囁くまで続いた。
「元勇者一行ですが、異世界の方々は基本集まって暮らしているようです。こちらの世界の者はそれぞれ国内に散っているようですね。その連れ達も同じです」
魔王はメイド長の言葉に従いアパートを探していた。
魔王国の考えに納得したとは言っても、元はこの国に刃を向けた者達である為、その動向は常時把握していた。
「ここ?」
「そうですね、このアパートに異世界人の男性が寄せ集まって生活しているようです」
周りとは一風変わった建物が立ち並んでいた。
日本風にいうと長屋である。
「こんにちは~」
「えっ?誰?誰に女が出来た?」「もしかして俺じゃね」「獣人でモフモフがいいな」「ハーレムルート遂にきた」
魔王の挨拶に対して、勘違い甚だしい台詞を口にして男達が6人程表に出てきた。
その姿は全員が黒髪に平べったい顔をしていた。
「あれ?こんだけ?」
「「「「「「ゲッ・・・・・・魔王」」」」」」
魔王が1番候補に挙げていた金髪の異世界人はそこにいなかった、だがまだマシな顔面もいると気を取り直す。
「ねえ、考え直した?」
手を腰に置き胸を張る魔王、ここぞとばかりに尊大な態度である。
「やっと俺の魅力に気付いたか」「俺が明日から魔王か」「まあ、モフモフは妾でいいか」「幼女じゃねえけど我慢するか」「鬼嫁とかムリ」
それぞれに勝手な事を言い続ける男達。
ラノベの読み過ぎだとここに普通の日本人がいたら突っ込みがはいるところである。
だがいるのは魔王とメイド長だ。
彼氏が欲しくてたまらない魔王でもさすがに許せる言葉であるはずもない。
「誰が鬼でババアで妾だって?」
「・・・・・・もっと楽しみたかったのに」
長屋が更地になったのは言うまでもない。
その際、メイド長が鉄拳を振るっていた。「ツマラン」と呟きながら。




