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【後日談3】空飛ぶ島と竜の帰還

『しっかり掴まっていろ』

「うん」


 竜姿のイチの背に、しっかりとしがみつく。

 イチが羽ばたく空の先に、縦に裂けた穴が出現した。


 向こう側には不思議な色をした、星空のような空間が広がっている。

 この場所は、今いる現実と少しずれた場所らしい。

 ここを通ると、短い時間で目的地に辿り着けるのだという。


 イチの両親に結婚の報告をしたい。

 わたしのお願いに、イチは渋ったけれど頷いてくれた。

 仲の悪い父親はともかく、母親には結婚したことを報告したいという気持ちがあったみたいだ。


 しばらくして、星空のような空間を抜けた。

 その先は青空の上で、小さな島が浮いているのが見えた。


「空の上に島があるよ、イチ!」

 興奮して、つい叫ぶ。

 どうやら、あの島がイチの両親が住んでいる場所みたいだ。


 近づいてみると、島は結構大きい。

 面積の七割は森で、海まである。

 島の縁の部分がぼやけていて、海は途中で途切れていた。まるで地図から、丸く切り取ってきたかのようだ。


「これどうなってるの?」

『父さんが作った島だ。空間を切り取って貼り付けたといっていたが、よくわからない』


 ずっとこの島で暮らしていたイチにとって、大したことではないみたいだ。

 島の周りにはシャボンのような膜があって、どうやって入るんだろうと思っていたら、イチはそのまま突っ込んだ。


「ひゃぁ!?」

 静電気が起こったように、バチッと軽い痛みがわたしの体に走った。

『どうした!?』

 わたしの声にイチが驚いた声をあげる。


「だ、大丈夫。あの膜に少し弾かれたみたい。よそ者だからかな?」

「すまない。そんな仕掛けがあるとは思わなかった」


 海岸に降り立ったイチが、人型になった。

 わたしの体に触れてくる。

 無事を確認すると、ほっとしたように胸をなで下ろす。


「大丈夫そうだな。よかった。家はこっちだ」

 イチの後に着いていけば、少し先に一軒家があった。

 素朴な作りの家だけれど、庭先には畑もあって手入れが行き届いている。


「イチ、帰ってきたのか!」

 ここがイチの育った場所なんだね。

 そんなことを考えながら歩いていたら、嬉しそうな声がした。


 二十代後半くらいの男性がイチに駆け寄り、抱擁を交わしていた。

 男の人は短い赤い髪に、赤い瞳。

 背中には翼と尻尾があり、それもすべて赤。

 背が高くてがっしりとしていて、まるで炎のようなエネルギッシュさがある。

 鋭い眼光が印象的な人で、イチより年上に見えるからお兄さんかもしれない。


「ただいま」

「おかえり。久々だな」

 目を細めて、お兄さんはイチの頭を撫でる。

 イチは気持ちよさそうに身をゆだねていた。


「花嫁つれてきた」

「ちょっと待って、花嫁ってどういうこと!?」

 イチは少々マイペースだ。

 お兄さんがうろたえていた。


「フェリ、これが俺の母さんだ」

 イチが少し後ろにいた私に、声をかけてくる。


 ん? ちょっと待って。

 お母さんって、イチは言った?


 私と同じ赤い髪に、赤い瞳。

 それは『勇者』だった者の特徴ではあるけれど……。

 髪が短いこととその彫りの深い顔立ち。

 体格や眼光の鋭さから、男の人だと思い込んでいた。

 

「はじめまして、フェリです」

「その髪と目、私と同じ……?」

 イチのお母さんが目を見開く。

 自分と同じ髪と目の色が、目にとまったようだ。


「私以外の光の子供達リヒトチルドレンは、死んだはずじゃなかったのか!?」

 光の子供達というのは、勇者の別名だ。

 もうその名前で呼ぶものはいないけれど、昔はそう呼ばれていたのだと両親から聞かされていた。


「いやそもそも、イチに花嫁ってどういうことだ!? 待ってくれ、少し理解する時間がほしい!」

 ばさばさと、イチのお母さんの翼はせわしない。

 連れられるようにして、イチと私は家へと案内された。



 ◆◇◆


「つまり、イチは外でフェリちゃんと出会って、花嫁にしたというわけか」

「そうなる」

 出会いから順を追って説明すれば、イチのお母さんは頭を抱えた。


「この前の勇者に関する質問は、この子の為か」

「母さんが宝具の力を抑えて生き延びた方法を知れば、フェリを助けられると思った」

 教えてはもらえなかったけどと、イチは恨みがましく付け加える。


「竜になったから、平気だったとは言ったぞ」

「相手を竜にする方法は教えてくれなかった。おかげで、父さんから聞くはめになった」


「具体的な方法を、私はあいつから聞いたわけじゃないから間違ってる可能性があった。それに私の予想が正しければ、相手を竜にする方法は……子供に言えるようなものじゃない。そうだろ?」

 イチのお母さんは、顔が真っ赤だ。

 確かに人間の花嫁を竜にする儀式は、人に言い辛いものがあった。


「しかし、イチもそういう年頃だったんだな。いや、もう生まれて大分経つし、成人もしているから当然なんだが……お前は誰とも関わりたくないと、島を出ていったんじゃないのか」

「俺も、動物だけいればいいと思ってた。フェリに出会うまでは」


 イチがわたしに視線を向けてくる。

 ほほえみ返せば、イチのお母さんは「そうか」と呟いた。


「正直驚いたが、嬉しい。ずっと一人は寂しいからな。特に竜はどこまでも生きて、終わりが果てしない。イチをよろしく頼む」

「はい!」


 頭をさげられて、頷く。

 イチの花嫁として認められたことが嬉しかった。



「それにしても、光の子供達……いや、勇者の末裔達が生きているとは思わなかった。魔王が国を消したときに、全員殺されたと思っていたからな」


 イチのお母さんは、この島から長い間外に出てないらしい。

 今の世の中がどうなっているのか。

 そして、勇者の末裔の置かれた状況を話せば、驚いていた。


「私のせいで、辛い思いをさせてしまったな。これも全て、私が弱かったせいだ」

 イチのお母さんは、自分を責めているみたいだ。

 悪かったと頭を下げてくる。

 

「母さんのせいじゃない。全部、父さんが悪い」

「そう……だな」

 断言するイチに対して、イチのお母さんは歯切れが悪い。


「イチのお父さん、本当に悪い人なんですか?」

 出されたお茶を飲みながら、そんな質問を投げかけてみる。

 イチのお母さんは、迷うようなそぶりを見せた。


「あいつは……魔王だ。私はあいつを殺すために生み出された。あいつをいつか殺すのが、私の使命なんだ」

 その答えは、微妙にずれている気がする。

 黙っていたら、ゆっくりとイチのお母さんは続けた。


「だが、あいつは魔族に利用されていた可哀想な奴でもあるんだ。親元からさらわれて、自分が竜だと知らずに育てられた。竜にとって大切な宝玉を奪われ、魔族に虐げられながら、命を握られた状態でずっと魔王をしていた」


「……そんなの、はじめて聞いた。自分から進んで魔王をしてたわけじゃないのか」

「あいつは、自分のことを何も言わないからな。分かってもらおうとも思ってない」

 驚くイチに、イチのお母さんは首を横に振る。


「私の国を滅ぼしたときもそうだ。どうしてそんなことをしたのか、理由を話してくれればいいのに。いつもあいつは、肝心なことを言ってくれない」

 強い苛立ちと不満が、その声からは感じられた。

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